Image courtesy of Netflix

Netflix の人気シリーズ、Sweet Home -俺と世界の絶望- で韓国の制作会社 Westworld がバーチャル プロダクションを活用

Jinyoung Choi |
2021年5月18日
20 年以上の経験を持つ VFX の専門家で構成された Westworld は、ソウル・ガーディアンズ/退魔録、トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜、ミスター・サンシャインなど、韓国で 200 本を超える人気映像作品の制作に携わってきました。
長い経験を持つ VFX の専門家で構成された韓国の制作会社、Westworld は、尊敬を集める演出家、イ・ウンボク氏と協力関係にあります。イ氏は、Netflix オリジナルの人気シリーズ、Sweet Home -俺と世界の絶望- など、さまざまな韓国ドラマの監督を務めています。

Westworld は、Sweet Home -俺と世界の絶望- の VFX を担当しました。そして、プリプロダクションで、Unreal Engine、Ncam、Xsens を組み合わせて、リアルタイムのトラッキングとモーション キャプチャを融合させました。この新しい撮影方法を韓国の制作会社が利用したのは初めてのことでした。その詳細について、Westworld のスーパーバイザー、Lee Byeong-joo 氏にインタビューしました。

制作チームが華やかな経歴を持っていたことから、Sweet Home -俺と世界の絶望- の公開は大きな話題となりました。このプロジェクトとチームについて、簡単に教えていただけますか?

Westworld のスーパーバイザー、Lee Byeong-joo 氏:Sweet Home は、2017 年から 2020 年にかけて連載された、人気のスリラー Web 漫画シリーズです。徹夜でシリーズを一気に見た多くのファンの 1 人として、Netflix オリジナルのシリーズとしてドラマを制作するという話を聞き、とても喜びましたし、制作に参加できて嬉しく思いました。さまざまな韓国ドラマを手がけたことでよく知られているイ・ウンボク氏が、Sweet Home -俺と世界の絶望- の監督を務めました。イ監督とは過去に仕事をしたことがあります。VFX について深く理解し、関心を持っている方なので、このシリーズでは協力して巨大なクリーチャーを作成できました。

Sweet Home -俺と世界の絶望- では、Westworld はどのような役割を果たしたのですか?その制作プロセスに Unreal Engine が適していたのはなぜでしょうか?

Lee 氏:Westworld は、キャラクターとプロップのデザイン、ストーリーボードの作成、プリビジュアライゼーション、デジタルのクリーチャーの作成、シリーズ全体の VFX を担当しました。Sweet Home -俺と世界の絶望- には、人間がそれぞれの望みに応じた怪物に姿を変えるという興味深いコンセプトがあります。そのため、技術的にはとても難しいものとなりました。作成する怪物の種類が多く、どれも見た目が違っていて、これまでなかったような多様な特徴を持っていたからです。怪物がアップで映る、日中の屋外のシーンや、怪物が絡む戦闘のシーン、怪物と生身の俳優がやり取りするシーンは特に難しくなりました。最大の課題は、CGI を使ってこうしたショットを作成することでした。

セットにいるわけではない怪物を高品質で作成するには、バーチャル プロダクションを活用して怪物の動きを前もって把握し、俳優と怪物のやり取りをリアルに感じられるものにすることが重要でした。
Image courtesy of Westworld
何度もテストと評価を行って、バーチャル プロダクションのさまざまなソリューションのなかから Unreal Engine を選択しました。Unreal を選んだ最も決定的な理由は Live Link です。Live Link を使えば、カメラやモーション キャプチャなどの外部データをリンクして、ライティング、キャラクターの位置、サイズを簡単に制御できます。Live Link を活用して、生身の俳優の演技と動きに基づいて仮想的なキャラクターを撮影しました。また、カメラの動きの精度を上げることができました。

ほかにも、画面を通じて、監督の意図を撮影チーム全体にリアルタイムで伝えることができました。これによって、コミュニケーションの速度が上がったほか、撮影データをポストプロダクションで使えるようになり、撮影時間が大幅に短くなりました。
Image courtesy of Netflix
怪物と生身の俳優がやり取りするシーンはとてもリアルですね。どのように制作したのか教えていただけますか?

