2016年4月24日

404Sight - ネット中立性問題を表現したゲーム制作

作成 Stu Horvath

昨年 FCC が投票でオープン インターネットを維持する姿勢を示した時に、インターネット サービス プロバイダーは、同じデータ送信でも有料の回線では他の送信に優先されるのかどうかという ネットの中立性 をめぐる議論が湧きあがりました。

実際には、インターネット サービス プロバイダーや関わりのある政治家ではなければ、この問題がどれほど深刻であるかは分かります。ただ、インターネットを共同で使う際に、ISP が提案するいわゆるファスト レーンとスロー レーンが及ぼす影響については、いまいち明確になっていません。

3D ランニングとパルクール ゲームのメカニズムにネット中立性の強いコンセプトをうまく組み合わせたゲーム 404Sightを見てましょう。Tron のようなハッカー役でネットワークへ入ります。特殊な ping 機能により、ファスト / スロー レーンと呼ばれる非表示エリアが表示されます。ここが、ネット中立性議論の争点となっている、プレイヤーの速度が変化するエリアです。エリアが表示されると、ISP が使用するハザード区域の中にわざとコースを書き込んで、減速するようにします。

このような種類の他のゲームと異なって、404Sight は Retro Yeti Games という旗の下に集まった学生チームが制作しました。彼らはユタ大学の Entertainment Arts and Engineering 修士課程の学生で、このゲームが彼らの修士論文プロジェクトになります。トップレベルの修士プログラムはスタジオ シミュレーションのように進行し、チームはコンセプトの作成からパブリックのプラットフォーム上での公開までのゲーム制作を求められました。

ゲームのプロデューサーおよびコミュニティ マネージャの Tina Kalinger 氏によると、「404Sight は、インターネットの未来をもじったゲームです。タイトルも言葉あそびです。http エラーもしくは 404 は「ファイルが見つかりません」を意味しています。また「先見」は未来を計画する能力です。つまり、「先見が見えない」、全く考慮していないインターネットの未来について本当は考えるべきである、ということを言っている」ということです。

Retro Yeti Games は学生の開発チームにしては大きくメンバー数は 12 名。エンジニアが 3 名、アーティストが 4 名、プロデューサー/アーティスト (Kalinger 氏を含む) が 5 名です。ただし、その役割に固定することなく、臨機応変に別の役割にも対応しました。メンバーはみんな、ゲームの制作における様々な役割を経験することができました。チームで作業をした 2014年1月から2015年5月は、いつもチームでジョークを飛ばし合ったり、うっかり寝てしまったり、ロボットのピニャータ人形を作ったり、思い出が一杯の 18 ヶ月でした。

Kalinger 氏が、いろいろな質問に答えてくださいました。


ネット中立性の他に、ゲームのヒントになったものはありますか?

断然 Mirror’s Edgeですね。あとは、TronSonicTemple Run、Apple ストア、あらゆる種類のサイバーパンク、少しReBootも少し参考にしました。抽象的なコンピューター内のような不毛な背景にネオンをたくさん付けたいと思いました。

ゲームとネット中立性をめぐる議論は、どちらが先に浮かびましたか?この 2 つはゲームの制作中、どのように絡み合い、情報を共有するのですか?

もちろん、ネット中立性をめぐる議論です。注意してプレイしてきた人なら誰でも、ネット中立性の議論はここ数年間に起こった問題でないことを知っています。Google がエコシステムに登場したことが波及効果となり、ここ数年で議論が過熱してきました。

これを自分達のゲームのテーマに取り入れた経緯ですが、実は発端は「メッセージをメカニックに伝えられることはできるのか?」という論文の課題が発端でした。レベルの情報公開機能に関するアイデアはかなり早めに持っていたので、デザインに適合し、かつ影響をもたらすにはどうしたらいいのか、イタレーションとプロトタイプを何度か行いました。

ネット中立性が重要なテーマであることに気が付いたのはその時です。我々が強くサポートしているものですし、既にあるコンセプトでインターネット上に ISP の邪魔が入った場合の体験をプレイヤーにしてもらえると思いました。インターネットの速度を一番良く感じてもらえるのが、ランナーだったのです。

ただし、ゲームにメッセージを詰め込み過ぎたくなかったので、その時点からゲームプレイとテーマのバランスには注意を払いました。伝える相手に合わせたメッセージやプロパガンダをそれなりのゲームプレイに正しい方法で混ぜると、楽しいゲームが出来上がります。

永遠に走り続けるメカニクスを使ってネット中立性に意見することは、これまで見てきたメッセージのミラーリング例の中で一番良いものでした。コンセプトとメカニカルな部分の兼ね合いについてはいかがでしたか?

