孤独なエンジニアが昼夜の境が曖昧な不思議な宇宙の空間で、いつ終わるともしれないパズルやミステリーに立ち向かい生き残るミッションに挑みます。
これは、Planet Alpha 31 の主人公の説明です。この内容は、ゲームの制作者である Adrian Lazar 氏にもあてはまるかもしれません。
Lazar 氏は、17 才からポスト プロダクションの仕事を始め、3D アーティストとしてフリーランスで仕事をしています。いくつかのスタジオを渡り歩いた後、2009 年には Hitman シリーズのデベロッパーである IO Interactive に加わりました。「そこでゲーム制作に初めて関わり、アーティストとして解き放たれるのを感じました」と Lazar 氏。2013 年には、Full Control で Senior Technical Artist という肩書で勤務しました。ここは小さなインディー スタジオで Space Hulk:Ascension の制作にも関わりました。二年後にスタジオは閉鎖されましたが、小さなチームで多様なタスクをこなすことはとても楽しくて病みつきになりました。他の誰かの組織の小さな車輪の一部として働く気はなくなりました。
「もっと自分でコントロールし、アーティスティックな自由も欲しかったし、自分のゲームを制作したいと考えました」と Lazar 氏は語ります。「それまでの 13 年ほどで十分なスキルや経験を積んだので、飛躍して独立する時期だと決めたのです。」これを現実にするために、Lazar 氏は馴染みのある分野のプロジェクトに取り掛かりました。
2013 年のクリスマス休暇中に Planet Alpha 31 に着手しましたが、その取り組みはわずか数か月しか続きませんでした。開発ペースに対するいらだちと日中の仕事の繁忙期がプロジェクトを頓挫させました。数か月後にアンリアル エンジン 4 (UE4) のリリースがなかったら、このゲームが日の目を見ることはなかったことでしょう。
「ブループリント ビジュアル スクリプティング、迅速なプロトタイピング、目をみはるようなレンダリング機能が持つポテンシャルを目の当たりにしました」と Lazar 氏。以来、数か月間プロジェクトに取り組み、そのポテンシャルが成果を上げました。ちょうど先月、デンマークの投資グループであり、その資金が Playdead の Limbo の制作を可能にした CAPNOVA A/S が、Planet Alpha 31 に対して十分な資金提供をすることを決めました。Lazar 氏の夢が叶ったのです。
彼がゲーム、影響を受けたもの、独力で仕事をすることの課題について語ってくれました。
Planet Alpha 31 はどんなものにインスパイアされましたか?
子供の頃、父から 『スタートレック』 を無理やり勧められてからというもの、ずっと熱心な sci–fi ファンで宇宙探検やエイリアンの世界に夢中になりました。
何年か前からビデオゲームで遊ばなくなりました。徐々にそうなったんです。自分の自由になる時間が少ないことと、発売されるゲームを楽しめなくなってきたからです。年のせいかもしれませんし、ゲームがどんどんつまらなくなっているからかもしれませんが、とにかく興味を失いました。
そんな中、数年前に iPad バージョンの Another World (邦題『アウターワールド』) をプレイしてみました。若い頃、やる機会を逸したゲームです。これは、とても気に入りました。ゲームプレイもグラフィックスも気に入りましたが、何よりも楽しめたのは、不思議な宇宙の惑星にいるという感覚です。こうした感覚こそ、Planet Alpha 31 でも伝えようとしているものです。Another World によって、ビデオゲーム、sci–fi、宇宙探検に対する情熱に再び火がつきました。Planet Alpha 31 には Another World の影響があるという人もいますが偶然ではありません。
このゲームは見栄えもよく、独特なビジュアルですね。どのように制作したか、また何に影響を受けたかをお話いただけますか?
こうしたアートスタイルをリサーチし、数か月かけて構築し、プレイヤーが没入感のある体験をできるようにしました。今日になってもまだ調整を続けています。同時に簡単に制作できるものでなくてはなりませんでした。初めから自分ひとりか、ごく小規模なチームで制作することがわかっていたからです。高彩度の色を使ってサイズ、形状、ライティングでコントラストを付けることにしました。ゲームを独特な外観にするうえでこうしたことが大きな役割を果たしたと思います。
Planet Alpha 31 のビジュアルは多くのものからインスパイアされました。古代ギリシャの建造物から 『スタートレック』、 『エイリアン』、 『エイリアン 2』 という一昔前の味のある外観や、シンガポールのような都市にある未来を感じさせる斬新な設計、宇宙の写真に至るまで、我々はインスパイアされるものに事欠かない世界に生きています。
このゲームは、夢中になった昔のゲームへの敬意を表したものとのことですが、具体的なタイトルを挙げていただけますか?デザインの選択と、デザインがもたらす課題についてお話いただけますか?
