はじめに
多くの人にとって「プレゼンする」ということは、逃げ出したくなったり、心臓が止まる思いがするほどのことです。誰もが学校の授業でぎこちなく立ち尽くしたり、教師が選んだトピックについて口ごもりながら発表した恥ずかしい思い出があることでしょう。もしあなたが 10 年前の私に向かって、将来私が数百人の聴衆を前に喜んでスピーチやプレゼンをすると言ったら、私はあなたの顔を見てそんなことはないと笑ってたしなめるでしょう。
しかし、物事は変わりました。ひとつには、プレゼンを強要されることはなくなったのです。たいてい、引き受けるかどうかを自分で選択するようになりました。聴衆側もじっと見ている必要はないし、実際に興味を持った場合のみ参加することができます。しかも、自分が大好きなゲームについて語るのです。そうしたわけで、人前で話すのがあまり恐くなくなりました。
「パブリック スピーキング」という言葉を耳にすると、カンファレンス、ステージ、マイク、スライドといった一連の言葉とシナリオが思い浮かぶでしょう。しかし、パブリック スピーキングはこうした設定に限りません。
我々は日常的にパブリック スピーキングのスキルを使っているのです。ミーティングでチームのメンバーに最近の作業について報告する場面、イベントでの交流会、プロジェクトの方向性の選択肢をクライアントにプレゼンするなど様々な機会があります。誰もが何らかの形で行っていることです。ですから、スピーキングを心地よくできれば、どんな人にとってもプラスになるはずです。
パブリック スピーキングの効用
スピーキングではっきりと認識できるメリットは、自信が高まることです。嘘ではありません。パブリック スピーキングはまさに神経がすり減る出来事ですが、こうした緊張が完全になくなることはありません。誰だって人前で間違ったことを言ったり、ステージから落ちたり、緊張から気を失ったり、マイクを落として最前列の聴衆に当てたりして恥をかきたくないはずです。
とはいえ、何回もパブリック スピーキングの経験を重ねても、どんなに話し方が上手でも、問題が起きることはあります。トラブルがあったときに状況を変えるのは、あなたがそれにどう対応するか次第です。
私のお気に入りの GDC talk の思い出は、3 年前の出来事で Mike Bithell 氏 が Animation Bootcamp を閉会しようとしていたときのことです。一日中、技術的な問題が生じていて、Mike のプレゼンの順番になると、動画がひとつも機能しませんでした。自分が関わったゲームのアニメーションのテクニックや最適化について披露しようとしていたのでこれは大きな問題となりました。イライラしたり怒りを見せたりせずに、彼はプレゼンを続け、最後の方で技術的な助けを得て、動画を披露することができました。冷静に対処し、悪い状況を最善のものに変える人々は多くの尊敬を集めます。このケースも同様でした。気まずくなったかもしれない状況を、とても楽しめるものにしたのです。
ほとんどのシナリオでは、うまくいかなくても、落ち着いて続けてください。平常心を保ち続けるという能力は、ちょっとした内なる自信に支えられます。何かが壊れたり、スライドのクリックを間違えたり、間違った数字を言って訂正したりしても、聴衆は一時的な中断は気にしないということを覚えておいてください。みんな人間なんですから。
人前に立つ自信を持って、自分をさらけだすということは、他にもメリットがあります。人々に自分の存在に気づいてもらう、自分が話していること、取り組んでいることに関心を持ってもらう機会が増えます。
パブリック スピーキングは素晴らしい交流手段です。ほとんどの人々は、大勢の前で質問をしたがらないため、プレゼン終了後に話しかけてきて一対一で会話が始まります。こうして個人的な関係が築かれていくのです。
スピーキングすることで、良い聞き手にもなります。人前で話す機会が増えるほど、聴衆に耳を傾けるのも上手くなります (文字通り聴くというだけではありません)。会場の熱気を感じとったり、どうやって盛り上げるか、自分が指摘した内容が聴衆の心に響いているかについて把握したりします。話のトーンを変える必要があるか、またこれが一番重要ですが、予定どおりいかなかったあらゆることに気づいて、それを最高の結果が得られるようになるまで調整してその後のプレゼンに活かします。
プレゼン終了後の数分間、改善点を頭の中で整理するだけでなく、当初の想定と実際に起きたことを比較するのも価値があります。だいたい、考えていたよりもうまくいくものです。
様々なタイプの登壇者
完璧なパブリック スピーカーになるために、全員に適した万能な方法なんてありません。各自が様々な方法で準備しますが、それぞれ良い点と悪い点があります。しかし、重要なことは自分にとってやりやすい方法を見つけることです。
Sjoerd De Jong (Epic Games)、 Respawn 2016 でのプレゼンの様子
以下は、よく見かける 4 種類の一般的なプレゼンのタイプです。
パニック タイプ、ギリギリまで先延ばし
