ステージ制作の楽しさを遊びとして提供する『ころだま物語』開発者インタビュー

Yuya Shiotani
【トライデントコンピュータ専門学校】
「プロになる。本気でめざす。」河合塾グループの教育ノウハウを活かした実践的な学びによって、即戦力のスキルを磨き、ゼロスタートから希望業界へ全力でサポート。夢を実現する学びの環境がトライデントにはあります。
https://computer.trident.ac.jp/
名古屋を拠点とするトライデントコンピュータ専門学校の学生によって制作されたパズルアクションゲーム『ころだま物語』は2021年ゲームクリエイター甲子園にて第2位の成績を収めた作品です。
本作は印象的なルックや流体を使った表現だけでなく、完成後のアップデートによってステージエディット昨日が追加されるなど意欲的にクオリティアップが行われています。

今回はゲームサイエンス学科のプログラマー鈴木駿介さん、小林北翔さん、春田陽貴さん、久保幸一朗さん、武田琉聖さんそしてCGスペシャリスト学科のアーティスト曽我菜月さん、髙田真衣さん、田代ケインさん、戸谷匠さんの9名に挑戦的な水の表現、後日追加されたステージエディットを中心に話を伺いました。
 

ころだま物語とは?

パズルアクションゲーム「ころだま物語」について教えてください。
開発チーム:ころだま物語はシンプルに言ってしまうと玉を転がすゲームです。主人公のこだまくんを操って玉を祠に転がしていくことを目的としたゲームで、5つの個性的なテーマを持った全45ステージをクリアすることが最終的なゴールとなっているゲームです。
主人公はこだまくんと言う木の妖精で、風呂敷にはおにぎりが入っています(笑)
開発期間はどのぐらいなのでしょう?
開発チーム:おおよそ6ヶ月で開発しました。前半の3ヶ月はゲームデザイナーとプログラマーの5人でゲームの基本部分の実装を行って遊びや面白さの確立に力を入れました。後半の残り3ヶ月からはアーティスト4名も参加してもらいゲーム全体のルックの向上に務めました。
開発期間中は1日に7-8時間はころだま物語にかけていて、日々の授業もある中で自由実習や授業終了後などで時間を捻出して開発していました。
ゲーム開発そのものが楽しかったですし、最後までお互いを励まし合いながら開発していたので完成まで乗り切れました。
 
開発のマイルストーンのようなものは設けていましたか?
開発チーム:大きくは設けていませんでしたが定期的に実装したギミックやステージのテストを開発チーム全員で行なうようにしていました。おかげでゲーム内容や面白さについて早期に確認できたので実施してよかったと思います。不具合についても大きな問題などが発生する前に見つけることもできていたので、こういったテストはより細かく行なうようにしてもよかったのかもしれません。

特徴的な水の表現について

本作ではエリア2にて水を使ったギミックで遊ぶことができます。この水は技術的にも挑戦した点かと思いますが、どのように実装されたのでしょうか?
開発チーム:
最初にゲームデザイナーから「動的な水を実装してほしい」と無茶振りをされました。色々なゲームを見て似た表現がないか調べてみましたが、なかなか見つからなかったところ、Niagaraによる事例を発見して「これだ!」と思いました。しかし僕たちは Unreal Engine 4(以下、UE4) を始めたての初心者だったため知識・力量の面で実現が難しかったです。さらに調査を進めると NVIDIA の Flex というプラグインを使うことで実現化できそうだったのでそちらを採用することになりました。
ただ、Flex はころだま物語を開発していた UE4.26 には対応されていなかったため、開発途中で 4.19 までエンジンバージョンを落としました。

4.19 まで!それは驚きです!
4.26 から 4.19 ですと機能面で利用できなくなる物があったかと思います。ダウングレードによって困ったことはありましたか?
開発チーム:
ダウングレードによって困ったことは特になかったです。ダウングレード作業による不具合なども発生せずとても助かりました。ただゲームが7割ほど完成していたタイミングでダウングレード作業を行ったので、すべてのブループリントをコピペする作業が発生してココだけはとても大変でした。
今回ダウングレードしなければ流体の表現が難しかったのですが、次回があれば Niagara を使った流体に改めて挑戦してみたいと思います。
 

