次世代ゲーミング:業界の展望

Brian Crecente
編集者注:ゲストの Brian Crecente 氏はビデオゲームサイトの Kotaku を創設し、 Polygon を共同創設しました。また Rolling Stone と Variety のビデオゲーム担当編集者でした。現在パブリッシャーやビデオゲーム業界を対象にしたコンサルタントとして働いています。

この「次世代ゲーミング」シリーズでは、Brian Crecente 氏がゲーム業界の様々な人物にインタビューし、次世代のゲームについて、様々なジャンル、プラットフォーム、チーム規模、ビジネスモデルなどに渡って客観的な全体像を明らかにします。


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最先端の尖った技術の刃先の上で、ゲームコンソールの次世代への移行においてバランスを探す今は、ゲーム開発の現状と展望について議論するには面白い時です。

新世代のコンソールを熱心に待ち望みながら、今世代のハードウェアから学んだ教訓を振り返りましょう。様々な開発スタジオのクリエイターやリーダーが次世代ゲームで期待される最大の素晴らしいイノベーション、これまでの制約でありインスピレーションの元にもなってきた技術的制限、これからのゲーム開発の方向性について議論します。
Image courtesy of House House and Panic

エンジン/ツール

「常にこれは重要なトピックであり続けますが、今、特に良い状態になっています。非常に強力なハードウェアといったお決まりのものに加えて、この世代では Unreal や Unity といったサードパーティ エンジンが隆盛しました。」とUnity of Command II を開発した 2X2 Games のエンジン・グラフィック プログラマの Jure Ratković 氏は語ります。「今のインディーチームは、かつてはゲーム開発では必須となっていた、非常に高レベルの技術力がなくても、小さめのゲームを作ることが可能です。これでより多くの人が業界に参入できるようになりました。」

House House で Untitled Goose Game の制作を助けた Nico Disseldorp 氏は、この世代での最大のイノベーションは、使いやすいゲーム制作ツールの普及だったと指摘します。

「House House ではこの世代のはじまりの時にゲーム制作者だった人間はいません。ツールを使いながら必要な使い方を自分たちで学習しました。今のツールはずっと使いやすく、アプローチしやすいからそうしたことが可能になりました。」

Nomada の創設者の一人である Roger Mendoza 氏はこの数年はクリエイターにとても寛大だったと振り返ります。そして Bithell Games から John Wick Hex をリリースした Mike Bithell 氏は、この時代を、技術に溢れた時代だと呼んでいます。
Image courtesy of Bithell Games and Good Shepherd Entertainment
「AAA 大作はハイエンドで力を余すところなく発揮していますが、非効率性が残る野心的な作品も制作する余地があります。簡単に言い換えましょう。隅々まで最適化しなくてもプレイヤーが期待するパフォーマンスを実現するゲームを作ることが可能なので、ゲーム開発の敷居が下がります。」

「このおかげで、一つのツールに過大な投資や浪費をせずに、様々なジャンル、様々な規模のゲームを飛び回って作ることが可能になりました。作るゲームが多様なものになりました。プレイヤーにとっても面白いことであり、自分たちにとっても面白く商業的にも成功することができました。」

Riot Games の知的財産副社長である Greg Street 氏は開発ツールの世代の跳躍によって、未来のデベロッパーに語りかける言葉が変わったと語りました。

「業界に入りたいと考えている若者と話をすることに多くの時間を使っています。何年も前には『StarCraft エディタを使って、何ができるか試してみよう』と伝えていました。今ではそうした若者に Unreal や Unity を紹介して、友達と、小さいものでよいので、実際にゲームを作ることに挑戦することを勧めています。」

Epic で Unreal Engine のビジネス デベロップメントを率いる David Stelzer も使いやすいゲームエンジンが成長し、ゲーム開発を始める敷居が下がったことが現世代に大きな影響を与えたと考えています。

「ゲーム開発がこれまでになく簡単になり、コスト的にも効率的になったと考えています。そのまま使えるゲームエンジン、大学やその他の教育プログラム、YouTube ビデオなどによって、誰でもブラウザや、本、オンラインコースでいろいろな方法で、様々な形のゲームを作る基礎を学ぶことができます。」
Image courtesy of Epic Games