そうですね。もし仲間の一人が激怒して腕を投げ出した場合は、私達は永遠に走り続けるランナーではないということを明確にする必要があると思います。それを時々プレイグラウンド ランナーと呼びますが、通常のエンドレス ランナーのレベルよりももっと戦略的な決断とゲームとのインタラクションをプレイヤーに与えたいと思いました。さらに、速度は強制されるものではなく、プレイヤーがほとんど自分の動きを制御します。

とにかく!メッセージのミラーリング メカニクスは上出来だったと思います。先ほども申し上げましたが、技術的には先に考えていたメカニクスが提案されたテーマに合っていたので、うまくまとめることができました。ネット中立性を取り入れることに決めてからは、それまで以上にメッセージを心に留めておく必要がありました。「スタートのタイルがネット中立性と関係していたらどうなるのだろうか?プレイヤーは理解できるだろうか?」と自分達に問いかけることがありました。そしてはっきり出てきた答えは (最終週) 「いったい誰が気にするんだ?」でした。ただし、我々は気になったので、すべてがまとまって一緒に動くようにしました。

メッセージの意図はすぐに明確になりましたか?それとも徐々に発見された感じでしょうか。

すぐに明確になりました。それは疑う余地はありません。ランニング ゲームの本質は、速度をあげて、素早く動き続ける、そこにインターネットの楽しみを感じるのです。いったん加速した後に失速してしまうと、いらいらします。すべてぴったり当てはまっています。ネット中立性という名前も、デザインに合っていました。プレイヤーの移動速度に影響するという点で、「ファストレーン」と「スローレーン」は非常に明確です。時々、あるものに対して (不明瞭な ISP がプレイヤーのパスに送る発射物の「データキャップ」) ネット中立性という言葉を使うべきか揉めたケースもありましたが、そのような場合は、前の名前のひとつ (「阻害物」) が意味をなすかどうか困りました。デザインをイタレートする方法を探している時に徐々にメカニクスをいくつか思いついて、速度を上げる機能をつけることができました。

たまたまメッセージをメカニクスの中で利用する方法を思いついて、つくづく幸運だったと思います。

ゲームに対する反響はどうですか?

そうですね。友達、家族、先生方、クラスメートは、最初から最後まで、万全なサポート体制を引いてくれました。404Sight に対する一般ユーザー、特に Steam コミュニティの反応はよく分かりませんが、好印象のレビューと高評価はリリース時からもらっていて、そのまま落ちていません。寄せられたマイナスのコメントの多くは、技術的な課題もしくはちょっとしたゲームプレイのあら探しです。評価してもらうことができて心の底から満足しています。チームメンバーのほぼ全員にとって、初めてリリースしたゲームなので、なおさらです。何か問題があっても、たいていの場合は肩をすくめて、「でもまあ、無料だしね!」と言ってくれます。それを聞いて、できるだけ多くの人が無料で利用できるゲームにしなければと強く思うようになりました。

もちろん我々のゲームを、斬新ではあるものの、思い付いたようなゲームプレイ、定義に乏しいビジュアルスタイル、さらに時事問題的要素がプンプンにおってくるような、どこかの生徒が作成したゲーム プロジェクトとして考える人もいます。Taylor Swift の歌にもありますね、「嫌うやつらはなんだって嫌うのよ。」このゲームで重要な点は、ゲーム開発を学習し、信念をくずさずに、誇りを持てる何かを作成することでした。それは成功したと思います。新人が犯すミスがあったり、メッセージの使い方が間違っていたとしても、まあ、私達は学生ですから。学ぶべきことがたくさんあります。

ゲームはそれ自体で現状改革や啓蒙活動になると思いますか?

