時は、2089 年。場所はベルリン。壁は決して崩壊しません。そして今、壁が原因で何か不吉なことが起ころうとしています。タイムトラベルをする諜報員であるプレイヤーだけが、それを食い止めることができます。クラブ通いをして任務を遂行するのです。
風変りな設定に思えるかもしれませんが、Inbetweengames は思いもよらない設定から大きなテーマを紡いでいった経験があります。喪失を表現した彼らの初のゲーム、『The Mammoth:A Cave Painting』 を見ればわかります。この作品ではマンモスの避けがたい悲しい運命を表現していま
テクノワールな雰囲気を持つアイソメトリックな戦略ゲーム、All Walls Must Fall は、その見た目やメカニクスで XCOM、Braid、Rez、Syndicate などを思い起こさせるようなゲームです。しかし、メッセージ性という点では、このゲームは完全にベルリンのテクノ シーンの産物です。
デザイナーの Jan David Hassel 氏が、このゲームについて、またセックス、バイオレンス、政治が渦巻くその複雑な設定について語ってくれました。
戦略ゲームを作りたいと思ったきっかけは? 等角投影法 (アイソメトリック ビュー) を採用した理由はありますか?
初の大作をどんなものにするかを決めようとしていたとき、ゲーム制作の世界に入るきっかけとなったゲームを思い起こすことから始めました。自分たちにとって、それは XCOM、Syndicate、Fallout のような 1990 年代のコンピュータ ゲームでした。
アイソメトリック ビューは、こうした昔のゲームではお決まりですが、我々がカメラをトップダウン (見下ろし視点) のアクションのようなビューからティルトし、次にアイソメトリックに変えるたびに、視覚的に面白いものになりました。これもアイソメトリック ビューにした理由です。
設定とアートはちょっと憂鬱で抑圧的ですね。こうした雰囲気にも関わらず、専用のダンス ボタンがあるのは意外なほど明るい感じがします。こうした設定を決めた背景についてお話いただけますか? 陰と陽のコントラストを取り入れることの重要性についてお聞かせください。
ゲームの舞台となるナイトクラブは抑圧的で憂鬱な世界の中で自由を象徴する孤立した場所です。しかし、クラブ自体も入ってくる人を排除する負の部分を常に持っています。至る所に壁はありますが、All Walls Must Fall というゲームのタイトルが示すように、あらゆる壁は崩壊しなければなりません。抑圧と自由、そして絶望と希望の闘いは、このゲームの対立の中心です。
タイム トラベルは、ストーリーとそのメカニクスの両方において不可欠なものです。タイム ベースのメカニクスを作るうえでの考え方があれば教えてください。
まず、ベルリンのナイトクラブを舞台にしたゲームを作りたいと思っていたので、それをゲームプレイに組み込みました。共感覚 (例、音に色や形を感じるなど) のあるゲームにするために様々な方法を試みました。リズム ゲームにならないようにしつつ音楽のビートに合わせてアクションを実行させます。結局、基本的に非常に短い、同時に実行するターンで音楽のビートを使うことにしました。まずタイム トラベルを、ターンをアンドゥできる便利な機能として追加しました。以後、さらに多くの機能で拡張し、これが物語の大きな部分を占めるようになりました。こうして、コアなゲームプレイが、ゲームの主な内容と構成に影響を及ぼしました。
東西に分断されたドイツをゲームの舞台にするのは、世界情勢が良い時期であっても政治的に重たい決断ですよね。そして現在ではロシアが壁として頻繁にニュースになっているようです。現在の政治的情勢をどのようにゲームに組み込みましたか?
難民危機やグローバル化に対する一般的な反発などからこうしたトピックは再び重要度を増すだろうと作業開始時に感じていました。正直言ってその後 1 年でどんなことが起こるかは予測しませんでした。しかし、現在、誰もが心の中で感じているものは興味深いものであり、注目に値するということを確信しました。
我々は多くの場合、プレイヤー自身の考えやストーリーを刺激し、後押ししたいと思います。
ゲームのテーマ、設定、ナレーションを通して現在起きている多くのことを示して、それについてプレイヤー自身に決断してもらいたいと思います。単に質問するだけで、こうしたトピックについて考える手段を与えます。まだゲームの早期の段階であるため、Kickstarter による小規模なプレイヤー基盤やソーシャル メディアの反応に注意を払って、適切なバランスが得られるようにします。今後どうなるか様子を見たいと思います。
このゲームをプレイしてみて、ベルリンの壁の政治的な面に夢中になり、同性愛的な雰囲気やその登場人物に驚かされました。こうしたものに焦点を当てることにした経緯についてお話いただけますか?
