「Clair Obscur: Expedition 33」の体験の中心には、リアルタイム メカニクスを取り入れたユニークなターン制バトルがあります。 こうした戦闘システムを開発するうえで、どのような課題に直面しましたか?また、ゲームプレイとして「これだ!」と思える手応えを、どのようにして確かめていったのでしょうか?
Guillermin 氏:プロジェクトの初期段階で、Guillaume と私は、反応性の高いターン制バトルのプロトタイプをいくつか試作しました。攻撃には、呪文発動時のクイック タイム イベントやフリー エイム メカニクスといったリアルタイム操作を取り入れ、防御側では、回避や受け流しによるシステムを組み合わせています。まだ基本的なプロトタイプの段階でも、これはターン制に新しい風を吹き込めるものだと感じていました。とくに回避や受け流しのタイミングといったリアルタイム要素のバランス調整には、かなり試行錯誤を重ねました。その結果、今ではベストな状態に仕上がっていると思います (受け流しを連続で成功させたあとに反撃を決められた瞬間が、何より気持ちの良いものになっていると思います)。
かなり初期の頃、バトル システムを紹介するために特別に作ったデモを使って、チーム全員で初めてプレイテストを行ったときのことを、今でもよく覚えています。メンバーが順番にコントローラーを手に取り、ボスを倒そうと挑戦しては、失敗すると次の人に渡す、そのようなやり取りを繰り返していました。あのとき、私たちははっきりと実感しました。すべてが噛み合い始めていて、まさに「このゲームを象徴するもの」が形になりつつあると。
私たちが最終的にたどり着いたスタイルでは、リアルタイム操作が得意なプレイヤーは、より大きなリスクを取って積極的に攻めることができます。一方で、そうでないプレイヤーも、特定のアイテムや戦略を使ってしっかり対抗できるようになっています。
戦闘中の演出では、敵とのやり取りに映像的な多様性を加える「映画のようなカメラワーク」が使われていますよね。この仕組みは、どのように開発、実装されていったのでしょうか?
Guillermin 氏:戦闘中のアニメーションやカメラワーク、VFX には、とにかく高い完成度を追求したいという強い想いがありました。たとえプレイヤーがメニューを開いて操作しているときでも、画面上では常に何かしらの動きがあり、世界が生きていると感じられるようにしています。
これらの要素をオーサリングする際には、最大限の自由度を確保するために Unreal のシーケンサーを活用しました。すべてのスキルを小さなシネマティックとして扱い、その中でバトル アクタを動的にバインドすることで、チームは印象的なショットを自由に作り込めるようになったのです。
ターン制バトルのゲームを作っているため、戦闘エリアは基本的にこちらで制御された環境になります。ただし、私たちのシステムでは、レベル デザイナーが敵の配置などをケースバイケースで柔軟に調整できるようになっています。その中で特に苦労したのが、レベル シーケンスに動的な動きを組み込むことでした。たとえば、敵がどの位置からでもチームのキャラクターに向かってジャンプできるようにする、といった演出です。このような仕組みを実現するために、アクタの一部プロパティをシーケンサーに公開し、専用のトラック上でキーフレームを使って制御しています。それにより、ゲームプレイの動きがどのように展開するかを、アート的な観点から緻密に調整できるようになっています。
発売前の段階で見られるゲームプレイの奥深さやクオリティの高さからは、これが Sandfall Interactive のデビュー作だとは思えないほどです。現在の開発チームの規模はどれくらいでしょうか?また、Unreal Engine は、このゲームで目指したビジョンの実現にどう貢献してくれましたか?
Guillermin 氏:コア チームの人数は 30 人未満で、主にモンペリエのオフィス (約 25 人) と、パリにある小規模な拠点 (5 人) に分かれて活動しています。
ゲームプレイ機能の充実ぶりやコンテンツのボリュームを考えると、私たちのチームはかなり小規模だと言えるでしょう。それでも、チームには驚くほど才能あふれるメンバーがそろっています。多くのメンバーにとって本作が初めての本格的な制作ですが、Unreal Engine のおかげで、数年前には私たちのような規模のチームでは到底実現できなかったようなビジョンを形にすることができました。
さらに幸運だったのは、私たちの開発スケジュールが、Unreal Engine 5 のリリースとちょうど重なったことです。UE5 は、数々の革新的なレンダリング機能を備えていて、私たちにとってまさに「ゲーム チェンジャー」と言える存在でした。
先ほどブループリントについても触れましたが、ゲームプレイ開発の面でも、ブループリントはこのプロジェクトの鍵となりました。C++ を全員が扱えるわけではない小規模なチームであっても、ブループリントのおかげで、スピーディに多くの機能やコンテンツを形にすることができました。
私が唯一のプログラマーだった時期は、数年間にわたりました。チームのプログラマーが 4 人に増えるまでは、ずっとひとりで担当していました。その頃は、「できる限りブループリント ビジュアル スクリプティングを活用する」というのが私たちの方針でした。ブループリントを使えば、プログラマー以外のメンバーでもゲーム ロジックを理解し、自分の手で試行錯誤したり、既存の機能に改良を加えたりすることができる。そのような自由度の高さが、開発のスピードにもアイデアの広がりにもつながっていたと思います。
私たちのような小規模なチームにとって、「コードが書けないから関われない」という壁をなくし、チーム全員がプロジェクトの大部分にアクセスできる環境を作ることは、とても大切なことでした。もちろん、制作やレビューのプロセスではそれなりの苦労もありました。しかし、そうした取り組みの積み重ねが、今のゲームプレイの深みにつながっていると実感しています。
「Clair Obscur: Expedition 33」は、目を奪われるような美しさと、心に残る幻想的な世界観が印象的です。このアート スタイルは、開発初期から明確に定まっていたのでしょうか?それとも、制作を進める中で徐々に進化していったのでしょうか?
Guillermin 氏:アート ディレクターの Nicholas Maxson-Francombe が、Guillaume と長い時間をかけて協力しながら、アート スタイルの方向性をすり合わせていき、やがて今のかたちへと進化させていきました。本作の物語はフランスのファンタジー世界を舞台にしているので、私たちにとって特別な意味を持つ、他にはないビジュアルをデザインできることがとても嬉しかったです。
Nicholas がよく「自分がカッコいいと思うものを描くのが、自分のデザイン プロセスだ」と言っていたのを覚えています。彼は Guillaume とともに、いくつかのコアとなるアイデアから出発し、そこを起点にスタイルを磨き上げていきました。そして、ふたりならではの独自のやり方でアート スタイルを作り上げてきたことが、今のビジュアル表現につながっているのだと思います。