サービスとしてのゲーム

この世代で達成されたグラフィック忠実度の大幅な向上と同じくらい重要なものがあるかもしれない、と Stelzer は指摘します。

「この世代では、サービスとしてのゲームが真に広がり、巨大なパブリッシング組織を持たない多くの会社もサービスとしてのゲームを作れるようになりました。」

この新しい「サービスとしてのゲーム」というモデルによって、カスタマーとより近い関係を築き、カスタマーが望むものにより近いものを早くイテレーションする能力が大事になります。Stelzer はフォートナイトはその一例と指摘しますが、もちろん、他にも適切な例が多くあるとも述べています。

イテレーション速度

Riot の Street 氏はまた、イノベーションによって制作スピードが上がることが開発において大幅な改善をもたらすと考えています。「今では、コンセプトの検証中であっても、モデルやアニメーションの生成を即座に開始することができます。 ゲームデザインにとって非常に重要であるイテレーションのフェーズに以前よりずっと早く到達することが可能になります。」

Stadia のゲームプレイ リサーチ及び開発グループのソフトウェアエンジニアでありゲームデザイナーである Aaron Cammarata 氏は Timex Sinclair 1000 の時代から25年以上プロとしてゲーム制作をしています。Cammarata 氏は開発スピードの向上が、他の何よりもゲームの品質に影響すると考えています。「早く制作ができ、試して問題を直すことも早く行えると、ゲームはよりよいものになります。そういうものなのです。」

自分がゲーム開発をはじめた90年台半ばでは、すべてのものが自社のカスタム性のものだったと Cammarata 氏は振り返ります。開発スタジオは、ゲームだけではなく、そのゲームを作るためのツールも自分たちで開発することがよくありました。「一方、現在を考えると、利用できる既製品のソリューションがいくつも存在しています。エンジンだけではなく、エコシステム全体があります。マーケットプレイスに、デベロッパーのコミュニティ、プラグインやモジュールまであります。つまりクリエイターはアイデアをより短い時間で画面に出すことができるようになり、毎年これだけの素晴らしい作品が数多く市場に出るようになったのです。リアルタイム編集でアイデアからバグ修正、実装までのループは数分、時には数秒になります。これは『デイリービルド』は過去の存在になるかもしれないということです。クリエイターが心の中に描いたゲームを作る上で、この速度のおかげで、可能性を探してテストし、失敗して、戻って新しい発見をするという自由度が生まれます。」
Image courtesy of Gearbox Software and 2K Games

ツール/エンジン

Gearbox の CEO である Randy Pitchford 氏は、強力なコンピューターと安価で使いやすいツールが組み合わさって、現世代のデベロッパーとゲームが形成されたと指摘します。デベロッパーが既成のツールを使うことができる、というだけではなく、予算のより多くの部分を画面に登場するものに注ぎ込めるのです。「ゲームデベロッパーにもプレイヤーにもとてもワクワクする時代です。」

ディテール

Obsidian Entertainment の CEO である Feargus Urquhart 氏の目に写ったこの世代での改善点には、クロスプラットフォームプレイやセーブもあります。プラットフォームとプレイヤーの障壁を取り除くことを助けるものでした。しかしさらに大きな変化は、Obsidian のようなデベロッパーがプレイヤーが探索して遊べるようなより大きく、動的な世界を作ることを助けるようなものでした。

「特定の技術と、それがゲームへのアプローチをどのような変えたかについて考えています。そして、プレイヤーのための世界をどのように作るかについて集中して考えます。次世代では、何が可能になるかが重要です。どれだけのシネマティクスが可能で、どれだけ大きい世界を制作でき、その世界をどのくらいの密度にできるか?といったようなことです。」

ライティングといったものの改善も大きな影響があると Urquhart 氏は述べています。「ライティングの良さは、その世界に存在しているような感じがするかに大きく影響します。その場にいる感覚と世界に深みを与えるためにゲームでのライティングに非常に力を入れていることについて、多くの人はあまり認識していないように思います。」
Image courtesy of Obsidian Entertainment and Private Division
Urqhart 氏は2010年にリリースされた Fallout New Vegas と去年リリースされた Outer Worlds を一例として比べると、技術の進歩がゲームに与えた影響がわかりやすい、と話します。

