画像提供: Tarsier Studios

プレイヤーに子供のころの不安を思い起こさせる リトルナイトメア 2 はどのように作られたのか

Brian Crecente

Tarsier Studios は、スウェーデンの活気ある街マルメにある独立系ゲームスタジオで、2004年に設立されました。Statik と受賞歴のある リトルナイトメア シリーズの開発を行っています。私たちは現在、世界中の皆さんにお楽しみいただけると信じている、新しいワールドクラスのゲームを独自の IP で情熱を持って制作しているところです。
今年初めにリリースされた リトルナイトメア 2 は、2017 年にリリースされた前作で、不気味な遠洋定期船「モウ」を探検する リトルナイトメア の舞台設定を引き継いでいます。そして、今作の 2 では、頭に紙袋をかぶった少年「モノ」が主人公となります。前作の主人公「シックス」も彼の相棒として再登場します。

Game Informer で「2021年の最初の重要なタイトル」と評価されたリトルナイトメア 2 では、前作 リトルナイトメア の鉄の船「モウ」を飛び出し、広大で不気味な Pale City を探検します。

この記事では、リトルナイトメア の世界観をどのように作り上げたのか、どんなモチーフがあるのか、光と闇の対比によって作り上げられた圧倒的な不気味さの秘密、デザインのプロトタイプの作成行程をどのように迅速化・合理化したのかについて、開発者である Tarsier Studios に話を伺います。
 

Tarsier Studios は、初期の段階ではソニーコンピュータエンタテインメント向けに多くのタイトルを制作してきました。しかし、最近では完全に独立したスタジオへと移行しているように見えます。そして、スタジオがリリースした最初の 2 つのオリジナルタイトル、リトルナイトメアStatik は互いに大きく雰囲気の異なるゲームとなっています。このような違ったタイプのゲームをリリースした経緯と、今回の リトルナイトメア 2 のリリースで、スタジオとしてのアイデンティティがどのように確立してきたのかをお聞かせください。

Andreas Johnsson 氏 (CEO):
ソニーと分かれた後、私たちは一種のアイデンティティクライシスに陥りました。リトルナイトメア は、私たちが 2005 年にスタジオを設立するきっかけとなったゲーム、City of Metronome の延長線上にあるため、間違いなくアイデンティティの多くの部分を占めています。しかし、The Stretchers (任天堂) と Statik (PSVR) は、互いに志向が大きく異なるゲームだったため、「私たちのアイデンティティは何なのか?」、「どんなゲームを作りたいのか?」といったような、大きな疑問を持つに至りました。しかし、その後リリースされた Statikリトルナイトメア は見た目もプレイ画面も非常に大きく異なっている一方で、共通の要素を持たせています。それは、「プレイヤーの想像力をかき立てるために意図的に説明を省き、それによりサスペンスさと緊張感を出す」ということです。そして、それこそがスタジオの DNA と言えるでしょう。Statik では、Dr. Ingen という医師が登場し、彼の行動も一見普通です。しかし、彼の顔にはなぜかモザイクがかかっているため、それがゲームに緊張感とストーリー性を与えています。「医者みたいだけれど、なぜ彼の顔は隠されているのか?」、「彼は悪い人物なのか?」、「彼はプレイヤーに対して何をしているのか?」といった感じです。一方、リトルナイトメア では強烈に視覚に訴える仕組みが用意されていますが、それ自体が何を意味するのかについての説明はありません。それにより、プレイヤーに物語について考える余地を残すようにしています。想像力をかき立て、視覚的に訴え、パワフルなトーンで表現する。これこそが私たちの DNA の多くを占めている要素です。

リトルナイトメア は、今年リリースされた続編だけでなく、モバイル版、漫画版が出ています。また、テレビ版の話もあります。このように多くの層から共感を得られたのはなぜだと考えていますか?