追加アップデートによって加えられたステージエディット

追加アップデートによって各ステージのルック向上だけではなくステージエディットが追加された点は驚きました。どうしてステージエディットを追加したのでしょうか?
開発チーム:
ころだま物語が一旦完成したあとにまだ作品提出までに時間があったので、「ステージを増やすか何かしよう」とチーム内で話していました。その時にアーティストから「ステージエディットが欲しい」と話があがったことがきっかけです。そこからゲームエンジンを触らない人にもステージを作る楽しみを知ってほしいと強く思い着手しました。

ステージエディットはアップデートのために新規実装したのですが、今思うとプログラマーであれば UE4 のエディターで事足りるのですが、アーティストにとってはこの機能がころだま物語の開発中にあれば助かったかなと思います。
 
このステージエディットは編集からプレイ、作ったステージの共有などよく出来たツールだと思います。ステージエディットを制作した経験が過去にあったのでしょうか?
開発チーム:
経験はなかったです。ころだま物語を制作する過程で得た経験を元にどういったパラメータがあると良いのか、どういった操作が必要なのかアイデアを組み合わせて作りました。基本的なエディットに必要な機能や UI は日頃から触っていた UE4 を参考にしています。他にもエディットしたステージをすぐ遊べる点はスーパーマリオメーカーで体感した「すぐ遊んで面白さを確かめられる」点を参考にしました。

作成したステージの共有方法としてテキストデータによる共有を採用されていたかと思います。実現にあたって難しかった点などありましたか?また何か利用したプラグインなどはありましたか?
開発チーム:
配置したギミックのパラメーターなどをすべて文字列化しなければいけなかったのでそこが大変でした。他にもテキストデータとして書き出したものからステージを生成する点は大変だったと思います。ただ、ステージエディットの全機能をC++やマーケットプレイスのアセットやプラグインを使わずに UE4 標準のブループリントのみで作れたのでそこまで難しかった点はなかったと思います。
 
ステージエディットで間に合わなかった機能や入れたかった機能はありますか?
開発チーム:
コンテストなどに出した際に審査員の方から評判が良かった「水・水流」を機能として入れたかったです。制作期間の都合で他のギミックとの相性であったり、不具合についての検証を行なう期間を確保できなかったので今回は諦めました。

どうして Unreal Engine なのか?

ココまでに Flex の利用やステージエディットの追加などをお聞きして学生とは思えないクオリティの本作ですが皆さんのUE歴はどのぐらいなのでしょうか?どういったきっかけでUEを採用されたのか教えていただけますか?
開発チーム:
UE4 はエピック ゲームズ ジャパンの方の特別講義をきっかけに知りました。その後、ゲーム科のプログラマーやゲームデザイナーは1年生の後期に授業で初めて触れました。CG科のアーティストは個人の作品制作で利用したことはありましたがお試しで触れた程度だったので全員がUEはもちろんゲームエンジン自体が初心者というレベルからころだま物語の開発がスタートしました。
そんな中でもUE4はブループリントやマテリアルなどノードベースで開発が行えるので学習コストの低さも相まって、アーティストとコラボする際に作業を分散するなど開発の効率化を行いやすく、ころだま物語ではアーティストに草や木の揺れを表現するマテリアルの制作や調整を直接してもらうことができました。
UE4のブループリントは作りやすさや学習コストの面から見てもゲームづくりを優先して進めたかったころだま物語にはピッタリでした。

Epic Games が実施した特別講義や学校の授業をきっかけに UE を知ったり学ぶきっかけにされたのはアカデミックパートナー校であるトライデントコンピュータ専門学校ならではのエピソードですね。私たちの取り組みがこういった形で実って嬉しいですね。