プレイヤーが「世界に触れる」ことができるという物理システムの進化と、そのための既存ツールの存在が合わさって、ゲームデベロッパーにとっては自分でツールを作る必要が減り、制作物に命を吹き込むために時間を使用できるようになりました。「昔を考えると、その時使っていた多くのツールなどは、自分たちで作り出す必要がありました。自分たちで作ることも必要ですが、既存で誰でも使えるものが増えると、世界自体の方に集中することが可能になります。」

パイプライン

Ubisoft もまた近年のツールセットとグラフィック忠実性の向上が現世代のゲームに影響を与えたと考えています。Ubisoft のケベックシティ オフィスで Scimitar/Anvil パイプラインのリードアーキテクトをしている Pierre Fortin 氏はこのように述べています。「この世代のゲームはサイズ面で大きくなりました。クリエイターはより大きく、よりリアルな世界を作ることが可能になりました。グラフィック忠実性が劇的に向上し、業界のアーティストもグラフィック プログラマーのスキルが試されることになりました。物理ベースのレンダリングや詳細なグローバル イルミネーションは、近年、すべてではないとしても多くの AAA 大作ゲームで取り入れられるようになりました。」

ただ、Fortin 氏は、こうした消費者に見える進歩もある一方で、デベロッパー側の世界を制作する方法においてさらに大幅な進歩があったと補足します。「この10年間でゲームの制作方法が劇的に変化しました。私が目にした大きなイノベーションのいくつかは、クリエイターが大きなゲームを作ることを可能にするような舞台裏に存在するようなものでした。制作パイプラインにおけるプロシージャル生成の登場と、AI の使用の増加により、より賢く仕事ができるようになりました。量を目指すのではなく、質の向上に注力できるのです。これが直接、制作物の質の向上に繋がります。テクスチャの生成、フェイシャル アニメーションの合成、最適化オブジェクトの生成(LOD)から世界の生成まで、コンテンツ合成の自動化は、これまでの流れをまったく変えてしまうものでした。」

課題

ゲームエンジンの普及、グラフィック処理能力の拡大、イテレーション速度のこれまでにないほどの向上といった進歩が現世代でありました。こうした進歩が今現在のゲームを形作る助けになった一方で、思い描くものをコードに実装する際に直面する制限も、今のゲームを作り上げる要因になっています。
Image courtesy of Ubisoft Montreal and Ubisoft

パイプライン

Ubisoft の Fortin 氏は、現在のツールと技術は限界に到達し、「押し付けられるデータの量の圧力から亀裂が生まれている」と述べています。 ゲームの世界は、さらに複雑に、リアルに、有機的なものになり、そうした世界で移動しインタラクションを行うためにキャラクターをアニメーションさせるシステムも複雑化しています。そうしたものを機能させるために用意する必要がある手動で用意するデータ量が増えてきて、維持するのが難しいところまで来ていると Fortin 氏は考えています。

Fortin 氏は Ubisoft の Assassin’s Creed OriginsOdyssey を現世代での例として挙げています。

「世界は非常に広大になり、その中での詳細描写も向上し続けています。Assassin’s Creed ブランドでは、かつては世界のすべてを手動で作り上げていました。細心の注意を払ってプロップ、建物、特徴的な地形などを配置していました。今では、人間が制御するプロシージャル生成で、同様の結果を生み出しています。これによって世界のサイズを大幅に拡大することができました。チームは量より質に注力することができるようになりました。しかしながら、このプロシージャル生成の結果は静的で完全に最適化された世界です。実行時にできる変更は限られてしまいます。こうしたデータを現世代のコンソールハードウェアで再生成することは現実的ではありません。そのため世界への物理的変更、例えば、新しい都市の追加や地形の変更など、について制限があります。」
Image courtesy of Ubisoft Montreal and Ubisoft

生き続けるゲーム

現世代の大作 AAA タイトルでは、規模や複雑性が増大しただけではなく、そのライフスパンが伸びました。このことが、事態を悪化させるわけではないですが複雑にしています。Assassin’s Creed のような大作は、かつては一度素晴らしいシングルプレイヤーを遊んだら終わるものと考えられていました。今では、リリース時の物語、ゲームプレイからさらに発展していくという期待が膨らんでいます。そして最も基礎的な問題に直面します。容量です。