時間管理が下手か、悪いことが重なってそうなる可能性があります。多くの場合、決められた時間のギリギリまでプレゼンの作業をします。これは登壇者の頭痛の種になるだけでなく、主催者側も大変です。事前にスライドを入手してマシンにスライドをアップロードするからです。こうした状況は、登壇者に余分なプレッシャーをかけることが多く、全体としてストレスが増えます。土壇場になって、レビューや練習が不足したことで、話の流れ、内容の関連性、そして精神的にも問題が生じることがあります。このやり方が良いという人には会ったことはなく、何としてでもそうならないようにすることをお勧めします。
アドリブ タイプ、現場で対応する
パニック タイプとは違うので混乱しないでくださいね。アドリブ タイプは、一般的なスライド資料集を用意していて、聴衆に対する関連度に基づき内容を飛ばします。特定の聴衆の関心やニーズに合わせた柔軟性のあるプレゼンになります。多くの場合、よどみなく話が進み、興味深く聴けます。ただし、このやり方では登壇者が話の内容を熟知していて、その場で適応することが求められますが、時間を守るのが難しくなる可能性があります。すべてのポイントをカバーする前に時間切れになったり、ポイントを絞りきれないと曖昧になることもあります。
スライド重視タイプ、箇条書きで注意喚起
箇条書きで注意を引くタイプです。これには、いくつかの単語を並べたもの、キーフレーズ、文章などがあります。このやり方だと、事前にフローを簡単に調整することができます。スピーカーは堅くなりすぎずにトピックに集中できます。
こうしたプレゼンは多くの場合、自然に感じられます。話のポイントが話し手の頭に入っていて言葉が自然に出てくるからです。考えられる唯一の欠点としては、スピーカーが緊張しすぎていたら、話し始めるきっかけとして、短いメモ書きではなく、長めの情報が必要かもしれません。
情報過剰入力タイプ、事前に何もかも書き出す
プレゼン全体を事前にスクリプトに書き起こすタイプです。話の流れを滑らかにし、キーフレーズを使用し、厳密にタイミングに合わせるうえで便利です。ただし、このやり方だとスピーカーがモニターの文を直接読み上げて、抑揚がなくなり、スクリプトに没頭すると、単調になりがちで、盛り上がりのない退屈なものになってしまいます。柔軟性にも欠けてしまいます。ですから、自分のプレゼンが対象となる聴衆にとって適切なものになるように必ずリサーチを行ってください。
自分はというと、情報過剰入力タイプです。プレゼンを用意する場合、全体的な要点をつかむために箇条書きを作ってから、スクリプト全体を書きます。このやり方は、プレゼンの適切な流れを作るのに役立つことがわかりました。自分の考えや言葉を繰り返すのを防ぎ、タイミングを正確に測ることができます (英語約 2000 ワード分が、10分間のスピーキングに相当します)。とはいいながらも、実際のプレゼン時には、スクリプト全体を読んだりはしません。私はアマチュア演劇の経験があります。ですから、台本を暗記して、声の調子 に配慮しながら発生する練習を積んできました。それでも実際のプレゼンの時には、次のトピックを忘れてしまった時用にスクリプトを手元に置きます。これが、話の流れを取戻すきっかけとなりますが、厳密にスクリプトにこだわるわけではありません。スクリプトがあると、使った言葉に対する的確な反応をつかんだり、イベント後にプレゼンで話したことを参考としてブログに掲載するときにも役立つこともわかりました。
これまで説明したように、自分にとって何がうまくいくかを見極めるために様々なやり方を試す必要があります。上記のタイプを組み合わせたものであったり、どれにも属さないものであるかもしれません。ただし、どのやり方を使う場合でも、スピーカーが心得ておくべき重要なことがあります。
プレゼンの概要
Dana Cowley と Mike Gamble、 Develop Awards 2017 にて
努力
ある程度の努力は必要です。これが私にとっては頭痛の種ですが。聴衆があなたのプレゼンを聴くために時間通りに来場し、耳を傾けてくれたら、スピーカーとしてその努力に報いるべく、自分も努力で応えることで双方向の交流が成り立ちます。
当日を楽しみにしていたのに、終了後にはすっかり失望してしまった準備不足のプレゼンを聴いたことが誰しもあることと思います。これは必ずしもスピーカーの責任とは限りません。準備期間が短時間しかなかった (当初予定していた人の急な代役など) かもしれません。しかし、単にスピーカーが準備に時間をかけなかっただろうことがはっきりわかる場合があります。
こうした問題を招くのは、優れたプレゼンにするためにどれくらいの時間をかけたら良いかを把握していないということがあります。リサーチから始まり、作成、練習、そして磨きをかけて最終的なプレゼンにするまで数週間の作業を要することがあります。
こうしたことから、選択の余地があれば、自分が情熱を傾けられる内容を選ぶ必要があります。時間が足りないというのはよく耳にする不満ですが、心から楽しめるものなら時間を作り出すことができることには驚かされます。
ターゲットとなる聴衆は誰か?
