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Frogwares が紹介する「The Sinking City」から「Sherlock Holmes Chapter One」への道のり

Brian Crecente

Frogwares のリード プログラマーである Viacheslav Kobylinskyi 氏は、UE3 と UE4 で 7 年の経験を持ち、PC、新・旧世代のコンソール、Nintendo Switch 向けにリリースされた最新 3 作品の制作に携わっています。
Frogwares では、これまで 20 年以上にわたってアドベンチャー ゲーム、 Sherlock Holmes を制作してきました。従来の Sherlock Holmes の 8 作品では、プレイヤーが探偵物語の主人公となり、旅の相棒であるワトソン博士とともに活躍するだけでなく、仮説的推論の展開も忠実に再現し、グラフィックスの向上や新機能によってアドベンチャー ゲーム シリーズの限界を押し上げてきました。

そしてシリーズ次回作である Sherlock Holmes Chapter One では、プレイヤーは若き日のシャーロック・ホームズになることができます。ゲームはシャーロック・ホームズの母親の死の直後から始まり、プレイヤーは 21 歳のホームズを操作して幼少期の故郷である地中海のコルドナ島を冒険しますが、助手を務めるのはワトソン以前の相棒、ジョンです。

数十年をかけて進化したゲーム、これまで焦点が当てられることのなかったシャーロック・ホームズの若き日をテーマにするというアイデア、次世代ハードウェアへの対応に向けてゲームに期待できる点について、デベロッパーから伺いました。
Frogwares では、2002 年の第 1 作以来 Sherlock Holmes のゲームを制作されていますね。この作品やジャンルにフォーカスすることを決断された理由について教えていただけますか?

Viacheslav Kobylinskyi 氏:
Frogwares は、質の高いミステリーとアドベンチャー、いわゆる「推理もの」と呼ばれる捜査活動を行うゲームに注力しています。20 年以上もの間、このスタイルを貫いてきましたが、今なお新鮮さとやりがいを感じています。このゲームは人の直感に働きかけて作用し、次にどう動くべきかを考えさせます。そして、推理を行い、本能に従って行動して犯罪を解決する行動は、ゲーム内のキャラクターと同様にプレイする側にとってもやりがいがあるものです。

探偵のキャラクター性で考えると、シャーロック・ホームズほどアイコニックな存在はなく、間違いなく最も優れていて有名な探偵と言えます。名前が知られている点は商業的なレベルで確実なメリットがありますが、それ抜きにしてもシャーロックになるという夢のような体験が少しでもできるとなれば、それを選択肢から外すのは難しいことでした。

シャーロック・ホームズ をベースにしたゲームを制作するにあたって、原作の著作権が切れた一部の物語をベースにするのでなく、完全に独自のストーリーを作ることにされた理由を教えていただけますか?

Kobylinskyi 氏:
それには、いくつかの理由があります。まず 1 つは、たとえば書籍など、ある媒体において優れた作品があるとしても、それをビデオ ゲームのような別のものにしたときに必ず優れたものになるとは言えません。書籍が原作の作品をそのまま映画で再現したり、映画が原作の作品をそのままゲームで再現することは数多く行われてきましたが、原作のすばらしさを十分に再現した作品はあまりありません。最初に媒体を踏まえて考え、媒体に合わせて物語を当てはめないというアプローチが効果的ならば、時にはそれも必要です。

もう 1 つの理由としてはネタバレ、つまり誰もが結末を知っているという問題があります。犯人がすでにわかっているのであれば、それはミステリーとは言えないでしょう。そのため、シャーロック・ホームズのような作品のファンにとっては、独自のストーリーを作ることが非常に優れたエクスペリエンスの提供につながります。完全に新しいストーリーによるエクスペリエンスを提供できるだけでなく、原作の中では語られることのなかったシャーロックの一面を示すことで、異なる視点からキャラクターを表現できます。
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これまでに Frogwares では 12 作品のゲームを開発されており、現在ラッキー ナンバーである 13 作目の仕上げに取りかかられています。その 20 年あまりの間にスタジオでの開発プロセスや製品はどのように進化しましたか?

