2019年3月15日
Exploring A Fisherman’s Tale:完成度が高く奇想天外な VR パズル ゲーム
A Fisherman's Tale は、VR によってのみ実現できるパズルを取り入れた、独特なゲームです。プレイヤーは小部屋の中の人形を操作しますが、その人形も小部屋の中の人形を操作し、さらにその人形も小部屋の中の人形を操作します。無限に回帰するゲーム デザインで、プレイヤーは異なる大きさの自分自身と協力して多次元のパズルを解くことを強いられます。
この革新的なコンセプトが、Pixar の映画を思わせるすばらしい吹き替えと完成度の高いグラフィックで作り出されています。A Fisherman's Tale はオンラインで称賛を浴び、Steam では「非常に好評」の評価、Oculus Store では星 4.5 個を獲得しています。
このゲームの開発について、Innerspace VR の共同設立者兼クリエイティブ ディレクターである Balthazar Auxietre 氏にお話を伺いました。VR でのみ実現が可能なゲームの開発をなぜ目指したのか、そして VR というメディアの最大の課題にどのように取り組んだのかお聞きしました。 このたびは、お時間をいただき、ありがとうございます。また、A Fisherman's Tale のリリース、おめでとうございます。大きさの異なる複数の次元を同時に展開するという独特のコンセプトはどのように生まれたのでしょうか?
Innerspace VR の共同設立者兼クリエイティブ ディレクター Balthazar Auxietre 氏:1 つの世界の中に別の世界を入れ込むというアイデアは、しばらくの間、漠然と考えていたものです。VR の初期からクリエイターたちが試し、成果を上げているものでもあります。そこで、プレイヤーを部屋の中に入れ、その部屋とプレイヤー自身を複数の次元で入れ子にして、同時にプレイできたら面白いのではないかと考えました。いくつか実験を行ってから、このアイデアはゲームプレイだけでなくストーリーの面でも大きな可能性を秘めていると気づきました。そこからゲームの開発が始まりました。
A Fisherman's Tale では、パズル要素で、大きさの異なる複数の自分自身と物理的に関わることを強いられます。そのことから、このゲームは VR でなければ実現できないと多くの人々が言っています。仮想現実でしか実現できないものを作るというのは、大きな目標のひとつだったのでしょうか?
そのとおりです。2014 年の Innerspace VR 創業以来、各プロジェクトを VR に特化した独自のエクスペリエンスにしようという一風変わった目標を掲げてきました。このため、当初から「VR 思考」でゲームをデザインしてきました。そして、複数のプラットフォームに対応したエクスペリエンスではなく、ヘッドセットの特性を最大限に生かしたエクスペリエンスを生み出すことに集中的に取り組みました。
このゲームは現在、Steam では「非常に好評」の評価を獲得し、プレイヤーはパズルが創意に富んでいて、かといって難しすぎるということはないと言っています。楽しくクリエイティブでありながらストレスがたまらないパズルをどのようにデザインされたか、教えていただけますか?
VR やパズルの達人でなくても、誰もが楽しめるエクスペリエンスを作り出したいと思っていました。そこで、プレイテストに長い時間をかけ、すべてのパズルを微調整することで、ストレスが大きくならないようにしました。また、時間をかけずに早く先に進みたいプレイヤーのためにヒント システムも採用しました。
A Fisherman's Tale's のストーリーは心をつかまれるもので、謎に包まれています。VR を活用したストーリーテリングは、まだ始まったばかりのものですが、これまでに何を学ばれましたか?
この新しい分野については、多くのことを学んできましたが、学習はまだ続いています。VR でもストーリーテリングの基本原則は当てはまりますが、VR の場合、「方法」の部分が大きく異なり、まだあまり知られていません。これは、1 つのスタジオや個人ではなく、クリエイターのコミュニティからのみ生まれるものだと思うので、ほかのデベロッパーがどのように取り組んでいくのかが楽しみです。
統一感があり、細部にこだわったアートスタイルを、多くのプレイヤーが、Pixar のように完成度が高いと評価しています。このグラフィカルな描写はどのように実現されたのですか?
Pixar の映画にはまだまだ及びませんが、確かに目標にはしています。環境の作業に長い時間をかけ、丁寧に作り込まれていると感じられるよう、イテレーションを重ねました。また、すべての次元の描写に統一感がでるように、マテリアル パイプラインを開発しました。ゲームのオブジェクトを拡大しても、かなりリアルに感じられるようになっています。
VR はシステム要件が厳しくなりますが、どうやってフレーム レートを維持したのですか?