Fortin 氏は述べています。「よく見逃してしまう技術的問題としては、パッケージングや、ゲームの更新やパッチの配置があります。Assassin’s Creed Odyssey のような作品では、Blu-ray ディスクの容量全体を使い、実行時のアセットストリーミングのパフォーマンスを最大化しています。この実現のために、従来のハードディスクでのシーク時間を最適化するような方法で、データを切り刻みマージする複雑なポストプロセスをビルドのパッケージプロセスで行っています。そのため、更新で一つのアセットファイルやプロパティを置き換えるのも単純ではなく、ベイク済みの世界で依存関係を多く持つ大きいデータの塊を置き換えるのはさらに困難です。Assassin’s Creed Odysseyでは、ディスクの製造後に制作され、定期的にリリースされるコンテンツで満載のローンチ後の長い計画がありました。この計画と、プレイヤーにとって楽になる最小の更新サイズを実現したいという強い気持ちの両方によって複雑な状況になります。実現できるローンチ以降のコンテンツへの取り組みには成功しましたが、それでも制限はありました。」

技術は進歩しますが、ある意味その進歩によって、デベロッパーはバランスに関する大きな制限に直面することになる、と Urquhart 氏は考えています。「時間、リソース、忠実性です。現在のハードウェアでもエンジンでもあまりに多くのことが可能です。どこで戦うかを選ばなければなりません。972 個のマテリアルを持つ世界でこれまでみたことのないほどの美しいポリゴンをレンダリングして、完璧な壁で、光を屈折して、完璧な影があったとしても、それだけでは世界にはならない、と思いませんか?なので私達はいつも考えています。あれはどう最適化しよう?このプレイヤー体験をどう最適化しよう?忠実性とフレームレートのバランスの問題で、ここに壁があります。」

Urquhart 氏はこれを「科学者 vs エンジニア」の問題とも表現しています。科学者は素晴らしいものを発明しますが、実装のコストについては考えないことがあります。そして、エンジニアは、現実世界に現実的なコストで実現する方法を考える必要があるのです。

「様々な最先端の技術にアクセスはできます。ただ、複雑になった技術を実際にゲームで実行できるようにするにはどうしたらよいのでしょうか?ゲームがリアルになるにつれて、技術についての2つの壁に直面するのです。」
Image courtesy of Google

物語の欠如

Stadia の Cammarata 氏はダイナミックなストーリーテリングにおける技術的イノベーションの欠如を嘆いています。彼は進歩が止まっている障害になっているのはソフトウェアというよりハードウェア側であると考えています。「何十年もダイナミックなストーリーテリングを作りたいと考えていますが、まだ実現できていません。いつか、好みや気分や使える時間やプラットフォームに合わせて、『ストーリーテラー』が物語とコンテンツを生成する、一生遊べる一つのゲームというものが実現する日が来ます。ここで課題となるのは、この全体を統括する『ディレクター』は人間の状態について深く理解する必要がある、ということです。私は機械学習や AI のゲームへの適用の最前線にいますが、それでもまだこの目標には遠い、と考えています。素晴らしい物語を作成するには、世界に『存在する』ことがどのようなことであるかを理解し、恐れや、誇り、安心をあたえる方法を理解する必要があります。現在の技術と方向性では、そうしたところに到達する近道があるかはわかりません。」と Cammarata 氏は説明します。ハードウェアの改善速度には限りがあり、そうした部分の発展が機械学習や人工知能でのイノベーションを起こす能力を決めているのです。

ハードウェアバランス

Stadia Lab のテクニカル アート ディレクターの Omar Skarsvå 氏はアニメーション技術、キャラクタ開発とパイプラインを20年以上専門にしています。Skarsvå 氏 も Urquhart 氏と似た問題を指摘します。すべてはバランスの問題です。Street 氏と同じく、デベロッパーが「ハードウェアに縛られている」からそうなると彼は考えています。

