我々は、メール、スマートフォン、家電アプリなど様々なもので監視、追跡、分析が可能な現代に生きています。その中で「考え」と「記憶」だけは自分が所有できているはずですが、>observer_ の世界ではこの 2 つも交錯してしまいます。
<observer_ は『Layers of Fear』を手掛けた Bloober Team が開発したサイバーンク ホラーゲームです。プレイヤーは巨大企業が運営する警察部隊のオブザーバーの 1 人、ダニエル ラザルスキー 氏となり、神経インプラントを使って他人の脳に潜入します。
<observer_ の舞台は 2084 年。 ホラージャンルの域を踏み外さずにユニークな位置づけを確立しつつも、ルトガー ハウアー (『ブレード ランナー』) を声優に起用するなどサイバーパンクな雰囲気が幅広く取り入れられている作品です。
ホラーおよびサイバーパンクをどのように取り入れたのか、またこれらの要素をアンリアル エンジン 4 でどのように >observer_ へ適用したのか、Bloober Team の Brand Manager である Rafal Basaj 氏にお話を伺いました。
>observer_ の概要について教えてください。
>observer_ の設定は、とても暗くて陰気なサイバーパンクのユニバースです。疎遠になっていた息子が助けを求めてくるところからゲームが始まります。クラクフの怪しげなスラム街へ移動し、古いアパートに潜入したプレイヤーは、そこで予想していた以上に進行している事態に遭遇します。一体何が起きたのか?これらと自分の息子はどうつながっているのか?プレイヤーの調査が始まります。手掛かりをつかむためにインプラントで背景をスキャンし、ガイダンスを仰ぎます。そして他人の脳をハックして謎を解き明かしていきます。
プレイヤーの視点から、刑事としてのダニエルの役割はどのようにゲームプレイに当てはまるのでしょうか?
このゲームの設定はサイバーパンクですから、ダニエルはもはや普通の刑事ではありません。職務遂行に役立つさまざまな人体改造パーツが備わっています。例えば網膜には、UV / Bio の 2 つのモードでの背景スキャン機能が埋め込まれています。UV モードでは手掛かりとなりそうな電気オブジェクト、Bio モードでは生物学的なシグネチャーをそれぞれ探知します。これらを使って、ダニエルはこのアパートで起きた真実に関する手掛かりと詳細を得ることができます。
ダニエルの職務で最も興味深いのは、人々の脳をハックし、彼らの追体験をして真実を突き止めることです。また、Dream-Eater どいうデバイスを使って、他人の神経インプラントに直接潜入します。ただし、決して楽しいものではありません。脳は予期せぬことが起こる、混沌とした場所ですから。
ボスと特殊能力を聞く限り、ダニエルは悪党のように聞こえますね。善と悪の境界線も意図的に曖昧にしているのでしょうか。
ダニエルは、国全体を支配する圧政的な巨大企業の一道具なのです。純然たる悪ではないのですが、仕事が仕事なだけに正常なモラルを保てるのだろうかと思われて当然だと思います。私達の実生活においても白黒がはっきりする状況はありませんから、この曖昧さはもちろん意図的なものです。ダニエルは白と黒が混ざる部分を歩く骨身を惜しまないキャラクターなのです。行動とモラルの結びつけ、そして彼の本当のキャラクターを決めるのはプレイヤー自身です。
Basaj さん、およびチームの皆さんはサイバーパンクの大ファンですか?開発中にひらめきを与えてくれた映画や本はありますか?
もちろんです!『ブレード ランナー』、『ゴースト イン ザ・シェル』、『AKIRA』、『JM』などの映画を見て育ったサイバーパンクファンや、ウィリアム ギブスンとフィリップ K. ディックの本はすべて制覇した人達が私のオフィスには大勢います。そして、Cyberpunk 2020 では、何時間もかけてペン&ペーパー ゲームで物語を伝えました。
>observer_ は数々の素晴らしいサイバーパンク作品の影響を受けていますが、我々はユニバースに東欧らしいさとレトロな雰囲気を混ぜて、1980 年代の終わりから未来を想像したかのようなユニバースを作りたかったのです。そこには、80 年代から 90 年代にポーランドで育った人なら誰でも自分の家を思い浮かべる装飾で溢れています。アメリカや日本のサイバーパンクよりも暗く、全体的に標準的なテーマを東欧らしい手法でとてもユニークに融合しました。
そのスタイルを「Bloober Team」と呼んでいるそうですね。他のホラーとはどのように違いますか?
