AOne Games の共同設立者兼テクニカル ディレクターである Sebastian Gana 氏とゲームプレイ デザイナーの Felipe Muñoz にお話を伺うことができました。インディー デベロッパーとして格闘ゲームの新規 IP に取り組むなかで、対戦方法に柔軟性とクリエイティビティを発揮できたこと、Unreal Engine 4 の助けを借りて目標を達成できたことについてお話を聞きました。
Omen of Sorrow のリリースおめでとうございます。この度はお時間をとっていただき、ありがとうございます。 古典的なホラーやファンタジーの影響を受けた格闘ゲームはあまりありません。 Omen of Sorrow をこのような背景にしたのはなぜですか。
Sebastian Gana 氏: まずは、Unreal Engine を開発された Epic のみなさんに感謝いたします。今回のリリースを非常にうれしく思っています。このゲームについて詳しく紹介する機会をいただき、ありがとうございます。
私たちは、ビデオゲーム、古典的なホラーのキャラクター、メタル音楽が大好きです。Omen of Sorrow には、この 3 つの世界を融合したいと考えました。古典的ホラーのキャラクターを解釈し直し、闇の世界で戦わせることを思いつきました。こうしたキャラクターを戦わせたらおもしろいのではないかと単純に思ったのです。よく知られたキャラクターであり、集合的無意識に常に存在し、簡単に認識でき、特徴的な技のセットを使った対戦を容易に想像できます。
ゲームには、フランケンシュタインの怪物、クアジモト、狼男など、伝説、架空の生物が登場します。キャラクターはどのように選びましたか。
Sebastian Gana 氏:最初は何度もイテレーションを行いました。最初に選んだのは、Adam (フランケンシュタインの怪物)、Vladislav III (ドラキュラ公)、Caleb (狼男) など、最も古典的なモンスターでした。こうしたキャラクターがメインになると当初からわかっていました。候補はたくさんありましたが、対戦デザインのニーズや、プレイヤーが選択できるキャラクターの多様性を考慮して、キャラクターを選びました。Gabriel (ヴァン・ヘルシングに基づく) と Zafkiel (オリジナル キャラクター) は、新しいプレイヤー向けの操作しやすいキャラクターになっています。
Omen of Sorrow はスキルに重点を置いて作られています。このプロジェクトに最も大きな影響があった格闘ゲームは何ですか。
Felipe Muñoz 氏:難しい質問です。たくさんあるので、最も影響があったものとして 1 つだけ挙げることはできません。強いて選ぶなら、ストリートファイター ZERO 3 か、MELTY BLOOD シリーズでしょうか。でも、THE KING OF FIGHTERS や月華の剣士の影響も受けています。
新規 IP に取り組むインディー デベロッパーとして、地位の確立した格闘ゲーム シリーズよりも実験的であってもいいのではないかと思われますか。
Sebastian Gana 氏:ええ、そう思います。このゲームでは、好きなだけ自由に実験ができると感じていました。デザインと技術の観点から自由を奪ったところはいくつかあります。たとえば、ミイラのキャラクターは真っ二つに割れることができる点が非常に困難でした。プログラミング チームにとっては悩みの種でしたが、私たちは最初からそうすることを決めていました。
Omen of Sorrow の対戦は、他の格闘ゲームと比べてどのような特徴があるのか詳しく教えていただけますか。
Felipe Muñoz 氏:また、難しい質問ですね。この質問は、開発者よりもプレイヤーのみなさんのほうが答える資格があるのではないでしょうか。他とは違う、独創的なものを作ることを目指しても、それが成功したかどうかは受け手にしかわかりません。それを踏まえたうえで、私なりにお答えします。私は、学習曲線の位置が他の格闘ゲームと明らかに違うと思っています。他よりも高速で激しい戦いを地上で繰り広げる 2D 格闘ゲームという点では成功したと思っています。
ゲームの Fortune と Fate のシステムの仕組みについて説明していただけますか。
Felipe Muñoz 氏:もちろんです。Fortune と Fate は、プレイヤーのパフォーマンスとプレイスタイルの表示に趣向を凝らし、対戦の勢いも反映する仕組みです。Fortune は、圧力をかけ、攻撃することで獲得できます。これに対して、圧力を受ける側になるか、守りの態勢でプレイしていると、Fate を獲得します (そして Fortune を失います)。通常は、Fortune があったほうが、防御する立場になったときに、受けられる圧力の許容量が増えます。また、そのほとんどを費やすことで、コンボとダメージを拡張できます。しかし、最大の防御オプションは、Fortune が非常に低い状態で使用できるものです。うまく防御することにも強みがありますが、活用できるかはプレイヤーの技量の高さに大きく依存します。Fortune がなくなると、ノックアウトされたときに「Doomed」状態になり、攻撃によっては防御が突破される場合があります。Doomed 状態には陥りたくないので、対戦中に Fortune を健全に保つことが不可欠です。
