業界アナリストの多くは、仮想現実に対して明るい未来を予測していますが、一般的な消費者がそれを確信するのは少々難しいようです。こうした見解は、VR ブームの中、経済予測や主要な株価予測から形成されたものではなく、VR 自体が与えるものを実際に体験した結果に基づくものです。多くの人々にとっては、これはインタラクティブなエンターテイメント体験の 2 つの重要な要素、没入感とストーリーテリング次第です。
インタラクティブ エンターテイメントを体験する新しい視覚的視点を与えるだけでなく VR がもたらす没入感によってプレイヤーは善悪の道徳的狭間を漂うことができます。VR ではキャラクターや文字通り目の前で繰り広げられるシナリオに対して一段と密接なつながりを持つからです。その結果、多くのデベロッパーが大切に考える VR に対するビジョンを強化しながら、没入感とストーリーテリングを通して VR の価値を伝えるうえで他の作品よりも傑出した体験が出てきます。
英国の Farnborough を拠点とし、Eidos のクリエイティブ ディレクターであった Patrick O’Luanaigh 氏が 2006 年に設立した nDreams は、仮想現実の可能性を実現することに重点を置いています。SkyDIEving、 Perfect Beach、および Gunnar などのプロジェクトを通してそのコンセプトを実証し、ビジョンに磨きをかけた nDreams は、『The Assembly』 というタイトルの全く新しいタイプの一人称視点インタラクティブ ストーリーの制作に力を入れてきました。この作品は最近、Oculus Rift と HTC Vive 向けにリリースされました。まもなく PlayStation VR にも対応予定です。
このゲームでは Assembly というミステリアスな組織が地下で秘密実験に取り組んでいます。その驚異的発明は、政府の監視と社会のモラルの枠を超えた場所で行うことで初めて可能になるものでした。
ところで、Assembly はいったい何を隠しているのでしょうか? どの程度、その存在をかくしているのでしょうか? 進歩を遂げるために何を犠牲にしているのでしょうか?
『The Assembly』 では、それぞれの動機を持った 2 名の個人としてプレイできます。対照的な視点を通して施設のミステリーを発見します。こうした魅力的なプロットを背景に、『The Assembly』 のゲーム ディレクターである Jamie Whitworth 氏 (以下、インタビュー内では JW と記載) にお会いし、ゼロからアンリアル エンジン 4 (UE4) で制作された真に没入感があるこのプロジェクトについてのお話を伺いました。
『The Assembly』 が多くの人々にとって初めての VR 作品になると考えた場合、快適でありながら圧倒的な作品にするためにどのように制作しましたか?
JW:最初から、自分たちが新しいメディアを扱うことを認識していました。動きに対して誤ったアプローチをとれば、人々はゲームを楽しめないリスクがありました。これに対処するために、ただちにゲームプレイと動きのメカニクスに重点を置いて、誰にとっても快適で優れた VR の導入体験になるように目標を定めました。
こうしたことが、我々の ‘Blink’ 移動システムの開発につながりました。その結果、初期の VR 作品で見られたような不快感を感じることなく、VR を初めて体験する人が、迅速かつ自由にゲーム内を動き回ることができます。テレポート システムとは異なり、すばやい動きのソリューションを用いることを選択することで物理的に継続している感覚を損なわないようにしました。そのため、没入感を保つことができます。
実験を通して集めたデータは我々の制御には影響を及ぼしませんでしたが、プレイヤーが探検するペースと空間の基本になりました。それがストーリーのトーンや瞬間、瞬間の緊張感に影響を与えます。VR を初めて体験する方々にとって、この新しいメディアに慣れていただく機会になればと思います。その際、経験を積んだ VR プレイヤーと新しい VR プレイヤーの両者を満足させるような夢中になれるストーリーを作るという我々の目標に妥協はしません。
複数の視点からストーリー テリングするというコンセプトを常にもっていましたか? また、このメカニクスが何故この VR 体験で重要だと感じたのでしょう?
JW:二つの視点は、最初からストーリーにおいて不可欠でした。Assembly は、技術と人類の知識を推し進める組織ですが、法や倫理によって束縛されることは認めません。その結果、スタッフは問題行動をしたり、関わった人々が大きなリスクにさらされることがあります。ただし、単純に善悪だけとみなされるストーリーをプレイヤーに強いるつもりはありません。代わりに、プレイヤーには仮想 3D 空間を探検しながら倫理やモラルについて考えてもらい、Assembly を支持するかどうかを決めてもらいます。
『The Assembly』 のストーリーは非常に興味深いものですね。望ましいゲームプレイと一般的な VR のメカニクスが、ストーリー展開を支えたのでしょうか? それとも逆にストーリーがゲームプレイと VR のメカニクスに影響を与えたのでしょうか?
JW:アイデアのプロトタイピングとユーザー テストに多くの時間を使い、ゲームを前進させるメカニクスとペースを定義しました。これで、ストーリーを構築する一定のツールとデザインの中心が決まり、それらがストーリーによって魅力的なものになりました。その結果、ナラティブで、人を惹きつけ、やりがいのある探検の作品を作ることができました。
『The Assembly』には何種類の結末がありますか? また、プレイヤーの選択が結果にどのような影響を及ぼしますか?