残念ながら自分が胸躍るようなことをすべて聴衆に与えるだけでは不十分です。聴衆がどんな人々であるかを分析する必要があります。年齢、スキル レベル、社会的ポジション、学習経験、ゲーム開発の経験などすべてを考慮する必要があります。大学一年生向けのプレゼンと GDC でのプレゼンではその内容から、プレゼン方法まで全く違います。パブリッシャ候補に向けてプレゼンする場合も違います。プレゼンの聴衆が誰であるかを特定することが重要です。
Andreas Suika 氏 (Daedalic Entertainment Studio West) 、Respawn 2016 でのプレゼンの様子
聴衆を把握すれば、彼らが何を聴きたいか を考えることができます。こうしたことの大部分は自分の個人的経験によるものです。自分が学生だった頃、業界の人々のプレゼンは上手でしたが、多くの場合、何を覚えて帰ったらよいか曖昧でわかりづらいものでした。ですから私が学生に話すときには、「これがあなたたちのするべきことです。その理由を話します」と明確にしていますが、このやり方は好評です。コンシューマー向け展示会で話す場合、プロジェクトをどのように実現したかよりも、プロジェクトがどのように生まれたかの方が関心を集めることに気づきました。これはデベロッパー向けカンファレンスとは反対の反応です。
聴衆がどんな人になるかわからない場合は、ソーシャル メディアを使って探し出して、彼らの考えを集めるとよいでしょう。検討しているトピックの中でどんなものに関心があるかについて簡単な投票アンケートを行ったり、数名の人たちに、彼らが理想とするプレゼンでどんな話を聞きたいかを直接尋ねてみてはいかがでしょう。
できる限りわかりやすくする
誰に向かって話す場合でも、できる限りわかりやすくするのが最善の方法です。初めて専門用語や略語を使ったときなど、単純な表現でも手短に説明して、聴衆全員が話についてこられるようにします。
極端な例として Texel という言葉について考えます。コンピュータ グラフィックス用語では、Texel は テクスチャを構成する色とアルファ値を含む一連の要素です。オランダ人にとっては、Texel は北にある島 でテクセル種の 羊 が有名な場所です。プレゼンの内容を考えると、この 2 つの意味で混乱することはないと思います。しかし、他の頭字語や名称で自分とは違う文化では別の意味が持つものがあっても気づかないでしょう。
専門用語は別として、できる限りシンプルな表現を使うようにしてください。米国のコメディ ドラマ『フレンズ』(The One with the Letter) で、登場人物のジョーイが友人のモニカとチャンドラーのために養子縁組の推薦状を書いているときに類語辞典をみつけて面白おかしく難しい言葉に置き換えていたのを思い出します。「彼らは暖かく心優しい寛大な人々です」と言えば十分なのに、「彼らは温暖で好印象を与えるホモサピエンスで、フルサイズの大動脈のポンプを持っている」とわざわざ難しい言葉に置き換えて笑いを誘っていました。
タイミング