ゲームでホラーというと非常に限られます。無数の敵を殺すアクション重視型か、または数は少ないけれども殺すことができない敵から逃げるスタイル 2 つのタイプに大きく分けられます。自分の顔を切り裂く敵ではなく、得体の知れない何かに対する心理的なホラーを使って、映画界で長い間楽しまれてきたスタイルの恐怖心をプレイヤーに味わってもらいたかったのです。こうして「隠された恐怖」というアイデアが生まれました。
これに道徳的 / 社会的 / 政治的に曖昧な主題を融合させたので、個人の価値観によって解釈が異なり、答えは簡単に出せなくなりました。『Layers of Fear』 では、仕事と家庭のどちらを選ぶかがテーマでしたが、>observer_ では、人間性が問われるギリギリのラインです。
2 つ目はいわゆる「カタルシス 2.0」とです。すべてのホラーには、激情からの解放 (いわゆる浄化) という作用があります。そこに自分の世界観という別のカタルシスを重ね合わせてもらいたいのです。もし自分が『Layers of Fear』の狂った画家の立場だったら、傑作の完成を選ぶだろうか?それとも家族のために絵を諦めるだろうか?正しい答えなどありません。そう、ここがポイントなのです。ゲームをプレイした後に、プレイヤーに自分の人生をじっくり考えてもらいたいのです。
怖がらせる効果以外にも、ホラーには他のジャンルでは実現できないものはあると思いますか?
もちろんです。ホラーは、14 世紀の古いマンションであったりサイバーパンク ディストピアだったりと、スタイルと設定の境界は緩いでうが、私達の心理に直接影響を与えるジャンルです。成長ジャンルでもあり、また成熟しきったジャンルでもあります。創造性があればほとんどのことは可能です。ありそうもない状況でも人間が没入できるギリギリの線でリアルに表現することができます。結果、ホラーゲームは、他のジャンルでは難しいテーマや問題を扱うことができます。
とは言うものの、ホラーは成功させるのが非常に難しいジャンルです。 ムード、デザイン、オーディオ、アートスタイルなどをすべて正しく行わないと、体験全体に物足りなさが出てしまいます。リスクはありますが、成功した場合は傑作を手に入れることができるジャンルです。
『Layers of Fear』 は別のエンジンで制作されたそうですが、このプロジェクトにアンリアル エンジン 4 (UE4) を選んだ理由は?
アンリアル エンジン 4 の柔軟性と拡張可能性に注目しました。『Layers of Fear』 では、UE4 のように我々のニーズに合わせてエンジンの修正や拡張ができませんでした。ところが UE4 は、ソースコードへアクセスもできる上に、各種機能の変更をまるで純金を扱うように柔軟に行うことができました。
新しいバージョンへの更新も楽々で、大満足しています。変更に関してもう 1 点付け加えると、UE4 はネイティブ C++ で書かれているんです。コンシューマーゲームの制作に便利という点でかなりポイントが高いです。
UE4 の中でお気に入りのツールや機能はできましたか?
やはりソースコードへのアクセスとネイティブ C++ でのコード化が素晴らしいです。このお陰で、自分達のニーズに合わせてコア エンジンを簡単に拡張することができました。視覚的に記述しコーディングのラインを心配する必要のないブループリントも、デザイナーにとっての救世主でした。
>observer_ では FX が見事でしたね。FX はゲームプレイでどのような効果を発揮しましたか?
エンジン レンダリング パイプラインを変更して、順序に依存しない透過処理を実装したことで、視覚的なアーティファクトを出さずに互いを重ねるアルファ ブレンド エフェクトを数多く実現することができました。さらに、頂点 / プロシージャルなアニメーションをいろいろな場所で使用しました。UE4 の柔軟性のおかげで、プロシージャルなアニメーションをまるごと GPU にプッシュするカスタム仕様の頂点係数を書くことができ、他のアニメーションに CPU を回すことができました。
カスタム仕様のシェーダーを作成し、それをゲーム全体で使用し、「実物そっくりの肉」と流体エフェクトを簡単にシミュレートすることができました。さらに、ボクセライズ ジオメトリも使用しています。通常はレベル デザイナーとアート チームが最初に設定して、シェーダーを追加して管理します。若干困惑しましたが、後にチーム全体で使いこなせるようになりました。
実生活での感覚をかなり歪めてしまうゲームだと思いますが、制作する上で最も難しい部分はどこでしたか?
エフェクトを使い過ぎないようにする点ですね。脳と一体化するこのような体験では、きれいに見えるものと不快感がまさに紙一重なんです。脳が一度に処理できるイベントとエフェクトの量の限度は、人によって異なります。求めるエフェクトが出るように視覚的にゲームを作成する作業は、細部へのこだわりが必要ですし、時間もかかります。満足のいく仕上りになるまで、数え切れないほど表現を繰りして、何度も何度もエフェクトの調整を行います。
開発の詳細をもっと知りたい人は、どこを見ればよいでしょうか?
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