Kobylinskyi 氏:
21 年前を振り返ると、信じられないほどの進化を果たしたと思います。スタジオに加え、人材も進化しています。変化を続けるテクノロジー、新たに生まれる消費者の好み、様々な方向性での対応 (3D グラフィックス、高い成熟度が求められることや、オープン ワールド、コンソールへの適合、新たなタイプのプレーヤーの出現など) も必要となり、外部の変化を踏まえて進化を実現する必要がありました。さらに当然、業界の人々の精神的な変化もありました。ゲームはいつしか、とにかく作業をこなして完成させるようなものではなくなり、私たちが強く思いを込められる作品となったのです。これを実現したテクノロジーの性能や機能には、驚異的なものがあります。今では高品質な製品がはるかに容易かつ迅速に制作できます。その点で、変化のスピードには圧倒されるばかりです。

さらに、変化が発生した原因は私たち自身にもあります。個人としても集団としても、ゲーム制作をより良くしていく必要がありました。私たち自身が、変化の内的要因だったということもできるかもしれません。私たちが実現したかったのは、チームとしての迅速さや機動性でした。そのため、何年もの間、利用するツールの効率を向上させるプロセスの実装に取り組んでいました。パンデミックが発生し、リモートで作業しなければならなくなり、この対応力はチームの全面的なリモート化の実現に役立っています。火山に生息し、進化に対応する能力を備えた微生物のように、私たちは状況に適応する優れた能力を発揮しています。

ビジネスの新たな側面について学ぶ取り組みも始めました。セルフパブリッシュに対応するスタジオにしようとしているため、他のスキルやノウハウを身に付けなければなりません。マーケティング、セールス、ビジネス開発などが、当スタジオのスキル ツリーに新たに加わったスキルの一部です。

日々、能力を高めてはいますが、そういった初心者的なところが残っているのが個性となって、ゲームの Frogwares らしさが生まれています。
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Sherlock Holmes を原作とするストーリーを作成することにした理由を教えていただけますか?また、アーサー・コナン・ドイルがシャーロック・ホームズの過去について残したヒントに合う場所ではなく、地中海に故郷を設定したのはなぜでしょうか?

Kobylinskyi 氏:
実は、 The Sinking City の次回作に向けてプロトタイプ作成に取り組み始めた際、いくつか検討していたアイデアがありました。シャーロック・ホームズ作品に戻ることは決まっていたのですが、どのようなコンテキストにするかが決まっていなかったのです。それで、スタジオ全体を巻き込んでいくつかの提案についてブレインストーミングを行いました。プレゼンテーションがひととおり終わると、いくつか優れたアイデアが出揃いました。1900 年代のオーストラリアを舞台とする案などがありましたが、その中で全員の心に強く響くアイデアが 1 つありました。それが、世界で最も有名な探偵になる前の、若き日のシャーロック・ホームズを扱うというものでした。全員がこのストーリーについて盛んに意見を出し合っていたので、それこそが進むべき方向を示す兆候だと判断したのです。

シャーロック・ホームズの若き日々は、原作では詳しく描かれていません。その点で、キャンバスはまっさらです。非社交的な天才として知られていますが、どうしてそのような人物になったのでしょうか。いつもあのような人物だったのか、幼少期はどんなだったのか、どうしてあのような運命をたどることになったのか、といったことがSherlock Holmes Chapter One のテーマであり、シャーロック・ホームズがシャーロック・ホームズになるまでに起こりえたストーリーを描いています。舞台をロンドンにしなかった理由としては、慣れ親しんだ環境の外に身を置くことで、初めてわかることもあるからです。ありきたりの話になってしまうかもしれませんが、馴染みのない場所に迷い込むことで、自分自身や自分の能力について大きな発見をすることができる場合もあるでしょう。

これまでの 12 作品で探偵になる経験をしたプレイヤーにとって、若き日のシャーロック・ホームズにはどのような違いがありますか?