ここでタイミングについて話をするのは良いタイミングです。持ち時間が 30 分だけど、プレゼンの所要時間が 20 分しかないとしても、有意義な情報でない限りは、何かを話して時間を埋めようとはしないでください。20 分のままにして、残り時間を Q&A コーナーにしてください。何も質問がなくても、誰もがコーヒー休憩をとったり、トイレに行くことができるのですから。実際、20 分という時間は、スピーカーの話に耳を傾けることができる適度な時間です (これがTED Talks が 20 分間である理由です)。
タイミングと合わせて、他の登壇者にも配慮する必要があります。もし、あなたのプレゼンで 10 分余分にかかってしまったら、その 10 分を次の登壇者は失います。かつてあるイベントに聴衆として参加していたとき、ある登壇者の持ち時間が 45 分だったのに 1 時間15分かかってしまったことがあります。その結果、最後の登壇者はわずか 15 分間に話を詰め込まなければならなくなりました。
責任の一部は、時間が近づいたら注意喚起する立場の主催者側にありますが、かといって食事が冷めるからサッカーをやめて戻ってきなさいと叫ぶ母親のように振る舞う必要はないのです。我々は大人ですし、まして専門家です。自分で時間を管理して、決められた制限時間を守りましょう。
十分に準備する
タイミングを守る方法のひとつとして、割り当てられた時間に合わせてリハーサルを行うなど十分に準備するということがあります。自分でリハーサルすることもできますが、成功を望む大きなプレゼンの場合は、他の人の前で練習することをお勧めします。内容が機密保持契約にかかわるものだったら、契約上、話をしても問題のない同僚をつかまえて練習してください。小規模なイベントでのプレゼンはどうでしょう。それでも練習しましょう。プレゼンのスキルと、必要ならばスライドについて他の人に見てもらいましょう。
私は今年の Develop での登壇に先立ち、地元で行われたミートアップで同じような層の聴衆に向けてプレゼンを披露し、良く知っている仲間にプレゼン後にフィードバックをお願いしました。これでプレゼンに磨きをかけて、わかりやすくするために (聴衆からの質問に基づき) 一部内容を追加し、読みづらいスライドを修正し、話のペースを調整しました。
入念に準備し、練習を重ねるほど、自分が話す内容と流れが身につきます。こうしたことが、プレゼンのときに感じる緊張感を緩和します。
プレゼンの構成を考える
これまでプレゼンの流れについて多くを語ってきましたが、構成は関係あるでしょうか?プレゼンの構成には多様な方法があります。どんなメッセージを聴衆に伝えるか、どんな物語を話すかによって方法は変わります。
ストーリーテリング
例えば、エンジンに実装した新しいアニメーション システムについて技術的なプレゼンを計画する場合に、ストーリーテリングという言葉は最初に出てこないと思いますが、考えるべきことなのです。口頭のストーリーテリングは、書き言葉がなかった時代に知恵やアドバイスなどを伝える 主要な手段であり、今日まで存続し続けている理由があります。
良い物語は注意をひきます。十分な時間、心に残ると我々は物語に入り込んで、脳内で化学反応が起こり、身体的、感情的にも引き込まれます。こうした聴衆を惹きつける仕掛けを加えて、キャラクターと一緒に旅をするのは、映画、テレビ番組、ゲームなどで行われている手法です。
しかし、どうしてプレゼンで物語が必要なのでしょうか?