VR は、最適化するのは厳しいプラットフォームですが、ゲームに何かを追加するときに慎重な検討を余儀なくされるというメリットもあります。A Fisherman's Tale は当社の初めての VR リリースではないため、私たちは制約についてよくわかったうえで、慎重な段階的アプローチを定めました。フレーム レートをチェックし続け、また開発プロセスの最後には当然 Unreal のプロファイラー ツールを広範囲で使用して微調整を行っています。
ゲームでは、キャラクター モデルの複数のバージョンが、基本的に同じことを同時に行いますが、このデザインならではのパフォーマンス改善手段を発見することはできましたか?
はい。オブジェクト数、大きさ、複雑さを抑える必要がありましたが、プレイヤーがゲームでモデルに入り込むことになるため、全般的に複雑さを避けることは適切で当然であると思われました。リアルさを追求するよりも、スタイルに沿ったものになるようにしました。
ゲーム内で手を伸ばし、手が届きにくいオブジェクトをつかむことができる VR ゲームは多くありません。これはどのように実装したのですか?
トラッキング機能は VR のハードウェアによって異なることもあるので、固定された状態からでもあらゆるオブジェクトにアクセスできる方法を見つける必要がありました。この課題の解決には、キャラクターが操り人形であるという点が役立ちました。伸縮自在の手の仕組みが、この世界では理にかなっていました。(手の存在が) 最初は妥協のように感じられましたが、今は楽しい機能だと思っています。
ゲーム開発時の最大の課題は何でしたか?
ゲームは物語を中心に進むため、サンドボックスのような面もありますが、プレイヤーがストーリーに注意を向ける必要がある瞬間と、パズルに集中すべき瞬間のバランス調整に力を尽くしました。こうしたゲームでは、求めていることがプレイヤーによって異なるため、この点は注意が必要です。ストーリーに集中したいプレイヤーもいれば、パズルややりがいを求めてプレイする人もいます。プレイヤーに無理を強いることはしたくないので、注意すべき点に注意を向けるようプレイヤーを誘導することが重要になります。
UE4 が A Fisherman's Tale に合っていると思われたのはなぜですか?
2015 年から Unreal を使用していますが、別のデベロッパー フレームワークへの移行は考えたこともありません。Unreal は、特に VR にとっては、非常に強力で手堅い開発ツールです。Epic はヘッドセット メーカーによるハードウェアの進化を常に追っています。このゲーム専用に開発されたカスタム アドオン (当社の才能あるエンジニアの手による) のおかげで、開発プロセスは非常にスムーズでした。
UE4 のツールや機能で、特にお気に入りのものはありますか?
個人的に最も価値があると思う機能はシーケンサーです。物語のリズムを入念に作り出す機能を備えながら、柔軟性に優れ、エンジンのほかの部分と連携します。私たちのワークフローに不可欠な要素になっています。
Unreal Engine マーケットプレイスは役に立ちましたか?
Unreal Engine マーケットプレイスは、試してみたかったアセットやパーティクルのために使用しました。このゲームのために正式に開発する前に、すばやく簡単に試すことができました。
A Fisherman's Tale は Oculus、Vive、Windows Mixed Reality、PlayStation VR に対応しています。多様な VR ヘッドセットにわたる互換性を実現するために、Unreal Engine 4 は役に立ったと思われますか?
とても役に立ちました。できる限り多くのプラットフォームをターゲットにする必要があり、それには苦労が伴いましたが、Unreal によって負担が軽減されました。将来的には、ヘッドセットごとにエクスペリエンスをカスタマイズする必要がないように、メーカー間の協力が進み、共通の API が増えることを期待しています。
A Fisherman's Tale を開発された今、VR に対して全般的にどう思われていますか?
ストーリーを語り、Innerspace で作りたいゲームを作るために最適な方法である、VR というメディアに傾注しています。VR は、まだ主流ではなくても、深い感動を与えることができる可能性があり、ほかでは得られない有意義で楽しいエクスペリエンスを生み出すことができます。ですから VR の今後に期待しています。VR がすべての家庭に導入され、VR のストーリーテリングの力をみなさんにお見せできる日を心待ちにしています。
改めまして、本日はありがとうございました。A Fisherman's Tale について詳しく知りたい場合は、どこを見ればいいですか?
http://afishermanstale-game.com/ をご覧いただくか、Twitter で @InnerspaceVR をフォローしてください。