Kobylinskyi 氏:
探偵という分野で未熟であることを表現したいと思い、シャーロックはミスをするようになっています。手がかりをすべて把握していなければ、間違った人を責めることもあるでしょう。ミスをするところを表現することで、ホームズが人間らしく感じられます。また、誤った結論を導き出せば、その過ちを抱えて生きていかなければなりません。

今作の若いシャーロックには、自己発見に至るまでの道のりもあります。自分自身がどのような人間かをまだあまり把握しておらず、物事に対する見方も形成している途中です。特に感情的な弱さが現れる状況では、自分自身をコントロールすることが難しくなります。今まさにシャーロックが大人になり、そして探偵になろうとしているわけですが、その変化には痛みが伴います。
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ワトソンが登場しない理由と、登場しないことで生じた設計への影響について教えていただけますか?

Kobylinskyi 氏:
ワトソンは、シャーロックにとって常に親友というわけではありませんでした。しかし、今作では別の相棒として、親友のジョンを登場させています。

ワトソンがいないことで、これまでの馴染みのある感覚を失ったと感じるプレイヤーもいることでしょう。しかし、ジョンもまた、スマートな登場人物であり、観察力があり、独自の倫理観を持っています。私たちと同様に、プレイヤーの皆さんにもジョンを温かく受け入れていただけることを願っています。

Chapter One のストーリーや設定のアイデアにつながった、以前のアーサー・コナン・ドイルやその他の文学作品のストーリーはありますか?

Kobylinskyi 氏:
ドイルの原作のストーリーは、間違いなく私たちのアイデアにつながっています。登場人物をゲームのベースとなる原作に近づけることは、どうしても必要でした。独自の解釈が行き過ぎてしまうと、そもそも誰もが登場人物を気に入っているにもかかわらず、その登場人物のエッセンスが失われてしまいます。そのため、ドイルの原作は私たちのストーリーにとって大きな道しるべであり、基準となるものでした。

映画や他のゲーム、書籍など、いくつかのメディアからもアイデアを得ています。これらの作品すべてを避けることや、それらから影響を受けずにいることは難しいことです。ストーリーのアイデアは、自分自身の人生からも得られます。若いころやその当時の傲慢さなどは、誰もが思い起こすことができるものでしょう。

Frogwares の前の作品である The Sinking City からは、どのようなアイデアが Sherlock Holmes Chapter One につながりましたか?

Kobylinskyi 氏:
表面的にはオープン ワールドになっています。また、メイン キャラクターの心理の悩ましさを生み出すものとして、ヒントが与えられない捜査のしくみが引き継がれています。オープン ワールドについては、コルドナ島は生き生きとした場所にし、独自の地域が存在し、そこに住む人々も独自の存在にしたいと思っていました。楽園のような作品の中にも、社会的格差が存在することをプレイヤーには感じてもらいたかったのです。自分が生まれた環境によって、人生が向かう方向はさまざまです。場所がどこであろうと、裕福な人がいればそこには必ず貧しい人もいます。プレイしている世界の中で、そのことをプレイヤーに感じてもらいたいと思っていました。

また、プレイヤーの直感を呼び覚ますことを狙った、ヒントが与えられない捜査のしくみも進化しました。クエスト マーカーや目標などはなく、手がかりや糸口をたどるのみです。新たに変装するしくみも追加しました。外見を変えることで、秘密を共有することに積極的でない人々からも、考え方を変えて情報を収集できます。地元の船乗りのクラブに常連のような服装で行けば、バーテンダーが誰かの居場所を教える気になってくれるかもしれません。しかし、貴族のような服装をして現れればすぐ出口に案内されるだけかもしれません。これは、プレイヤーを探偵と同じ心理にさせるために導入した新たな要素です。
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今作は、PlayStation 5 および Xbox Series S/X で Frogware の 2 作目ということになりますが、ハードウェアに新たなテクノロジーが搭載されたことで、具体的な改善点や機能を追加することはできましたか?