Johnsson 氏:
当初から、リトルナイトメア を単にゲームだけで終わらせるのではなく、より大きなシリーズしたいと考えていました。しかし、結局のところ、ただの一作品をそこまで展開する価値があるかどうかを判断するのはパブリッシャーです。加えて、それを実現するには、当然ながらまずはゲーム自体を成功させる必要があります。幸運なことに、バンダイナムコからはリトルナイトメアの世界展開を支援してくれたり、ゲーム以外の話も最初から耳を傾けたりしてもらえました。リトルナイトメア が人気となった理由の一部は、暗くて厳しい悪夢の世界に、キュートで印象的な遊び心のある子供たちがいるというコントラストにあると思います。また、アートスタイル自体も本当に魅力的だと思います。スクリーンショットを見ていただくと、その世界に飛び込みたいと思う人も多いのではないでしょうか。そして、ただホラーなだけではなく、緊張感に満ちたゲームとなるようにデザインしています。ジャンプスケアやゴア表現を避け、代わりに、プレイヤーが常にゲームの世界に入り込めるように、雰囲気、ゲームプレイ、シーン、キャラクターに焦点を当てています。こうした工夫により、従来のホラーゲームよりも広く人々に興味を持ってもらえるゲームとなりました。

リトルナイトメア では、超現実的で世界で最も汚いものをかき集めたような場所であるモウの中を子供の頃の多感さと共に探検していきます。その結果、子供の目から見た不快で悪夢のような光景がプレイヤーに映し出されます。他メディアでの展開以前に、リトルナイトメア 2 のこのようなテーマやシンボルはどのように作られましたか?

Dave Mervik 氏 (ストーリーディレクター):
もともとは閉所恐怖症チックな The Maw の設定から発想を得ましたが、これに「最悪の腐敗した人類だけが生き残った世界」というアイデアを加えて リトルナイトメア の世界観を作り上げています。人々が人生で見たり経験したりするものを本質的な形に戻した後、それをなじみのないグロテスクな形に変化させることで、非常に満足のいくものとなりました。このゲームでは、現実逃避とそれを核とした世界に住む人々の間で発生する恐ろしい出来事をテーマにしたいと考えていました。
画像提供: Tarsier Studios
ストーリー、設定、キャラクターはゲームのテーマにどのような影響を与えていますか?

Mervik 氏:
私たちは、自分たちが行っているすべてのことを伝えられるようなテーマにしたいと考えています。それは、リトルナイトメア 2 でも同様です。シックスとモノの旅を通じて、さまざまな現実逃避の形を探求し、このテーマが、遍在するテレビセットを超えて、より深く、より暗く、より陰湿な何かへと及んでいる様子をプレイヤーに感じてもらいたいと思っています。

リトルナイトメア 2 のデザインに影響を与えたホラー作品または非ホラー作品は何ですか?

Per Bergman 氏 (アートディレクター):
主に古いホラー映画とアニメ版の AKIRA です。

このゲームの不気味なキャラクターのアイデアはどこから来ていますか?製作者の個人的な出来事から思いついたようにも、一般的なホラー作品から影響を受けたようにも見えます。

Bergman 氏:
リトルナイトメア のキャラクターは、通常、いくつかの特徴を大げさにしたり、特定の敵がどのように行動するのかについて考えたりしてから作られています。そして、こうした作業がキャラクターデザインの主要な部分となります。医者に天井を歩かせたり、先生の首を長くしたりといったような感じです。この時点で、そのキャラクターの個性と美学がどこにあるのかについてを決めていきます。この作業をコンセプトアートチームが繰り返し行っていました。

お気に入りのキャラクター (もしくは最も嫌いなキャラクター) はいますか?もしいるなら、どういった点が特にそう思いますか?

Bergman 氏:
私のお気に入りは先生です。彼女の特徴的な首と、それで主人公を追いかける姿が好きです。
画像提供: Tarsier Studios
これらのキャラクターを作るのに、Unreal Engine がどのように役立ちましたか?

Domenico Favaro 氏 (AI プログラマー):
Unreal は、製作時のあらゆる段階で視覚化できるのが便利でした。アニメーション ステート マシンによる優れた柔軟性から、キャラクター アニメーションのスクリプト化にいたるまでです。ブループリント ビジュアル スクリプティング システム では、さまざまな部屋とシナリオをプロトタイプ化して、そこで敵とのテストを行う作業の反復がやりやすかったです。

私は、光と影のコントラストが リトルナイトメア 2 の美学となっていたり、ゲームをプレイする上で欠かせない要素となっていたりするのが好きです。このアプローチ方法はどのように思いついたのですか?また、これを表現する際に Unreal Engine をどのように使用しましたか?