ベルリンの有名クラブをいくつか訪れて調査したんです。その時点では、街を表現する際に、これらは除外できないものだと思いました。その結果、現在では、ゲームのキャラクターは全員男性ですが、ゲイでもあります。これは、異性愛を基準にするのではなく、まずサブカルチャーの一面に焦点をあてるには良い方法に思えました。ゲームのキャストとキャラクターをさらに多様化するつもりです。その多くは新しいプレイヤー キャラクターを含めて将来のアップデートで実現する予定です。
ナイトライフや LGBTQ カルチャーが現実世界のベルリンの壁崩壊に影響を与えましたか?Fraternal Kiss (旧ソ連のブレジネフ書記長と旧東ドイツのホーネッカー国家評議会議長がキスしている作品) というアート作品は、All Walls Must Fall にどの程度影響を与えましたか?
All Walls Must Fall に取り込んだクラブ カルチャーのほとんどは、壁の崩壊後に開花し始めたものです。多くの廃墟となった場所を利用して、ベルリンのテクノシーンが形作られ始めたのです。こうして現在、我々が知っているベルリンのクラブ カルチャーが誕生しました。壁はまだ存在するという設定であるため、未来のベルリンに独自の解釈を大胆に取り入れました。我々が作ったベルリンは、かつてのこの街の様々な要素、現在の街の姿、ディストピアの暗黒の未来を融合したものです。
Fraternal Kiss は現時点で起きている様々なことを考えると、興味深い歴史的アート作品であり、ゲームに取り入れないのは惜しいと感じて、手を加えました。まず、オバマ元大統領とプーチン大統領が同じポーズでキスしているバージョンを作ってみました。弊社のアーティストである Rafal が、二人の関係性が平等であるかのように見せるために配慮しました。オリジナルでは、一方が他方よりも優位であるのが明らかでした。我々が作ったバージョンは、ゲーム上のタイムラインで冷戦時の二大国間の緊張を緩和しようとする外交努力の一部になるかもしれないと考えました。この時点では誰も気にしていませんでしたけど。
後に、オバマ元大統領の代わりにトランプ大統領に変えると、全く新たな意味合いが加わりました。その後、好意的な意見と否定的な意見を山のように受け取りました。とても興味深かったです。オリジナルも、同性愛嫌悪のテーマを扱い、表現されているものを非難しているように私には思えます。現在の観点から見ても意義深いものでした。全体として、素晴らしいコンセプトを持ったアート作品であり、議論を巻き起こす題材ですが、どちらかの側に着くというものではなく、プレイヤーに考えさせるものです。これこそ我々が目指していたことです。こうした成果に満足しています。肯定的、否定的の両面から、異なる観点で物事を見るのに役立つからです。
ゲームのミッションの遂行場所がゲイのダンスクラブだとわかると、昨年、フロリダ銃乱射事件が起きたゲイバー ナイトクラブの Pulse dance club のことが思い出され複雑な気持ちになりました。聖地としてのゲイクラブの認識と、それにバイオレンスを持ち込むという決定についてお聞かせください。
我々も複雑な気持ちです。我々にとって、そうした思いはパリのバタクラン (Bataclan) 劇場での銃撃事件後から既に始まっていました。その時、友人や家族がパリにいたのですが、自分たちは、その夜、ベルリンでパーティの最中だったんです。とてもショックでした。そもそも、このようなゲームを作りたいか、と自問自答しました。もう少しでゲームをキャンセルするところでした。これは皮肉なことです。だって、そもそもインディーになった大きな理由は、そうした条件反射的なお決まりの反応を避けたかったからなのに。
イスタンブール、オーランド、ロンドンなど他の場所でも様々なグループをターゲットにしたテロ事件が起きていました。我々は身近に起こる事件を心配しがちですが、至るところで事件は起きています。自分たちがさらにバイオレンスを助長することはないと思います。ナイトクラブは格好良くて、アクションがよく似合うから、単にナイトクラブを舞台にした馬鹿げたアクション戦略ゲームを作りたかっただけなんです。しかし、後になるとナイトクラブは既に人々の心にあるものを反映しているように思えてきました。悪夢のようなものです。
自分たちがやりたくないものは、はっきりと線引きしています。ゲーム内でクラブの客はプレイヤーや敵の直接のターゲットにはなりません。『John Wick (邦題:ジョン ウィック)』のようなアクション映画です。ある種の紳士協定があって銃撃戦でも市民は対象になりません。ダイアログやタイムトラベルを通して戦闘を回避することもできます。しかし、現実世界の事件との関わりはまだ存在するため、できれば何か意味があることをしたいし、こうした動きが実際にどのような意味を持つかを問いかけたいと思います。これこそ、このゲームの制作継続を決めた理由です。成功するかどうかは時が経たないとわかりませんが、チャレンジしなければという気持ちになりました。
『All Walls Must Fall』 が目指すものは何ですか? プレイヤーにどんな反応を望みますか?