学習コストの面からUEを採用いただいたとのことですので恐らくころだま物語では C++ は使用されていないのかと思いますが、制作を振り返ってみて「C++を使った方が良かった」と思ったことはありましたか?
開発チーム:
おっしゃる通りころだま物語は Flex による流体表現を除いてすべてブループリントで作りました。
まだまだ C++ に慣れていないので比較はできないですが、開発を振り返ってみるとブループリントで制作を進めるうちについついノードがぐちゃぐちゃになってしまって可読性が落ちて苦労する部分がありました。次回は親クラスを C++ 化して一部の処理を逃がすなど C++ も利用した開発に挑戦してみたいです。
 
UEでの制作を進めるにあたってどのように学習しましたか?
開発チーム:
アーティストは学校の先輩から色々教えていただきました。先輩がすごく UE4 を使い慣れていて、ノードやマテリアルの使い方、ライティングの設定などを教わりました。わからないことがあったら公式ドキュメントをまず見てみて、それでもわからなければ先輩に聞くようにしていました。
プログラマーは用語単位でとにかく調べまくりました。先輩に UE4 を使用している方がいなかったので独学で公式ページやコミュニティのブログを回ったりして実際にころだま物語で実装する方法で学びました。特にはてなブログ、Qiita の記事をよく見ました。

情報を調べるにあたって工夫したことはありますか?
開発チーム:
検索エンジンでヒットした記事は片っ端から見てました。検索して調べていると英語ページが引っかかることがあるのですが、最近は翻訳サイトがあるので英語の記事でもどういったことが書かれているかは読むことができました。

UEを使ってみてよかったことはありますか?
開発チーム:
今回の制作で初めてゲームエンジンに触れたのですが、アーティストとしてはマテリアルエディターでノードさえ組めたら後からマテリアルインスタンスを使ってリアルタイムにモデルの質感をプレビューしつつ調整できたのはすごく良かったです。あとはUEの機能ではなく自分達で制作した物ですが、ステージの地面や壁などの 3D モデルのマテリアルをモデルの法線方向に合わせて使用するテクスチャを自動的に選定するようにプログラマーが制作していたのには驚きました。モデルを配置する時は方向を考えずに置くだけでそのモデルの上面が地面のテクスチャを、側面は側面用テクスチャを自動で適用してくれるのでとても便利でした。
プログラマーとしてもアニメーションの機能に触れてみて Blendspace1D を使って走る・歩くなどを組み合わせて再生できる点や当たり判定や物理挙動がとても簡単にできたことに感動しました。自分たちで当たり判定や物理挙動をすべて1から作ろうとすると膨大な時間がかかりますし、とても大変だと思いますが、今回のようなゲームづくりを優先したころだま物語だとゲームエンジンとして UE を利用することですぐに自分がしたいことを実装できたのでより素早く面白さのチェックやデバッグができたのが良かったです。
 

今後の展望

最後に今後の展望について教えていただけますか?
開発チーム:
実は同じチーム構成で次のプロジェクトを現在進めています。日本ゲーム大賞アマチュア部門での受賞やゲームクリエイターズ甲子園で今度こそ1位を取ることを目標にしていて、今回はアーティストにも早めに入ってもらって、より良いプロジェクトを作ろうと考えています。今はエンジンバージョンを UE4 にするか UE5 にするかで悩んでいるところです。

今後は UE5 を採用したタイトルが多くなっていくと思われますので、将来のことを考えると UE5 を触っていたおいた方が良いかも知れませんね。

この度は貴重な機会をいただきありがとうございました。
今回のインタビューでは水の表現やステージエディットを中心にお聞きしました。その他のゲームデザインとして本作の設計を始めとした制作秘話がnote( 1, 2 )にて公開中です。読み応えのある素晴らしい記事ですのでぜひご覧ください。

2023年に卒業予定である彼らの活躍に期待します。

 

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