Bergman 氏:
まず申し上げたいのは、Unreal Engine のライトは素晴らしいということです。単にプロップか何かをシーンに配置するだけでも、見栄えが良くなります。リトルナイトメア では、その雰囲気とドールハウスの外観を作り上げるために、雰囲気を少し変えています。シンプルながらもリッチなライティングと雰囲気を作りたかったからです。これは、静的ライトと動的ライト、ボリュメトリック フォグ、カラーグレーディングと DOF のバランスを調整することで実現できました。その後、シーン内で重要な要素は何かを考えた上で、その周辺に雰囲気が出るようにライトを照らしてます。

このゲームの視点は、閉所恐怖症的な、閉じ込められたような感覚を強調するようなものになっています。これを作るのに、Unreal Engine をどのように使用しましたか?

Johnsson 氏:
ゲームの視点というのは面白いです。視点の工夫は、私たちスタジオが (LittleBigPlanet 以来)、得意としてきた要素です。一般的に、子供からすると周りのすべてのものが大きく見えます(私たちはこれをドールハウスの視点と呼んでいます)。この視点を使用することで、閉じ込められたような、不安な雰囲気を出したり、「隣の部屋には一体何があるんだろう」という不気味な印象をプレイヤーに与えられます。また、このゲームはサスペンスに満ちており冒険的なので、このような視点がフィットすると考えました。

本タイトルのデザインに関して、特別なゲームプレイやビジュアル要素など、他にここで説明しておきたいことはありますか?もしあれば教えてください。

Matthew Compher 氏 (デザイナー):
カスタム オーバーライドの有効化に多大な時間と労力を費やしました。これにより、プレイするキャラクターのコードやアニメーショングラフを操作したりカスタマイズしたりすることなく、ゲームの他のほとんどの場所から取得できるようになっています。その結果、プレイヤー チームを煩わせることなく、新しいカスタム ゲームプレイを作成して、素敵な効果を追加できるようになりました。 

例を挙げましょう。ゲームの最初のエリアでは、プレイヤーは胸の高さの沼地に落ちますが、そこでは歩き回ることができます。この際、キャラクターが沼地にいることを表すボリュームを作成することで、プレイするキャラクターの操作を行うコードに対して次の 2 つのリクエストを送信できるようになりました。
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1 つ目のリクエストは、アニメーション オーバーライド スロットと呼ばれるものの追加です。これは、スロットの識別に関連付けられた、単なるアニメーションのコレクションにすぎません。したがって、この場合、アイドル状態の移動アニメーションとなります。2 つ目のリクエストは、能力セットの追加です。これは主に、キャラクターが現時点で許可されていること、許可されていないことを示した単なるコレクションです。この沼地のケースでは、このコレクションによってジャンプを無効にしたり、移動速度を制限したりしています (他にも多くの細かいオプションがありますが、主要なのはこれです)。 

これらの機能の便利な点は、コアとなるアニメーションとやり取りする方法と、プレイヤーにアクションを許可する方法にあります。カスタマイズした操作を多く実行したかったので、すべての場所でこうした種類のオーバーライドをサポートするように設定していました。プレイヤーのアニメーション グラフでは、アイドル状態から移動の開始、移動、そして再び基の状態に戻るまでの動作を遷移する単純なステート マシンが必要となる場合があります。これらの「ステート」のほとんどは、実際には先ほど説明したスロットにすぎません。そして、ステート マシン、ひいてはアニメーション グラフは、スロット内の中身が何であるかを確認せず、依存関係もありません。これらのスロットに新しいアニメーションを追加すると、すべてが同じように機能し、追加でセットアップする必要はなくなります。そして、本当に便利なのは、プレイヤーが現在そのスロットに関連付けられたアニメーションを実行している場合でも、これらのスロットをリアルタイムで更新できることです。これらのスロットは、古いアニメーションから新しいアニメーションに内部的にブレンドされます。同様に、能力セットを組み合わせたり、組み合わせたりすることで、複合的な能力を作成することもできます。沼地の例の場合、プレイヤーが手を握れるかどうかを定義できます。その際、手を握るときは、プレイヤーにそれに関連する能力セットを持たせることができます。これにより、沼地内で手を握らせたい場合、新しく「沼地で手を握る」セットを作成することなく、両方の能力セットを組み合わせるだけで実現できるようになります。この機能により、プロトタイプの作成と実装がすばやく行えるようになり、ある程度完全な形で新しいゲームプレイを作成できるようになりました。