物語は思いだしやすいものです。 脳内の最高 7 つの領域を活性化するからです。.聴衆は多くの場合、論理よりも感情に訴えるものに反応します。 物語が感情に訴えるものであるため、聴衆とつながりを持ち、提案内容について聴衆を説得するための強力な手段になります。
物語は、本質的にパーソナルなものになりがちです。我々の物の見方が、自分が耳にしたことや経験を他の人に伝えるときに影響をあたえます。会社名ではなく、あなたを一人の人間として見る機会を聴衆に与えます。
物語を語る方法は数多くありますが (これについて詳しく知りたい場合は、以下の Christopher Bookers 著 ‘The Seven Basic Plots:Why We Tell Stories’ をお勧めします)、プレゼンで使える 4 つの一般的な方法に焦点をあてて説明しようと思います。
三幕構成 (Three Act Structure)
非常に一般的なストーリーテリングの手法として、 三幕構成、あるいは 神話の法則 (Hero's Journey) があります。設定 (setup)、対立 (confrontation)、解決 (resolution) の3 幕に分けられ物語が展開します。多くの書籍、映画、テレビ番組、ゲーム (例、 Journey (風ノ旅ビト)) は、この構造に基づいています。ヒーローが旅を初めて、葛藤や対立によって中断されてから、立ち上がり解決して、旅路を終えます。
プレゼンの話に戻ると、この構造を使ってゲームのほとんどのトピックについて、成し遂げたいこと、遭遇した問題、実施したソリューションなどを伝えることができます。
一度話して、再度話す
もうひとつの方法は、聴衆にこれから話すことを伝えたうえで、話をして、そして一度話した内容を再度話します。皆さんがお考えになるのとは反対かもしれませんが、 効果的なプレゼンをするうえで繰り返しは重要です。 最も 成功を収めた スピーチ の中には、フレーズやアイデアを繰り返して、要点を強調したものがあります。話をするとき、常に聴衆の記憶力と戦っています。ですから、より多くの方法で説明し、要点を図示すれば、伝えたいことを覚えてもらえる確率が高くなります。
結論から始める
聴衆の心をすぐにつかむには、 結論、要点、大きな発表 から話を始めて、始まりの部分に戻り、話を構築していきます。これでプレゼン全体を通して要点に絶えず戻りながら自然に繰り返すことができます。また、聴衆があなたが話すあらゆることを前後関係と結びつけて考えられるため、論点の重要性を理解することができます。
デモ
披露したいものがあれば、是非見せてあげてください。ご自分のプロジェクトがいかに価値があり、素晴らしく、有益なものであるかをデモ で紹介しましょう。目をひく格好いいものや、その他の機能の一部を見せて聴衆の注目を集めてから、大きな発表をしましょう。
2015 年の GDC では、弊社のキャラクター アニメーションの進歩を、Hellblade:Senua’s Sacrifice の新しいクリップ映像 を使って実演しました。クリップ映像の最後に、Senua のパフォーマンスは、ずっとステージ上にいた演者の演技をリアルタイムでライブ キャプチャし、レンダリングしていたことをお披露目しましたが、このやり方は大成功を収めました。
こうしたメインの構成と共に、いくつか心にとめておくべき補助的な方法があります。
メッセージを絞る
あなたの運が良ければ聴衆はプレゼン内容から 3 つの主要ポイントを覚えて帰るでしょう。現実的に考えると、ひとつだけ覚えて帰る方が可能性が高そうです。投資家向けのプレゼンの場合、覚えてもらう一点は自分のゲームのユニークなセールス ポイントであってほしいでしょう。社内のミーティングでは、出来の良い部分を印象付けたいことでしょう。
しかし、プレゼンのタイプに応じて、このやり方を無視することもできます。事前に出席予定者に向けて、濃い内容の学習セッションになると伝えておけば、ノートをとる心構えで参加してくれて、セッション後に要点を簡単に理解してもらえるでしょう。そうでなければ、スライド一式をどこかで公開し、参加者が後でダウンロードできるようにします。
S.T.A.R. の瞬間
プレゼン中に、ずっと心に残るような ( ‘something they’ll always remember’ (STAR)) の瞬間 が来るでしょう。この象徴的な例として、ビル ゲイツが TED talk で 蚊、マラリア、教育について (Mosquito’s, malaria and education) についてプレゼンした時のエピソードが挙げられます。「貧しい人々だけが、体験しなくてはならない理由なんかないですから」と瓶に入っていた蚊を会場に放ったのです(この蚊はマラリアを媒介する蚊ではありませんでした!)。
行動喚起の言葉で締めくくる
メイン メッセージが何であれ、行動を起こしたくなるような言葉で締めくくるようにします。ゲームをプレイしたり、ある分野について調べたり、問題を解決したりと、人々が行動を起こして何かをするように仕向けてください。こうした呼びかけは短めにして、キャッチフレーズにしたり、ツイートできるようにして、出席者が他の人と共有できるようにします。