Omen of Sorrow は、攻撃的なプレイのほうが高く評価され、守りに入りすぎると不利になるようです。 この辺りのデザイン理念について、お話を聞かせていただけますか。
Felipe Muñoz 氏:高速 2D 格闘ゲームを見ると、通常は垂直方向の動きが多いことがわかります。私たちが目指したのは、アクションやコンボにおいて垂直性に依存しない高速格闘ゲームを作ることでした。このことを念頭に、地上戦に適したコンボ システムを作りました。しかし、地上で長いコンボを出せば、画面端がそれだけ近くなることを意味します。コンボが多いゲームでは、画面端で攻撃がヒットすると致命的です。こうした理由から、ステージの幅が広くなりました。しかし、プレイヤーに広いスペースを与えると、必然的に距離を置いたり、逃げ回ったりすることが多くなるため、攻撃への意欲を強める方策が必要でした。ステージが広い別の理由として、「Retreat」のメカニクスがあります。私は防御オプションのファンですが、Retreat は無敵のバックダッシュで、中立的なゲームをリセットします。これだけでも、コーナーからコーナーへのゲーム エクスペリエンスが可能で、ステージが広くなれば、距離を置きがちな人にも有利になります。走る動き、そして圧力と前方への動きを通じた Fortune の蓄積を重視することで、この環境でこうした戦略の有効性が増さないよう抑制しています。
初心者にはプレイしやすく、格闘ゲームの熟練のファンにも十分な複雑さを提供するために、どのようにゲームプレイのバランスをとっていますか。
Felipe Muñoz 氏:格闘ゲームはその複雑さが原因で習得が難しいことを私たちは理解しています。ビデオゲームをプレイするとき、プレイヤーは現実世界よりも成功体験を容易に得ることを望んでいます。だからこそ、ゲームをプレイしているわけです。ゲームで勝つことが、実生活で成功を収めることと同程度に難しかったとしたら、誰もゲームをプレイしたりしないでしょう。このことを念頭に、Omen of Sorrow では、プレイヤーがコンボやダメージのチャンスを生かしやすいようにしました。これらは自動ではなく、研究しがいもありますが、リソース管理の方が対戦に重要で不可欠な要素になりました。こうすることで、格好よく戦ったりコンボを出したりしやすくなりますが、それだけでは熟練プレイヤーを負かすことはできない、というようにできました。
Omen of Sorrow は、有名な Street Fighter プレイヤーの Justin Wong 氏など、格闘ゲームのプロから高く評価されています。 インディー デベロッパーとして、また格闘ゲーム ジャンルの熱心なファンとして、それはどのような意味を持ちますか。
Felipe Muñoz 氏:信じられません。他になんと言っていいのかわかりません。刺激になるし、励みにもなります。Justin Wong 氏は、子どもの頃からあこがれていたプレイヤーであり、その意見は私にとってすごく重要です。ですから...本当にうれしいです。
Unreal Engine 4 のどこが Omen of Sorrow に合っていたと思いますか。
Sebastian Gana 氏:Unreal Engine は 3 の頃から 8 年ほど使っています。他のエンジンも使ったことがありますが、UE4 が現れたとき、疑いなく最適なエンジンになると思いました。コンソール向けと PC 向けに格闘ゲームを制作するために必要なものがすべて揃っています。UE4 に備わっているツールにはとても満足しています。ソース コードが GitHub で公開されてから、コミュニティと UE の問題解決能力により、このテクノロジーはさらなる進化を遂げました。技術的な立場から言えば、私たちはエンジンのメイン ループを変更することができ、これにより、優れた格闘ゲームの基本的な条件、たとえば決定論的な物理特性やシミュレーションを取り入れながら、開発を実施できるようになりました。
UE4 のツールや機能の中で、特にお気に入りのものはありますか。
Sebastian Gana 氏:C++ とブループリントの連携が特に気にいっています。C++ を使ってゲームの機能を実装し、外観の実装を公開するための橋渡しとしてブループリントを使用しました。このワークフローは、テクニカル アーティストが安全な実装を行うために非常に役立ちました。テクニカル アーティストは、一部の機能のプロトタイプを作成し、後でコードに移行することもできました。
ブループリントは他にどのような用途に使用しましたか。
Sebastian Gana 氏:外観の実装以外では、対戦の動きを構成する基本ツールとしても使用しました。必要なものを簡単かつ安全に変更できるため、ワークフローに非常に役立ちました。
全体的に、格闘ゲーム用エンジンとして UE4 についてどう思われますか。
Sebastian Gana 氏:テクニカル ディレクターとして言えば、UE4 は、コンソール向けと PC 向けにビデオゲームを開発するために必要なものがすべて揃った強力なツールです。これは格闘ゲームだけに限られません。UE4 がオープン コードになって以来、唯一の制約は、人々の問題解決能力だと思います。
オンライン対戦をスムーズにするために、どのような方策をとりましたか。