私は、Quake や Unreal といったゲームで育ちました。レベル デザインが素晴らしく、見つけなければならない秘密エリア、隠れた敵、鍵などが沢山あります。時々、途方に暮れますが、いつも戦いを挑まれている気分になります。私にとっては、こうした感覚を与えることが Planet Alpha 31 でも重要だと思います。宇宙の惑星でアクション ヒーローとしてではなくエンジニアとして一人でいます。好奇心を持ちながらも怯えていますし、驚嘆しつつも警戒しています。生き残るためには、この不思議な世界に気を配りながら探検しなくてはなりません。真っ向からのアプローチはめったにうまくいきません。撃つ前によく考えてください。
惑星自体にユニークな仕掛けがありますね。その仕組みと、アイデアの出所を教えてください。
ビジュアルがゲーム メカニクスに影響を与えたり、その逆もあてはまる世界を作ろうとしたのです。例えば、リアルタイムの昼夜のサイクルはゲームプレイに影響を及ぼしますが、プレイヤーもまたそのサイクルに影響を及ぼすことができます。ゲームプレイ、ビジュアル、およびオーディオとの途切れることのないつながりが、没入感のある体験を生み出す鍵だと考えています。
ほとんどの仕掛けは頭の中で考えましたが、一部は紙を使ってプロトタイプ化したり、直接インゲームでテストしました。これはアンリアル エンジンが非常に得意とするところです。難しいのは、楽しくてゲームプレイの機会が多いものを実装することです。自分のアイデアを拒絶するのは容易ではありませんが、いろいろなことに手を広げすぎるよりも、うまく機能する堅牢な仕組みをいくつか持ちたいと思います。
リソースに限りがあるということは、細かい点に気を遣いながらも、常に全体を見渡さなければならないことを意味します。これは長年苦労して身に付けたスキルです。
ご自分でいろいろ対処してきましたが例外はありますか?
ビジュアル機能やゲーム メカニクスのアイデアがひらめき、どんなに困難で時間がかかっても実装しなければならないと気付くことが何回かありました。そうでなければ自分でゲームを作らないと思います。
最も重要な部分であった昼夜のサイクルは自分の休暇中に作り、Planet Alpha 31 の支援に関心を持っている投資家からのフィードバックを待ちました。その結果、ゲームは気に入ったが、ユニークなゲームにするための特徴に欠けているとのコメントをもらいました。ちょっとショックでした。その時点でゲームの出来栄えはいいと思っていたからです。とはいえ、何か特別なものを考え出さなければという大きな動機付けになりました。
ブレインストーミングとパニックの数日を経て、ひらめいたのです。リアルタイムの昼夜のサイクルを用意したけど、プレイヤーがそれに何らかの影響を及ぼすことができたらどうだろうと。ビジュアル的には魅力的ですが、もっと重要なのは 3 つのゲームの柱となる部分です。すなわち、パズル、プラットフォーム、アクションです。
Daytime Manipulation Mechanic (もっといい名前を考える必要がありますが) は、早送り、早戻しして惑星の回転を変える能力をプレイヤーに与えます。これにより、特殊な異世界の物体とインタラクションしたり、惑星の生物圏に影響を与えることができます。これはゲーム全体を通してビジュアルからゲームプレイ、オーディオまで変更を必要とするタイプの機能ですが、実装しなければなりませんでした。そうでなければ優れたゲームを作ることはできなかったでしょう。投資家の話は他の理由からうまくいきませんでしたが、ゲームをさらに上のレベルに引き上げることができたことをとても嬉しく思いました。
Planet Alpha 31 のほとんどを制作した唯一のデベロッパーですよね。単独で制作することを目標としていたんですか?
一人で仕事をすることが目標ではありませんでした。私が望んでいたのは独自のゲームを制作し、クリエイティブな面で完全に自由であることです。これは、大きなスタジオ、場合によっては中規模のチームでも難しいことです。他の人々の失敗に配慮しなくてもいいのも気に入っています。実際、自分も失敗します。これまでも何回か失敗しましたし。だけど、自分が犯した失敗なんです。
もともと、Planet Alpha 31 を一人で作業するつもりはありませんでした。プロジェクトの立ち上げ時に単に他の選択肢がなかっただけです。プロジェクトの資金が調達できましたが、それでも 2、 3 名の小規模チームになるでしょう。自分がコントロールするのが好きなので、常にゲームのあらゆる面に関わります。しかし、将来の同僚たちにはクリエイティブな面で十分な自由を与え、私のゲームに対するビジョンはそのまま保ちながら、彼らにモチベーションを持ってほしいと考えています。
ほぼ 2 年間にわたり、Planet Alpha 31 を一人で制作してきました。1 月からは、私だけのゲームではなくなったことを理解しています。このゲームは、いつまでも自分の子供のようなものではありますが、他の人と共有しなければなりません。それには納得しています。良いスタッフを見つけたので、将来が楽しみです。
一人で作業するうえで何が一番問題でしたか?