Kobylinskyi 氏:
新たなテクノロジーのおかげで、場合によってはスクリーンのロードを省略できました。また、その他の点として、ロード速度が大幅に向上しました。このスムーズさには本当に感動します。少し操作すれば、それがすぐ実行されます。また、ハードウェアのおかげで、グラフィック品質も大幅に向上させることができました。これはビジュアル面で一歩前進した点です。

ゲームのビジュアルは、4K 解像度などのテクノロジーからどのような影響を受けていますか?

Kobylinskyi 氏:
4K 解像度によって顕著になったことの 1 つとして、大画面でのゲームの表示が非常に良くなりました。最近は、消費者が大きな画面のテレビを購入する傾向があると感じていますが、かつて大画面とされていた 55 インチのテレビが現在では平均的とみなされています。また、ご存知のとおりコンソールのプレイヤーにとってはテレビがモニターとなります。4K はこの傾向に追いつく後押しをし、かつては小さい画面で映していたディテールの表示を可能にしました。
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Chapter One のビジョンを実現する上で、Unreal Engine のどのような要素が最も役立ちましたか?

Kobylinskyi 氏:
Unreal には高品質なゲームを制作するためのありとあらゆるツールが揃っていますが、このプロジェクトでは、 SHCO で最高品質のシネマティックスを実現するために シーケンサー を大いに活用しました。本当にすばらしいエディタです。また、高品質なシネマティック、カットシーン、ダイアログを作成することができました。ストーリー中心の本作のようなゲームにとっては、まさに天からの贈り物です。その点で、限界を押し上げることに役立ちました。

本タイトルのデザインに関して、特別なゲームプレイやビジュアル要素など、他にここで説明しておきたいことはありますか?もしあれば教えてください。

Kobylinskyi 氏:
特筆すべき点の 1 つとして、Unreal Engine 内で作成した新たなダイアログ システムがあります。このシステムは、 The Sinking City で最初に使用したものですが、それが新たな強化されたツールへの足がかりになりました。あらかじめ、多数のカメラ、ライト、およびアニメーション プリセットを用意しておき、単語に割り当てた特定のタグに従い、それらを話すセリフに合わせて自動的に適用するものです。タグは、怒りやフラストレーション、喜び、対立心などを表し、システムが会話の感情的なトーンを識別し、そのトーンに合ったプリセットを適用するのに役立ちます。

メインとなるアニメーションはアイドルと呼ばれ、これはキャラクターのアーキタイプごとに異なります。このアイドル アニメーションの上から、ジェスチャー、カラー補正、眼の動き、ライティング、さらにはモンタージュなど、自動的に特定のプリセットが適用されます。ゲーム内のセリフのやりとりはおそらく数百はありますが、このシステムのおかげで多くの時間を節約できました。
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次世代ハードウェアと Unreal Engine の長期的な可能性について、Frogwares の皆さんが最も期待していることは何ですか?

Kobylinskyi 氏:
新機能の World Partition システムには非常に期待できると感じています。大規模なアーティストのチームでオープン ワールドを作成するのがはるかに容易になります。また、 Nanite ポリゴン システムも、最適化にかかる負担が少なくなり、私たちが作成するワールド全体をより優れたものにしてくれそうなので非常に楽しみです。新しいテクノロジーにはワクワクせずにいられません。

貴重なお話をありがとうございました。Frogwares と Sherlock Holmes Chapter One の詳細はどこで確認できますか?

Kobylinskyi 氏:
ゲームの詳細については、 Sherlock Holmes Chapter One の Web サイト を参照してください。このサイトに詳細情報やソーシャル チャンネルがすべて掲載されていますので、ぜひご利用いただければと思います。

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