Sebastian Gana 氏:UE4 の柔軟性により、オンライン対戦用に高く評価されている GGPO システムを実装できました。そして、このシステムが、ゲームプレイ全体の開発の基盤となりました。オンライン ゲームを開発するなら、最初からこのことを念頭に、あらゆる対策を講じて、コーディングを行うことが重要です。これが私たちの理念です。また、ゲームプレイのデータ転送以外でも、仲介サーバーのネットワークを独自に作成しました。各サーバーは、Unreal Online Subsystem インターフェースの修正バージョンを通じて通信します。これは、UE4 との互換性を確保し、Omen of Sorrow でテストするために、並行して開発しました。このシステムによって、現在、クロスプレイも可能になっています。
Omen of Sorrow はアートのスタイルが独特です。 どのようにこのビジュアルに到達したか、聞かせてください。
Sebastian Gana 氏:キャラクターは古典的なホラー映画の影響を受けていますが、その表現の仕方は近代的で暗くなるようにしました。有名なチリ人アーティスト Gonzalo "Genzoman" Ordonez 氏が、デザイン プロセスにおいて大きな助けになりました。
Felipe Muñoz 氏:古典的なモンスターとその特徴的なルックスを思い出しながら、独自の表現を加え、オリジナリティも追求しました。また、Omen of Sorrow は欧米のゲームのルックスを参考にしましたが、こうしたゲームをただ真似るだけのつもりはありませんでした。私たちは、日本のゲームや、そこから連想するアニメにも関心がありました。メカニクスの面でも、欧米よりも日本のゲームに近くなっていました。このため、必然的にアニメの要素も少し取り入れることになりました。
チームは何人で作業されていますか。
Sebastian Gana 氏: 私たちは 2015 年に 4 人でスタートしました。現在、チームは 27 人から構成され、さらに音声、音楽、実装を担当するフリーランスが 4 人います。
インディー デベロッパーとして、開発時に直面した最大の課題は何でしたか。また、それをどのように克服しましたか。
Sebastian Gana 氏:開発中に、格闘ゲームを開発するのは難しく、敬意を表すべきことだと学びました。非常に高いレベルの技術力と細部へのこだわりが必要だからです。私たちのチームにとって、これは、すべての領域で特別に綿密、入念に取り組むことで、手直しを最低限に抑えながら前進できるワークフローを確立することを意味しました。
開発自体に関しては、UE4 で調べることがたくさんありました。たとえば、格闘ゲームは常に 60 FPS で動作する必要がありますが、これはアートに関する目標とゲームの最適化のバランスの面で達成が困難でした。これに対処するため、膨大な研究を行い、ゲーム モデルをインポートし、テクスチャやパーティクルの使用を実装するための厳密なフローを確立する必要がありました。すべてのテストのベースとして PS4 コンソールを使用しました。シャドウの負荷を下げるために、レンダリング システムを変更する必要がありました。UE4 ではこれが可能です。また、エンジンのスレッドよりも高速で動作するように、入力システムを変更する必要がありました。これは何よりも、プレイヤーがコントロールの感覚を強化できるようにするためでした。どの機能も、UE4 のソース コードがオープンになっていなければ実現しませんでした。
いずれにしても、チームとして学ぶことがまだたくさんあると思っています。これは私たちにとって初めてのリリースであり、コミュニティとそのフィードバックに積極的に耳を傾けています。
チリでは、有名なゲーム デベロッパーがまだ多くありません。 Omen of Sorrow のリリースで国を代表するのは、どのような気分ですか。
Sebastian Gana 氏:このリリースで自国を代表できることはもちろん誇りに思っています。チリは、ビデオゲーム開発の業界が台頭しつつあります。健全なデベロッパー エコシステムが組織化され、互いに助け合い、知識や経験の共有にオープンです。チリでビデオゲームの開発に携わっている企業は多くありませんが、私たちは、これまでにリリースしたタイトルによって、優位な立場に置かれています。
将来的にアップデートの予定はありますか。
Sebastian Gana 氏:はい。ゲームを継続的に改善し、キャラクターを追加する計画がたくさんあります。伝統的なゲームのように、アンロックしてから使えるようにしたいと思っています。ソーシャル メディアやそれ以外で、あらゆる批判やフィードバックを受け入れていますが、急を要する問題に先に取り組んでいます。異なるプラットフォームを対象とするリリースの計画もありますが、それにもこうした改善点が含まれます。新しい機能がたくさん用意されている PC バージョンにご期待ください。
改めまして、本日はありがとうございました。 Omen of Sorrow についての詳細情報はどこで確認できますか。
Sebastian Gana 氏:Web サイト http://www.omenofsorrow.com をご覧になるか、ソーシャル メディア (Facebook、Twitter、YouTube) でフォローしてください。
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