Skarsvå 氏はこう述べています。「もし、実行するソフトウェアの必要に応じてリアルタイムで『コンソール』がスケーラブルに対応できるなら、もっと多くのことができるはずです。」このハードウェアの問題は、ハードウェアのリードタイムによってさらに悪化します。「大体最近のコンソールの3世代は7年間続きました。ハードウェアの観点でいえば、リリース時は最高のハードウェアですが、平均的には3.5年前のスペックのマシン向けに開発することになります。これには代償があります。ただ、一方で、すべてのプレイヤーに対して、ゲームが同じように動作する安定したしっかりしたプラットフォームが得られる、という面もあります。PC の進歩は常に連続的です。しかし、サポートしなければならないスペックが多様になり、悪夢のように大変になります。」

すべてをクラウドに移行し、自動的にハードウェアを更新していく Stadia のアプローチはコンソールの制限を取り除く方向です。このアプローチは膨らみ続けるクリエイターのビジョンを実現しやすい環境を可能にします。

標準化の欠如

標準化の欠如と閉じたプラットフォームも、現世代における大きな制限であるとデベロッパー達は指摘しています。2X2 の Ratković 氏は、柔軟なクロスプラットフォームレンダリングが今現在でもまだ存在していないことに驚いていると述べています。

Ratković 氏は語ります。「私はレイトレーシングに熱狂していて、レイトレーシングのイノベーションを見るのが大好きです。今、私が一番心配していることは、レイトレーシングに、少しプロプライエタリの感じが出てきていることです。例えば NVIDIA の RTX と OptiX で素晴らしいレイトレーシングを実現できますが、クロスハードウェア、クロスプラットフォームでレイトレーシングをしようとすると、パフォーマンス上で大きなペナルティを受けます。私は今より良いクロスプラットフォームのレイトレーシングを見てみたいです。標準化されたレイトレーシング API は大いに成功するでしょう。」

インディーの制約

Bithell 氏は語ります。「ビジュアル面で興味深い変化が起こるのでは、と感じています。AAA 作品は、レイトレーシングをいち早く取り入れてグラフィック品質が飛躍的に向上することになります。この実現には専門性が必要になり、インディーにとっては対応が難しくなるかもしれません。これについては、スタイライズと、大胆なアート方向性の選択によってうまく回避することもできるでしょう。」

インディー作品のチームサイズを考えると、小さい開発チームでは、どの部分に集中してエネルギーを投下するかという取捨選択がさらに必要になってきます。

House House の Disseldorp 氏は以下のように述べています。「面白そうなものはいろいろあるのですが、私達のようなチームでは実際に使えるかというと、そうではないものもあります。もちろん、意欲があり、技術に集中できるチームにとっては、実現できることがいろいろとあります。ただ、特別の技術的機能をゲームに追加すると、ゲームの世界で同時に実行できることに大きな制限が加わってしまいます。開発の時間がかかることと、パフォーマンスの両方の理由からです。」

ただ、話を伺った他のインディー開発者と同様に、彼はこの問題を障害というよりは、ゲームを形付けるものだとみなしています。

Disseldorp 氏は述べています。「私達のゴールは、その時使えるツールの制約の中でうまくいくものを探す、というものです。制約があるというのは、役に立つことです。興味深い制約からは興味深いゲームが生まれます。もし、これから10年間、2019年の技術だけでゲームを作り続けることにしたとしても、それでも面白いなにかが見つかると思います。現在でも、Quake エンジンやファミコンといった制限の中で制作することを選んで実行しているゲーム制作者は数多くいるのです。」
Image courtesy of Counterplay Games and Gearbox Publishing

制限

Gearbox の Pitchford 氏は、技術的制限は常に存在し、それがイノベーション発生を刺激する強力なツールになると述べています。「Half-Life のセガ ドリームキャストへの移植を助けた時のことを覚えています。ドリームキャストの VMU(セーブデータを保存するデバイス)のメモリ合計が 128K で、この容量を他のゲームも使うというところに課題がありました。その一方で、Half-Life のセーブデータは平均して約 2MB でした。締め切りは近づき、エンジンのセーブシステムを最適化するといった通常のアプローチは、この課題を発見してから解決までに残された限られた日数を考えると困難でした。」