JW:キャラクターの Madeleine と Cal、そして Assembly 自体に対しても複数の結末があります。また、プレイヤーが影響を及ぼすことができるサイドストーリーもありますが、トータルの数は差し控えたいと思います。あえて言うなら、結末は友人たちやフォーラムでいくつかの議論のきっかけとなるような多様なものです。プレイヤーが再プレイしたくなるように興味をそそり、Assembly についてさらなる発見をしていただきたいと思います。
VR はストーリーを生みだし、伝える我々の能力にどのような影響を及ぼすとお考えですか?
JW:VR はストーリー テリングの中でプレイヤーにニュアンスを伝えることに重点を置いています。これは、背景のスケールであれ、キャラクターのパフォーマンスであれ、中心スクリプトを超えて、構築するワールドの外に広がります。VR で輝きを放つ細かさや繊細さを表現するために、他の多くの VR 作品が大きな物理的面積とキャラクターのリストを使うのをやめるかもしれません。
『The Assembly』 のような VR 体験の制作に伴うデザイン上のユニークな課題はありますか?
JW:最大の課題は誰にとっても、技術とツールが進化するペースについていくということでした。我々は新たな技術の波に乗ったのです。そこでは、デベロッパー、ハードウェア メーカー、そして VR コミュニティ全体が互いに情報を得てきました。ゲーム業界にとってエキサイティングであり、ユニークな時代です。
それ以外に、VR でどういったものが機能しないかについての理解を深めることが欠かせません。プレイヤーが VR という新しいメディアの可能性を目にする前に背を向けさせないようにするためです。アイデアのプロトタイピングは通常、開発スタジオのスタッフのメンバー内でのテストに限られています。当初からプロジェクトのフォーカス テストを実施してきました。また、ゲームの早期バージョンを昨年公開し、実際のユーザーが VR を初めて使ってナビゲーションするときに直面する問題を正確に評価するようにしました。
『The Assembly』 は、今月 Oculus Rift と HTC Vive 向けにリリースされ、今年後半に PlayStation VR に対応予定とのことですね。このプロジェクトをマルチ プラットフォーム対応にするうえで UE4 はどのように役立ちましたか?
JW:UE4 を使用すると最初から高品質の体験をすべてのプラットフォームとヘッドセットで実現することができました。つまり、アーティストやデザイナーが新しいことに全力で取組み、ただちに場所の制作にとりかかり、視覚的に現代的な建築物に匹敵するものを作り始めました。プログラマーは、エンジン コードの雑事に追われることなくゲームプレイの機能に取り組むことができました。
エピックが新バージョンをリリースするたびに UE4 のアップグレードを導入していくと自分たちで機能を作成したり、新しいハードウェアをサポートしたり、アセットやコードの最適化に多くの時間を費やす必要がなくなります。エピックが我々のためにこうしたことをやってくれるからです。Instanced Stereo Rendering であれ、キャラクターの最適化であれ、エンジンの更新でボックスにチェックを入れるだけでゲームで実現できます。その結果、ゲームそのものに磨きをかけることに時間を費やす自由がチームに与えられるため、プレイヤーにとって可能な限り最高の体験を作り出すことができます。
『The Assembly』 の制作プロセスを合理化するうえでブループリントのようなツールをどのように活用しましたか?
JW:ブループリントは本当に素晴らしいです! エピックは新しいビジュアル スクリプト ツールを非常にレベルの高いものにしたと思います。我々はブループリントを使ってワールドのゲームプレイの大半を動かしています。簡単に使えて用途が広いだけでなく、アーティスト、オーディオ エンジニア、プログラマー、デザイナーが汎用的な言語を使用することができます。こうしたものは過去にはほとんど見られなかったものであり、誰もがドメイン固有のツールを使ってきました。これは、コミュニケーションと問題解決に著しく役立ちます。
『The Assembly』 には現在およびローンチ後に何らかの計画がありますか? さらにサイド ストーリーがあるような気がするのですが、どうでしょう?
JW:確かに将来のストーリーテリングの設定としては豊富な題材があります。『The Assembly』 の世界に戻るとしたら既にいくつかのアイデアがあります。しかし、現在は可能な限り最高レベルでリリースするという目標のもとプロジェクトの最終的な仕上げ段階にあります。VR の将来を考えると、新たに急速に進化しています。そのため、我々が優先するのはクリエイティブ面で最前線に立ち続け、次の段階でそれを発揮するようにすることです。
nDreams のプロジェクトとチームの関わりについて知りたい場合、どこに情報がありますか?
JW:『The Assembly』 についてご質問があればお気軽に、 『The Assembly』 の Facebook ページ にメッセージをお寄せください。または、#TheAssemblyVR のハッシュタグを付けて 我々にツイート してください。是非、『The Assembly』 の Steam のページ をご覧になって、フォーラムでチャットしたり、このゲームをウィッシュリストに入れてください。nDreams の Facebook をご覧になったり、専用のsubreddit で情報をやりとりできます。また、YouTube で動画を観たり、Pinterest のこのゲームのボードでさらにスクリーン ショットをご覧いただくこともできます。