自分にとっての最大の課題は、何から何まで自分で考えなければならないということです。つまり、ゲームに関するどんな些細なことでもです。ゲームプレイ、アート スタイル、ストーリーといった主だったものだけでなく、UI、ローカリゼーション、コントロール スキーム、オーディオに至るまで、挙げたら切りがありません。細かなところで簡単につまづいて全体としての重要点を見失ってしまいます。何回かそんなことがあり、レベル デザインに戻り、やり直さざるをえませんでした。自分が望んでいたものからゲームが離れていってしまったからです。とはいえ、あらゆることを学ぶことに喜びを感じています。つまらないものもありますけどね。すべて自分がやっていることを誇らしく思っているのも事実です。
Planet Alpha 31 の孤独な生存者と孤独なデベロッパーである Adrian Lazar 氏本人との間に何らかの関連性がありますか?
はい、あります。ある意味、ゲームは私の人生を反映したものであり、非常にパーソナルなプロジェクトになっています。そうなるべくしてなったと思います。考えもしませんでしたが、納得できます。いつも独立心旺盛で、18 才のときに家を出て、26 才のときに故郷を離れてデンマークで暮らしました。誰にも頼らず自立できるというのはとても気分がいいものです。
ゲーム制作に UE4 を選んだ理由を教えてください。
Unity を使ってPlanet Alpha 31 の最初のバージョンを制作し始めて、最初はうまく作業が進んでいました。でも、しばらく経つとエンジンの制御がさらに必要になり始めました。プレハブ システムに制限が出てきて、レンダリングの問題をデバッグするオプションはほとんどありませんでした。ポスト プロセスも全体的な品質面で足りない部分がありました。Unity は良いエンジンですが、私のプロジェクトがそれを超えてしましました。ゲームはどんどん複雑になり、それにつれてツールに対する要件も増えていったからです。半年後、その時点でのプロジェクトの進捗の遅さに苛立ち、ゲーム制作を止めました。
数か月休んでから、UE4 を試し始めました。まだ新しいものでしたが、すぐに気に入りました。ブループリント システムは非常にパワフルで、使用しきれないほど豊富なデバッグ オプションがありました。しかも、レンダラは最新のものです。さらに重要なのは、ノード ベースのワークフローが自分に向いていたということです。Houdini と ICE (XSI) で何年か使ったツールが同じようなデザインだったからです。
信頼できる堅牢なツールの存在は常に重要ですが、インディーの場合、なおさらです。時間とリソースに限りがあるということは、ソフトウェア開発者に依存するところが大きく、良好なコミュニケーションが鍵となります。幸いエピック ゲームズでは、週一回のストリームで情報を公開し、大勢のデベロッパーがフォーラムとパブリック ロードマップで議論に参加しているため、今後どんな展開になるかがわかります。
UE4 でクラシックな横スクロール ゲームを作るのはどんな感じでしたか? 問題が発生したり、解決したりしましたか?
アンリアル エンジンは、もともと FPS 向けに開発されましたが、UE4 は横スクロール ゲームにも非常に適していて、提供されるゲーム テンプレートがかなり役立ちました。Planet Alpha 31 は、横スクロール テンプレートから始まり、いまだにその一部のロジックとアニメーションを使っています。十分な 3D 環境があるということは、ゲームの深度とスケールの面で優れた感覚を生み出します。これを 2D で実現するのは難しいことです。
Unreal Dev Grant はどのような経緯でもらったのですか?その結果、どんな変化がありましたか?
Planet Alpha 31 は、Unreal Dev Grants を最初にもらった 6 組の受賞者の中に入りました。私が申請したときには既に数百のサブミッションがあったため、あまり期待していなかったのです。
Unreal Dev Grant を受け取ることが、Planet Alpha 31 にとってどれくらい重要であったかは言葉では語りつくせません。当時、自分のフルタイムの仕事が非常にひどい状態で、疲れ切ってやる気も失い始めていました。Unreal Dev Grant は大きな助けとなりました。ゲームの方向性が間違っていないことが初めて確認されたからです。その金額は、開発にかかる費用に対して多いとは言えませんが (半分税金で持っていかれました)、Casual Connect/Indie Showcase Singapore に出席することができました。そこで、3 つの賞をもらいました。こうした賞と、Dev Grant をもらったという事実によって、ゲームの資金調達をするための投資家を見つけやすくなりました。
賞金がなければ、ゲームはここまでにならなかったかもしれないし、インディー デベロッパーになるという夢を叶えられなかったかもしれません。
Casual Connect での評判はいかがでしたか?
そこで初めて Planet Alpha 31 を公式に披露しましたが、とても恐ろしかったです。前日の夜になってもホテルの部屋でバグを修正していましたし、次のように沢山の疑問もありました。ゲームプレイは面白いか? 難しすぎたり、いらいらしすぎたりしないか? レベル デザインはうまくできているか? 評判はよく、多くの貴重なフィードバックが集まりました。
何と言っても、ゲームは受賞セレモニーで 3 つの賞をもらいました。Best in Show、Most Promising Game in Development、 Best Visual Style の 3 つです。すべてゲーム制作の方向性が正しいことを示したものです。
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Unreal Dev Grant の Unwinnable とのパートナーシップ で詳しい情報をご覧いただくことができます。 この記事のようなコンテンツをさらにご覧になるには、Unwinnable を購読してください。