「ここでの解決策はテクニカル ディレクターが思いついたもので、辞書のようなアプローチになりました。ゲームは光学ディスクに収録され、膨大な余りスペースが存在していました。この余りスペースに起こる可能性があるセーブデータファイルを保存し、ファイルの指定情報とごく僅かな差分だけを VMU に保存することにしました。これで 2MB のセーブデータになるはずのものが、数十KB に圧縮できたのです。」

Pitchfork 氏は有名な作曲家のレオナード・バーンスタイン氏を引用しました。「偉大なことを実現するには2つのものが必要になる。計画と、不十分な時間だ。」

Ubisoft の Fortin 氏も制限を同じようなものだとみなしています。イノベーションを生み出す機会の一つだと考えています。「Ubisoft でも業界全体でも、仲間たちが生み出す賢いイノベーションや最適化にいつも驚かされています。」

未来

ゲームがさらに大規模で複雑で長い間遊ばれるもになるということは明らかです。ゲームデベロッパーにとって直近の問題として、生成し組み合わせ処理するデータ量それ自体が膨大になるということがあります。

マシン AI

Fortin 氏は機械学習と人工知能の大幅な技術進歩が将来のゲーム開発での重労働の一部を肩代わりするということを期待しています。 

「最近見かけた中で最も期待できるプロトタイプのいくつかは、機械学習を使い、素晴らしい品質でデータを合成していました。プロシージャル生成から自然と発展するトレンドのように思います。従来のアニメーション作業がなくなるということは当面ありませんが、間を埋めるアニメーションの生成など退屈なアニメーション作業については、近未来に機械学習アルゴリズムが対応する仕事になるでしょう。そうすればアニメーターは人間の判断が必要となる、重要な部分に注力できるようになります。これは、AI が補助する人間手動のプロシージャル データ生成、と私が呼ぶようなものの一例に過ぎません。」

彼はまた、機械学習はゲームバランス調整、チート検出、ゲームのテストの自動化、ランタイムのゲーム AI といったものまで様々な領域で役割を果たすようになると考えています。

「機械学習は、制作段階でも、実際のゲーム実行の段階でも多くの可能性があります。もちろんすべての問題を解決する銀の弾丸ではありません。それでも、大いに投資する価値がある領域と思います。」

業界はフォトリアルなゲームでの不気味の谷を急速に乗り越えようとしていますが、その一方でグラフィック品質と、アニメーションや AI の品質といったものの間のギャップが広がる可能性が高くなります。それがまた別の種類の不気味の谷になります。

「グラフィックが素晴らしくフォトリアルでも、NPC キャラクタがロボットのように振る舞っているのが見えたら、リアルであるという幻想は破壊されてしまいます。」
Image courtesy of Riot Games

より簡単に

Cammarata 氏は次世代のゲーム制作ツールはさらに簡単に使えるようになることを願っています。ゲーム制作のプロセスが謎ではなくなり、ゲームを作ろうと興味を持ち、実際に作成する人が増えることになります。

「ゲーム制作という障壁を超える人が増えれば、様々なユニークな視点から、文化的に多様なコンテンツが実現するでしょう。私は新しく変わったコンセプトのゲームを見てみたいです。ヒンズー神話のゲームや、オーストラリアの原野とドリームタイムについてのゲームや、熱湯が噴出する深海に生きるバクテリアについてのゲームなど…この惑星に生きている、今までゲームデザイナーではなかったとしてもクリエイティブな人間による、想像を超えた面白いゲームを見たいのです。」

ライブラリ

Urquhart 氏はエンジンの基礎的な改善には大きな利点があると指摘します。新しいデベロッパーも既存のデベロッパーも、「車輪の再発明」に費やす時間が減るからです。

「この話は馬鹿げて聞こえると思います。ですが、毎回、人間キャラが椅子にどのように座るのかを作り直さなければいけません。他のことに注力できていません。デベロッパーが RPG を作るとします。ほとんどのゲームにはインベントリシステムがあり、皆が新しいインベントリシステムと UI を作っています。ドアだってそうです。ドアを作り直すのです。どうして馬が登場するゲームは限られているか知っていますか?馬は非常に複雑で困難です。うまく作ったとしても、ぎこちないものになります。つまり、毎回新作の開発を始めるときには『馬を出すの?』といった会話になります。これは、とても、地味な技術だとは思います。それでも、こうしたものの下地があれば、デベロッパーは得意とする部分により注力できるはずです。」