スライド集を作成する
すべてのプレゼンでスライドを使用するわけではありませんが、使用する場合は話す内容を強調するうえで大きな役割を果たします。強調という言葉を使いましたが、スライドは話している内容に対して視覚的インパクトを与えるものであって、話し手から注意をそらすものではありません。スライドを読むだけで内容をすべて理解する人がいるとしたら、プレゼンをする意味はあまりありません。
最後にスライドを作成することをお勧めします。まず、プレゼンの内容と話の流れを決めると、重要なメッセージを中心として非常に簡単にスライドを作成することができます。こうすることで実際に使う量よりも多くのスライドを作成してしまう時間を節約することができます。
スライドが多すぎるということはありません
適切なスライドの枚数は決まっていないと強く信じています。プレゼンで 80 のポイントを挙げたいなら、8 枚または 80 枚のスライドを使っても問題ありません。各スライドが話している内容に関連があり、内容を補うものである限り、スライドの枚数は自分が必要とする数で、少なくても多くても構いません。
スライドは、物事の進むペースを強調するのに役立つことがあります。あるプレゼンで私はゲーム プロジェクトでどんどん増えていくものについて話していました。8 枚のスライドを使用して数秒間でタップしながら名前を付けて様々なイベントを示しました。これでどれくらい短い時間ですべてが起こったかをひとつのスライドにすべてを詰め込むよりもはるかに効果的に視覚的に強調しました。
コントラスト
ほとんどの物事と同様に、「変化は人生のスパイス」です。プレゼン全体を、スライドを素早く切り替えることに費やしたら、たぶん聴衆は疲れてしまうことでしょう。先に進む前に、時々、じっくり時間をかけて重要なポイントについて考えてもらいましょう。
コントラストはスライドの内容にも及びます。重要な情報、ポイント、見出しは、変化をつけるフォントや色を使って目立つようにします。あるいは、トピック毎に背景を変えたりします。
一貫性
コントラストが必要と言いましたが、スライド全体で一貫性のあるスタイルを保つ必要があります。画像やチャートなどを Google からランダムに引っ張ってきたら一貫性を保つのが難しくなることがあります。ですから、自分でスライド (画像、インフォグラフィック (情報を視覚的に表したもの) 、レイアウトなどを含む) を作る時間があるならば、そうすることをお勧めします。つまり、色、フォント、背景などスライド全体で一貫性を持って強調すれば、聴衆にとってそれが重要であったり、トピックが変わったりすることの視覚的手がかりになるのです。
テキスト
これは、スライドについて語る際にいつも議論の的になります。私はかつてスライド上のテキストについては強固な反対派でした。しかし、控えめが良い という立場に少し傾いてきました。画面上に重要なポイントやフレーズがあることは、聴衆から見てとても役立ちます。後で思い出すために写真をとったり、その瞬間を他の人と共有することができます。
私の場合は短い言葉しか使わないようにしています。話している内容とスライドに表示している内容に聴衆の注意を向けさせると、彼らは話し手を無視して、スライドを読む可能性が高くなります。さらに、テキストの量が増えるほど、タイプミスの可能性も高まります。
テキストを表示する場合は、はっきりと読みやすいものにしてください。見やすく プレゼンのスタイルに合った フォント (英語の場合、Times New Roman や Comic Sans は使わないでください) を使ってください。すべてのコンピュータが同じフォントをインストールしているとは限らないため注意が必要です。自分のパソコンを使ってプレゼンするのでなければ、PowerPoint にフォントを埋め込む か、スライドの画像にベイクします (自分は通常、この作業に Photoshop を使います)。
画像 / Gif / 動画
確かな経験則は、表示して語らないことです。話す内容を画像で表現できればそうします。既に話したことを繰り返すのではなく、話しを補うものとして視覚的なものを使います。比喩的または文字通りに分かりやすいやり方でポイントを図示します。
静的画像では不十分な場合は、GIF 画像または動画を使ってポイントを表現します。特に我々はゲーム業界にいるため、実装した新しいメカニクスについて話す場合は、それが動作している様子のクリップ映像を見せてください。とはいえ、動画の使用には注意が必要です。プレゼン中によく問題を起こすからです (特にオーディオを必要とする場合)。クリップが長ければ聴衆の集中力が切れる可能性もあります。
遅れてきた人や、みんなが落ち着いて席につくのを待つ間、フルサウンド エフェクトで 1 分、2 分程度の短い動画でプレゼンを始めるのは効果的な場合もあります。ただし、その後は話す内容に音声が不可欠でない限りは、聞こえないようにして動画を表示しながら、要点を説明します。PowerPoint を使う場合は、スムーズに再生するために動画を .wmv 形式にすることをお勧めします。