これの一番良いところは、プログラマーを急かしたり、新しいアニメーションのセットアップを要求したりすることなく、すべての作業を行えることです。そして多くの場合、似たようなアニメーションは再利用できます。沼地の例の場合、水中を歩くアニメーションを再利用して、移動速度や能力を少し変更した上で腰の高さの水や深い灰の中を歩くアニメーションも作成しています。

前作同様、リトルナイトメア 2 のサウンドトラックは Tobias Lilja 氏が手がけており、ゲームの恐怖感とサスペンス感の表現は彼の音楽による影響も大きいと思います。ゲームのテーマと美学をさらに強く表現しているこれらのサウンドトラックは、どのように作成されましたか?

Tobias Lilja 氏 (オーディオ ディレクター):
開発の初期段階で、私たち (オーディオ チーム) はコンセプトアートとゲームプレイのプロトタイプを見て、コアとなっているアイデアと調和するサウンドと音楽がどんなものかを考えました。リトルナイトメア の最も重要な側面の 1 つは、子供の視点を維持することです。前作では、童謡や子供の頃の懐かしさを感じるオルゴールといったような楽器からインスパイアを受けた、シンプルなメロディーをモチーフにしました。こうした音楽は、ゲーム内の雰囲気やキャラクターから発せされる暗くて不吉なサウンドとの違いを際立たせるために重要な要素となります。リトルナイトメア 2 では、 前作のサウンドと音楽のスタイルを基にして作っていますが、環境が前作よりはるかに多様となっているため、ゲームの各レベルに独自の雰囲気を持つ音楽を追加したいと考えました。ゲームのアートとデザインの多くは、それぞれの場所の環境とそこに生息するモンスターによって形作られています。そのため、これら 2 つの要素を考慮して「どんな音楽にするのか」を決めることが重要となります。たとえば、最初のレベルは森の中であるため、ここでは木やハエといった要素を使用して、より素朴で有機的な雰囲気の音楽が必要になります。2 番目のレベルは、先ほどとはまったく異なる場所である学校なので、子供たちが調子外れのフルートを演奏していたり、教師がピアノをスタッカートのリズムで演奏していたりするような音楽が適切です。そして次のステップでは、多くの場合、これらの馴染みのある要素に、より超現実的で異世界のような雰囲気を追加していきます。
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次世代ハードウェアと Unreal Engine の長期的な可能性について、あなたとチームが最も期待していることは何ですか?

Johnsson 氏:
この手の質問は、いつも回答が難しいですね。私たちのゲームは通常、新しい技術を使わずに CPU パワーやメモリを最大限使用します。しかし、CPU やメモリ使用量の管理に多くの時間を費やすことなく、できるだけディテールを詰め込んだゲームを作成できるようになれば良いな、とも思っています。もちろん、リアルタイム レイ トレーシング はとても便利な機能です。リトルナイトメア 2 では、シーンをできるだけ雰囲気のあるものにするために、シーンのライティングに多くの時間を費やしました。私たちのゲームでは、目立った場所にリアルタイム レイトレーシングを使用するようなことはないと思います。しかし、私たちはディテールを作り込むことが大好きなので、このような機能があると、とてもわくわくします。 

UE 5 には、クリエイティブさの観点からだけでなく、ツールがどのように進化/改善されたかなど、クリエーターの観点からも確認したい新しいことがたくさんあります。それらを見ていくのはきっと楽しいでしょうね。また、PS5 Dualsense も体験したので、それを UE 5 でどのように使用できるのかについても楽しみにしています。ソニー時代からの習慣が残っているだけかもしれませんが、それでもわくわくします。

お時間をいただき、誠にありがとうございました。Tarsier Studios と リトルナイトメア 2 の詳細はどこで確認できますか?

こちらこそ、ありがとうございました。スタジオと リトルナイトメア 2 に関する最新ニュースについては、Twitter (TarsierStudios) と Instagram (tarsierstudios)、当社の Web サイトからご確認いただけます(Tarsier.se)。

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