自分たちが作りたかったのは、作成する機会がなかったようなゲームです。我々はほぼ貯蓄なしの無職の状態でこのプロジェクトを立ち上げました。Medienboard Berlin Brandenburg、エピック ゲームズ、Kickstarter のバッカーからサポートを得てここまで来れたのは非常にラッキーでした。我々がやろうとしていることをプレイヤーの皆さんが目にして、引き続きサポートしていただき、このゲームの制作を続けて、皆さんにも参加していただきたいんです。ゲームのテーマについてプレイヤー同士で建設的な意見を交わしていただけたらと思います。そして、ベルリンのナイトクラブのディストピア的未来の例をベースに、さらに良いものにできたらと思います。それができたら最高です。
All Walls Must Fall の開発でアンリアル エンジンはどのように役立ちましたか?思いのほか便利だった点、または難しかった点はありますか?
我々はアンリアル エンジンを長年使ってきたため、当然の選択でした。最初のプロトタイプからうまくいき、過去の経験をもとに早期の決断が開発にどのような影響を及ぼすかがわかりました。技術面でも、マテリアルやシェーダーなどのアート ワークフローでもそうです。また、ハンドメイドの部屋をプロシージャルに再結合する ‘Disco Generator’ に取り組んでいたレベル デザインもそうです。わかりやすい例としては、3D メッシュを被破壊にするアンリアル エンジンの機能を使用してすべての壁を被破壊にするというものがあります。
All Walls Must Fall というゲームのタイトルが示すように、あらゆる壁は壊さなければなりません。
Dev Grant はどのように活用しましたか?
Dev Grant は、それまでの資金がなくなりそうになったときに仕事を続けさせてくれました。さらに、Kickstarter キャンペーンを実施し、アーリー アクセスを目指すことができました。我々は大きな資金援助やその他の収入源なしに、フルタイムのインディーとして活動しています。そのため、少しずつ一歩一歩進んでおり、こうしたサポートがなければ失敗していたことでしょう。早期のプロトタイプをアーリーアクセスにすることもできたかもしれませんが、正直言ってプレイ可能で楽しいものにするまで時間の余裕が必要でした。すべてがうまく行って、良い結果になれば、アーリーアクセスを通してゲームの制作を続けることができますが、これはエピック ゲームズのサポートによるところも大きいです。過去にアンリアル エンジンを使った経験のある人たちが大きなスタジオを離れ、さらに多くのインディーが生まれて、我々と同じような道筋をたどるといいなと思います。
All Walls Must Fall は現在、 Kickstarter バッカーのクローズド アルファの状態であり、近いうちに Steam のアーリーアクセスに登場予定です。 Steam のウィッシュリストにこのゲームを加えると、 入手可能時期がわかります。
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この一連の記事シリーズはエピックのアンリアル エンジン 4 の寛大なスポンサーシップによって実現しました。毎月、Unreal Dev Grant (アンリアル デブグランツ、開発支援プログラム) の賞金受賞者を紹介します。エピックは我々にインタビュー対象を紹介してくれますが、最終版の記事へのフィードバックや、記事の承認には関っていません。