Lee 氏:
このプロジェクトのためにバーチャル プロダクションを使い始めるにあたって、Unreal Engine、Ncam、Xsens の組み合わせが、リアルなシーンを撮影するために重要になりました。この組み合わせによって、撮影クルー、制作チーム、キャストの全員が、セットでシーンをリアルタイムで見ることができたからです。

普通は撮影のロケ地で 2 つの方法を別々に使います。Unreal Engine と Ncam を使ってカメラをリアルタイムでトラッキングするか、Xsens のスーツを使ってモーション キャプチャのデータを受け取ります。しかし、Sweet Home -俺と世界の絶望- では、Unreal Engine を使ってカメラのリアルタイム トラッキングとリアルタイムのモーション キャプチャを組み合わせ、少し違った方法を試しました。
Image courtesy of Westworld
Here we see our steroid monster placed on set using virtual production and motion capture.
たとえば、身長 4 メートル以上の「ステロイド モンスター」と消防車が衝突するシーンを撮影する必要がありました。怪物と消防車の相互作用を表現するために、撮影チームはショットをリアルタイムで見て、怪物の行動範囲を考慮しつつ、特定のアングルから怪物がシーンのどこを見ているかを確認する必要がありました。Unreal Engine はこの点でとても役に立ちました。ダミーの消防車を使ってカメラの背後で俳優が演技し、それをモーションキャプチャしました。そのデータを Unreal Engine で使い、仮想的な怪物を実際の消防車の前に作成しました。モーション キャプチャされる俳優は、撮影されているショットをリアルタイムで見ることができたので、演技しながら怪物の動きを確認できました。また、監督と制作チームは、怪物の動きについて、現場でリアルタイムに指示を出すことができました。

従来の撮影方法を使ったとしたら、特殊効果のメイクアップを施すには怪物のサイズが大きすぎたでしょう。クロマ キー カラーの服を着た代役を用意して、監督が前もって決めた怪物の移動経路に従って移動させて、撮影監督が決まったアングルから撮影する必要があったはずです。さらに、従来の撮影方法では、テイクの合間に休憩と監督による指示が必要になったでしょう。幸いなことに、Westworld のチームは、リアルタイム テクノロジーを使うことで、こうした不要なステップを回避できました。リアルタイムの方法では、ユニークなコラボレーション プロセスが促進されました。俳優と監督がリアルタイムでコミュニケーションをとり、協力できるようになるので、時間とリソースを大幅に節約できます。
Image courtesy of Westworld
Virtual production of our steroid monster in an indoor battle scene.
リアルタイムの方法は、セットでの撮影だけでなく、ポストプロダクションにもメリットがありました。セットで撮影と編集を同時に行うために、ステロイド モンスターが登場するシーンの多くは、バーチャル スタジオで撮影されました。監督と撮影監督は、モーション キャプチャを使って怪物の動きとサイズをリアルタイムで確認しました。その間、モーション キャプチャのデータとライティングの状態はリアルタイムで処理され、追加の CG なしでポストビジュアライゼーションが作成され、編集で使用されました。

Unreal Engine が有効なソリューションを提供できたようでよかったです。Unreal Engine の機能のなかで、撮影プロセスで特に便利だったものは何ですか?