Riot の Street 氏は、これを岩問題と呼んでいます。

「デベロッパーは毎回時間をお金をかけてゲームのアセットを生成します。毎回作り直す必要のないものもです。オープンワールドゲームはすべて、草と岩と木を必要とします。同一の標準化された岩アセットをすべてのゲームで見るのは嫌ですが、それでも、毎回『何個の岩が必要になる?』という話をするのは不必要と思います。」

Street 氏は会社がほぼ同じツールを再開発するのに時間を使っていることを指摘します。アカウント接続、ソーシャル機能、プレイヤー行動トラッキングについて、より専門的で改善されたベースとなるツールが出てくることが望まれています。

Street 氏は「こうした機能がサポートがよい商用ツールで存在したら素晴らしいでしょう。」と述べています。

2D アニメーション、AI 補助による制作の効率化やコンソール電力消費の削減、など様々な改善についても期待されています。

イテレーション

Pitchford 氏は、今回の次世代でのイノベーションが、再発明よりイテレーションに近いことにワクワクしていると言っています。

「ムーアの法則が進行していてより多くの処理力を得られると、いつもうれしくなります。また従来のゲーム業界が CPU の基礎アーキテクチャの元にある意味集結したので、(毎世代一からやり直すのではなく)ソフトウェア基盤のイテレーションによってより進歩できるということも素晴らしいと思います。基盤が安定してくると、抽象化をより柔軟に行うことが可能になり、基盤に対してのゲームのコストが減り、プレイヤーが直接見て感じて体験する部分にゲームのリソースを投入できます。自分たちが使うお金はすべて画面に映るものに投入したいと思っています。Gearbox のゲームを遊ぶプレイヤーには、購入に使ったお金に対する最高の価値を感じてほしいからです。また、分散コンピューティングや同期コンピューティングの進歩にも期待しています。別の場所や別のプラットフォームでもスムーズにゲームを遊ぶことができ、ゲームコレクションを買い直さなくても、次のハードウェアに移行したり、ハードウェアのアップグレードができるようになります。」
Image courtesy of Gearbox Software and 2K Games

ゲーム ロジック

Pitchford 氏はゲームロジックへの創発的アプローチが次世代のゲーム開発を特徴づけると考えていますが、新しいツールによって抽象化のレイヤーが増えて下流でのデバッグが難しくなることにも注意が必要だと指摘します。

「Unreal Engine のブループリントは非常に強力なビジュアルスクリプトシステムで、様々な領域のクリエイター(プログラマ以外)もゲームロジックを手早く簡単に作り上げ実行することを可能にします。ブループリントはゲーム開発の歴史の中でも最も素晴らしいゲームロジックのプロトタイピングツールと言えるかもしれません。実質的に、誰でもゲームが制作できるのです。」

「最も規律が取れた開発は、プロトタイプは必ずしも柔軟な技術を使ったものではなくロジック上の欠陥(バグ)や非効率性(パフォーマンスの問題)があるということを認識して尊重するでしょう。そして、プロトタイプで作られたシステムや機能については、最適化やこれからの制作やメンテナンスで使いやすくするための作り直しの時間が必要になると予期します。」

Pitchford 氏はまた、実世界の問題とベストプラクティスの間に自然と起こる衝突によって、最高のゲーム プロトタイピングであっても、アプローチを間違えばプロジェクトの弱点になりかねないことを述べています。

ツールの複雑性

制作する製品が複雑になると、ツールの改善が必須になると、Fortin 氏は述べています。

「現在の超大作の AAA ゲームのトレンドがこの先でもあてはまるなら、これから、さらに大きく、オープンで、持続して存在し、接続した世界…宇宙といってもいいかもしれないものが登場します。プレイヤーを中心にして進化していく世界です。現世代の最新のゲームは、これまでのゲーム開発で維持可能だった範囲の限界を広げるものでした。最大の課題となるのは、ゲームの読み込み、パッケージ化、レンダリングですらないでしょう。量と質の両面において、どのようにコンテンツを生成するかが課題になります。例を挙げましょう。小屋は金槌で作ることはできるかもしれません。それでも、ネイルガンなしにオフィスビルを建てるのは無謀です。こうしたことから、データ制作について様々な新しいパラダイムシフトが起こることを期待しています。」