なると思います!多少偏見があるかもしれませんが、私達のゲームはデザインと政治的なメッセージが見事にかみ合いました。自分が気にしているものをゲームでインタラクティブ体験にすることで、他の媒体ではなかなか見えない主張や意見が他の人に伝わりやすくなります。プレイしながら自分のペースでメッセージを解釈できるようにすれば、こてこての現状改革主義者が使う手段で提示する場合よりも、共感を呼びやすいし、全体的に認識も高まりやすくなります。その方がずっと楽しいですしね!地球温暖化に関するパンフレットを読むよりも、温暖化に関するゲームをプレイしようと思いませんか?

ゲーム制作に UE4 を選んだ理由を教えてください。

たくさんありますね。404Sight を開発しやすくする利点が沢山ありました。UE4 を使わなかったら、今のようなゲームにはなっていなかったと自信を持って言えます。ゲームの 95% にブループリント システムを使ったので、他のプログラムとの統合も簡単でした。あと、直観的なエンジンだったこと。ゲームのレベル デザインと構築はチームの誰もができてしまったほど直観的でした。技術的な知識を持ち合わせていなくても、です。

業界において非常に重要な出来事になること、その先に就職戦線が広がっていることが分かっていたので、賢明な選択だったと思います。チームはほとんどがゲーム業界に就職しました。エンジンをいじくり回して学習した知識はかけがえのないものとなり、正しい選択をしたと胸を張って言えます。

Unreal Dev Grant はどのような経緯でもらったのですか?その結果、どんな変化がありましたか?

技術的な質問は定期的にアンリアル フォーラムに投稿していましたし、進捗をのせてはコミュニティからフィードバックももらえたので、募集がでた時には応募しない手はないなと思いました。チームの方を見て、「俺たちのゲームをこれに応募するけど、異論ある人いる?」と言いました。

受賞できるとは思っていませんでしたが、学生プロジェクトでありながら数少ない受賞チームに選んでもらえたことは、経済的にも職業的にも、非常に重要なことでした。素晴らしい仕事をしてくれたコンポーザーに報酬をお支払いすることができましたし、ゲームをいくつかの会議に出展してできるだけ多くの人に知ってもらうことができました。また、T シャツやステッカーを準備することもできました。ノートパソコンの上に自分の会社のステッカーが貼ってあると、正式に認められたデベロッパーだということを分かってもらえます。他のシステムにゲームをポートする方法も研究しました。さらには、貧しい大学院生として開発をしていた時に発生した、会社の登録料などの出費をいくらか取り戻すことができました。そして卒業前に素敵なディナーに行きました。

特に今になって分かりましたが、Unreal Dev Grants の柔軟性に本当に感謝しています。自分達に一番合った方法で資金を使うことができたからです。それは無責任じゃないかと異論を唱える人もいますが、デベロッパーのニーズはまちまちですし、支援資金は私達にとって完璧でした。多くのデベロッパーが応募することをお勧めしますし、私も応募し続けます。さまざまな分野のデベロッパーの創造性を高めるシステムだと思います。一流のスタジオや超売れっ子インディでなくても資金は獲得できます。必要なのは、素晴らしいプロジェクトを作成し、思い切って応募する勇気です。

Retro Yeti の今後の予定はどうなっていますか?

月に 1-2 回、Dungeons & Dragons を一緒にプレイしています。何人かのメンバーが同じ町にいることがあれば、一緒に食事に行って、思いついたら gif を送ったり、まだ機能している Slack で連絡を取り合っています。大半のチーム メンバーは国中に分散して立派に仕事をしています。NDA と非競争契約があるので新規プロジェクトで良い仕事ができないでいるのが現実です。2 作目のまったく違うタイプのゲームがじわじわとチームの一部メンバーで開発が始まりつつありますが、言及するには時期尚早です。残念ことに実生活がサイドプロジェクトの邪魔になっていますが、今はただ、今度どうなるかを見守っている状態です。

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