Lee 氏:
Unreal Engine 4.19 で公開された Live Link プラグインによって、Unreal Engine の対象範囲は、プリビジュアライゼーションから実際の撮影とポストプロダクションまで、大きく広がりました。モーション キャプチャとカメラのトラッキングについては、Westworld のチームでは、それぞれ Xsens と Ncam を活用しました。どちらのデバイスも Unreal Engine の Live Link プラグインをサポートしています。Sweet Home -俺と世界の絶望- では特に、多くのシーンで仮想的なクリーチャーを仮想的な環境内で動かす必要がありました。Live Link プラグインがなかったら、モーション キャプチャのデータを Unreal Engine 内のクリーチャーとリンクさせたり、実際のカメラと仮想的なカメラを接続したりして、今回使ったようなリアルタイムの撮影方法を採用することはできなかったでしょう。現実の世界のデータを仮想的な世界で使うことができるようにすることで、Live Link は高い拡張性と無限の可能性をもたらします。これからもいろいろなプロジェクトで使っていきたいと考えています。また、Unreal Engine は、外部のプラグインを簡単に管理し、使用できるようになっています。これはプロジェクトごとのアセット管理を直感的に行うために非常に便利です。
Image courtesy of Netflix
Westworld では Unreal Engine を使って撮影のパイプラインを効率化できたとのことですが、これから撮影のパイプラインにバーチャル プロダクションを取り入れようとしている人に向けて、アドバイスをいただけますか?

Lee 氏:
プロダクションの段階だけでなく、プリプロダクションの段階でもバーチャル プロダクションを使うことで、ショットのディテールを視覚的に確認し、それに応じて計画を立てることができます。私たちの場合は仮想的なキャラクターを作成するためにモーション キャプチャを使用しましたが、アニメーションを使用することも同じくらい重要です。2 本足のキャラクターであればモーション キャプチャを使いやすいのですが、4 本足のキャラクターや、Sweet Home -俺と世界の絶望- に登場した、触手を持ったクモのような怪物など、8 本足のキャラクターは、アニメーターがキーを打つ必要があります。Unreal Engine を使って仮想的なキャラクターのリアルタイム レンダリングを確認することができると覚えておいて、高品質なアセットを作成し、キャラクターの詳細な動き、行動範囲、環境を前もって設定しておきましょう。こうすれば、監督と撮影監督はバーチャル スタジオを最大限に活用してショットについて詳しく計画を立てることができます。

映像制作業界は、プリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクションと流れるリニアなパイプラインから、リニアでないパイプラインへと進化している最中です。撮影へのバーチャル プロダクションの利用については初期段階にありますが、業界のプロフェッショナルたちがこのテクノロジーについて理解しつつあり、設備やセットが普及しつつあることから、業界はまもなく大きな変革を迎えると思われます。

Unreal Engine のリアルタイム レンダリングのパフォーマンスと品質は、既存のオフライン レンダラを置き換えることになるでしょう。特に、エフェクト、筋肉、ファー、大規模な計算が必要な群集のシミュレーションについては、レンダリングに必要な時間とリソースを大幅に削減でき、VFX 業界全体の生産性を大幅に向上させることができます。Nanite など、Unreal Engine 5 の機能も楽しみにしています。既存の VFX アプリケーションにはデータの互換性に関する問題がありますが、これを軽減できると期待しています。

Westworld の今後についてお聞かせください。次の目標は何ですか?

Lee 氏:
私たちのチームは、Sweet Home -俺と世界の絶望- を通じて、現実の世界と仮想的な世界を結び付ける、リアルタイムのバーチャル プロダクションの経験を積むことができました。この経験をもとに、研究開発を通じて LED ウォールやインカメラ VFX にも取り組んでいます。今後のプロジェクトにこうしたテクノロジーを利用する予定です。

Westworld は、今後のさまざまなプロジェクトで、Unreal Engine のリアルタイム レンダリングを既存のオフライン レンダリング手法と柔軟に組み合わせる予定です。また、制作のパイプラインを強化し、最高品質の成果を最も効率的に生み出す、革新的な企業となることを目指しています。Westworld の最新ニュースは、当社の Web サイト、または Facebook ページでご確認いただけます。また、Sweet Home -俺と世界の絶望-Netflix でストリーミング配信中です。

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