機械学習

Cammarata 氏はまた、次世代のゲーム開発において機械学習の使用が実質的なスタンダードになると考えています。

「機械学習とゲーム開発のハイブリッドアプローチがみられるようになるでしょう。少ない作業と少ないコストで膨大な高品質なコンテンツを生成できるようになるのです。コンテンツの作成は、自分でアセットを直接作るというより、新しいツールで機械学習による生成を指導して調整する、というものになるでしょう。パラメトリックな考え方ができ、プロシージャルコンテンツを理解しているデベロッパーが最先端になります。ゲームチームは、アセットリストの完了とバグカウントの削減を目指す、というより、生成されるコンテンツのキュレーションを中心にした構造になるかもしれません。コンテンツが足りないのではなく、有り余ることになります。ビジョンを実現するのに必要なものだけを作るというより、合わないコンテンツを削る、という方向になります。」

「今は、機械学習を制作で使うようになる直前の状態と思います。まずゲームツールで使われるようになり、その次はゲーム本体です。機械学習ベースのパイプラインはコンテンツ制作の次元を変えてしまうものになります。」
Image courtesy of Ubisoft Montreal and Ubisoft

ディープラーニング

Mendoza 氏は次世代のゲーム開発ではディープラーニングが使われると考えています。「将来ディープラーニングが大きな役割を果たすと考えています。既にアンチエイリアスの技術として使われていて、キャラクタアニメーションでの使用が研究されはじめています。これが始まりとなって、さらによい使用方法がでてくるでしょう。ディープラーニングと AI のビヘイビアシステムが組み合わさって次世代を決定づけるものになることを願っています。AI のビヘイビア システムはこの十年ほぼ同じようなものに留まりました。進歩が最も遅い領域の一つだと感じています。もしディープラーニングと組み合わせてより知的でリアルな振る舞いの NPC キャラを実現できれば、素晴らしい進歩になります。」

常に進歩する技術がビデオゲーム制作でのイノベーションのすべてを駆動しています。どの年もゲーム開発にとって黄金期になっています。 

使いやすい開発ツールの普及とゲームプラットフォームへのアクセスが容易になったことで、ゲームのリーチが爆発的に広がり、ゲームを作る人にとってもチャンスが増えました。グラフィックハードウェア自体の力が増大し、ソフトウェアも豊かになったことで、ゲームのビジュアルは根本的に改善しました。技術は向上し、新たな不気味の谷が生まれそうになっています。技術はプレイヤーの遊び方も変化させて、新しい種類のインタラクションが生まれています。新ジャンルだけではなく、新しいカタチのマルチプレイヤー体験が発生しています。

Ubisoft の Fortin 氏はハードウェアとソフトウェアの進歩の両方が、ゲーム全体を進歩させるループを生み出していると指摘しています。ただ、その逆も正しいかもしれないと Fortin 氏は指摘します。

「技術の進化にとって、ゲームはどのくらい重要でしょうか?開発者向けのカンファレンスに参加すると、私達ゲーム業界に注目するビジネスや業界が増えていることに感銘を受けます。リアルタイム レンダリングが映画や CAD 業界に取り入れられ、複合現実(AR)やバーチャルリアリティ(VR)は重工業で労働者の安全を改善するためにも使用され、Clever Commit といった自分たちの開発ツールが他の会社でも早期にコード欠陥を見つけるためにつかわれ、ゲームによる CPU への要求だけでもモバイルデバイスのハードウェアを発展させ一般的な仕事ができるようになっています。ゲーム開発による技術イノベーションがゲームを超えた影響を与えているのは否定できないと思います。」 

「こうした理由で、ゲームは技術によって進歩する一方で、ゲームが技術を進歩させていると言えるのです。」

次回予告

次回の記事では、Xbox Game Pass、Google Stadia、Apple Arcade といったサブスクリプション サービスのゲーム開発への影響について検証します。サブスクリプション ゲーミングの利点、欠点、避けられぬこと、では幅広いゲーム制作者とプラットフォーム 関係者からの意見をお届けします。
 

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