話す場所、プロジェクターのアスペクト比についてもダブルチェックするようにしてください。私は、標準の 16:9 の代わりに 4:3 の比率に出くわしたことが何回かありました。
注記:自分のものではない画像を使う場合は、元の資料のクレジット表記をすることを心がけるのは良いことです。
連絡先の詳細
アドバイス に反して、私は連絡先の詳細を各スライドに記載するのが気に入っています。つまり、どこかのタイミングで誰かが写真を撮ったら、自分の詳細を知ってくれて連絡することができます。あるいは、話している内容のポイントを共有したいと考える聴衆がいれば、最後に連絡先が表示されるまで待つ必要がありません。
モジュール式にする
スタンドアップ ミーティングなど、プレゼンが繰り返し行われる場合、毎週簡単に更新できるフォーマットを作ります。私が関わったあるプロジェクトでは、2 か月間にわたりアニメートされた短い作品を制作していました。毎週、映像を上映し、進捗を含めて、絵コンテからブロックアウト、プレイブラスト、レンダリングへとショットが変化していきます。Premiere で一週間の更新ファイルがひとつのフォルダに入るようにして自動更新されるようなファイル構造を作り、ミーティングの前に新しいエクスポート ファイルを簡単に入手できるようにしました。
実際にプレゼンする
準備作業をすべて終えて、スライド操作を練習したら、プレゼン当日です。いくつか気をつけることがあります。
食事をちゃんととる
プレゼンが近くなるほど、緊張が高まっていくため、プレゼンを行う数時間前に何か適切なものを食べてください。プレゼン後に倒れそうになった登壇者を何人か見たことがあります。彼らは食事をとらずにほとんど眠らずに当日を迎えていたのです。体調を整えて、何か口にするようにしてください。
水分補給の用意もしてください。話し続けると、あまりに速く喉が渇くのでびっくりします。時々、水分をとるとよいでしょう。水分補給は、次に何を話すか思い出せない場合や、一瞬考える時間が必要な場合など話の途中でこっそり間を入れる手段にも使えます。
適切な服装をする
個人的には、プレゼン時にはいつもより少しだけお洒落します。自分の服装に満足すれば、みんなが自分を見ているとわかっているので自信も湧きます。
何を着るにしても、快適なものを選ぶようにします。楽な靴は必須ですし、重ね着をお勧めします。プレゼンの冒頭では寒いと思ったとしても、話が進むにつれてきっと暑くなっていくはずです。
何でも持っていく
自分のパソコンを使用する場合、コネクタやアダプタを忘れないようにします。HDMI ポートしかなければ、VGA to HDMI コンバータを持参します。まだ多くの場所で VGA を使用しているのには驚かされます。Mac を使用する場合、必ずコンバーターとスペアを用意してください。プレゼン前にパニックになるケースを沢山見てきました。適切なコンバーターが手元になかったり、突然動作を停止したりしたからです。
ほとんどの場合 (必ずしもすべてではありませんが)、カンファレンスでは必要な配線やコンバーターを提供してくれます。しかし、特別なもの (HDMI to mini HDMI アダプタなど) が必要な場合は、自分のものを持参して、カンファレンス主催者側のセットアップで確認します。インターネット接続は使えない可能性が高いため、プレゼン資料のオフライン版を用意して、マシンを変えなければならない事態に備えて USB にバックアップして持参すると良いでしょう。
聴衆はプレゼンが失敗するのを見たくありません
覚えておくべき一番重要なこととして、聴衆はプレゼンが失敗するのを見たくありません。誰もがあなたがやっていることに興味を持って、知識を得ようとやってくるのです。何かを学ぼうと、あなたを励ますためにやって来るのであって、あなたを笑い者にしたり、話す内容のあら探しに来るわけではありません。こうしたことを心に留めて、深呼吸して笑顔で話しましょう。
この記事の作成にあたり、ご協力いただいた Chris Wilson 氏 (Cardboard Sword) にあらためて謝意を表します。ここで取り上げた内容が気に入ったら、同じくインディーを対象にしたシリーズ記事、‘インディーのためのマーケティング’ と ‘インディーのための展示会出展のコツ’ もご覧ください。
参考文献
Resonate by Nancy Duarte
slide:ology by Nancy Duarte
10 Tips for Better Slide Decks by Aaron Weyenberg
8 Tips for an Awesome Powerpoint Presentation by Damon Nofar
It's Showtime!Richard Butterfield's Power of Persuasion
The Seven Basic Plots:Why We Tell Stories by Christopher Bookers