教育的な要素を含むエンターテイメントを提供するために、Tigertron は同社のモットーである「変化を引き起こすゲーム」の開発に挑んでいます。そのために、Tigertron は、私たちを取り巻く世界からインスピレーションを得てエクスペリエンスを作成しています。それは、プレイヤーを引き付けるものであると同時に、現在の環境について顧みることを促すものとなっています。
Unreal Engine 4 で開発された Jupiter & Mars では、ネオンカラーで彩られた水面下のユートピアで、エコーロケーションなどの独自のゲームプレイ要素を重視して、環境に生命を吹き込んでいます。Tigertron でクリエイティブ ディレクターを務める James Mielke 氏は、スキューバ ダイビングをしたことがあり、Child of Eden やルミネスなどのゲームの開発に携わりました。そういった経験から光と闇のコントラストには馴染みのある Mielke 氏は、まったく新しいオーディエンスに向けて、大胆な驚くべきものを作り出しました。Mielke 氏と、Jupiter & Mars の開発チームのアーティストおよびプログラマーをお迎えして、ゲームのメッセージによって何を達成しようとしたのかと、Unreal Engine がチームの目標達成を支援するうえでどう役立ったかについて、お話を伺いました。 Tigertron は、「変化を引き起こすゲーム」を開発するというモットーを掲げて、2015 年に創設されました。スタジオが創設された経緯と、そのメッセージがデベロッパーとしてのご自身にとって重要である理由について教えていただけますか?
James Mielke 氏:14 か 15 歳くらいのころ、私の人生に大きな影響を与える 2 つのできごとがありました。1 つはボーイ スカウトに入ったこと (ほかの子よりは遅い時期ですね)、もう 1 つはスキューバ ダイビングのライセンスを取ったことです。この 2 つのことによって、私は地上と海の中の両方で自然界と触れ合うきっかけを得ることができました。海洋生物学、生物多様性、それらに関わるさまざまなことに関心があったので、コーネル大学のような学校に行こうかとも思ったのですが、代わりにもっと安全な道を選んで、The School of Visual Arts でデザインとイラストを学びました。
それから 30 年ほどの間、私はデザインの仕事をしたり、ゲームの分野を扱うジャーナリストとなったり、それまでの経験を活かしてゲームの開発に取り組んできたりしました。しかし、2 人の子どもの親となってから、自分たちの住む世界のあり方に大きな不安を抱くようになりました。1UP.com で仕事をしていた終盤の時期に、アースデイがやってきたときのことを思い出しました。電力消費を 1 時間控えることすらしようとしない人たちと、長時間にわたって議論をしていました。現在の私たちのライフスタイルを維持することはできないと科学的にわかっているにもかかわらず、故意に知ろうとしない人がいることや、これ見よがしに拒絶する人がいることに悩まされています。地球は滅びないかもしれませんが、真剣で有意義な取り組みをしないかぎり、(私たちを含む) 生物が生き延びることはできないでしょう。
日本でゲームを開発していたころから 5 年ほど経ってから、ニューヨークの開発スタジオ 2 社の仕事をしましたが、どちらも私にとって最高の環境とは言えませんでした。そこで、可能なうちに自分が前面に立つことにしたのです。妻からの後押しもあり、良い友人であり、10 年以上にわたって一緒に仕事をしていた Sam Kennedy を迎えて、一緒に Tigertron を設立しました。この名前も自然とテクノロジーのハイブリッドとなっています。
ゲーム業界を離れてフルタイムの環境保護論者になることも真剣に検討したのですが、ゲーム開発の経験を環境保護の精神と組み合わせて、グローバルのゲームのオーディエンスに将来について関心を持ってもらうように努力するほうが有意義だろうと考えたのです。

環境を意識するスタジオであるということは、多くの人がその商品は「エデュテイメント」のカテゴリに入ると考えるでしょう。しかし、Jupiter & Mars については、ゲームを終えたあと長い期間にわたって、人々に考えてもらい、印象を残すことが目標だそうですね。Jupiter & Mars のアイデアがどうまとまったのかについてと、そのリリースを通じて何を成し遂げたいのかについて教えていただけますか?
Mielke 氏:おっしゃるとおり、私たちは「エデュテイメント」を作ろうとしているのではありません。学校などで使われるものであればそう呼ばれてもいいだろうと思いますが、私たちが作ろうとしているものを正確に説明している言葉ではありません。型にはまったものが多い業界において、新しい道を切り拓くのは難しいものですが、インディーのデベロッパーであればこそ、変わったことに挑戦できます。小さなチームであることの最大の利点は、Jupiter & Mars のようなゲームを開発できることです。私たちはローリスクでポテンシャルを秘めたゲームのメーカーです。それは、東京の Q Entertainment や、(名前は似ていますがまったく別の) 京都の Q-Games での経験から、私の頭に染み付いていることでもあります。私は小規模で軽快なゲームを作るのが好きなのです。面白くて、長い時間がかからないようなものです。
Jupiter & Mars の構想を練り初めたのは、東京にいたころ、ザ・コーヴというドキュメンタリー映画を観たあとでした。その映画では、日本の太地町で行われているイルカの追い込み漁を描いています。その映画を観るのは、意識を確かめる機会となりました。イルカのような知的で社会的に多様な生き物をおびき寄せて殺す理由はありません。しかし、インスピレーションに富んだ映画でもありました。活動家や映像作家がメディアを使ってユニークで説得力があることをしている様子を見るのは励みになります。
また、SeaLegacy と協力して、そのメッセージを新しいオーディエンスに届けようとするなかで、その活動内容と活動方法に触発されました。物事が悪化しているからと、考えを改めるように勧めたり人を怒鳴りつけたりするのではなく、SeaLegacy はただ美しい写真、より正確に言えば心から離れない写真を使って、対話を促進しようとしています。
Jupiter & Mars でも似たようなことをしたいと考えています。ロンドン、ギリシャ、ニューヨークなど、見慣れた環境を目にすることになりますが、どれも完全に海中に沈んでいるという見慣れない状況です。それを見たプレイヤーが、このようなことが実際に起こり得るのだろうかと思って Wikipedia で何か調べてくれれば、私たちは変化をもたらすことができたということになります。情報を手にしていて、教育を受けていて、意欲のある人は何よりも強力です。私が自分の関心事をきっかけに会社を作り、環境についてのビデオ ゲームを作成できるのだとしたら、PlayStation の所有者 9,000 万人には何ができるかと考えてもみてください。
インスピレーションを与えてくれた団体はほかにもあります。ザ・コーヴと Racing Extinction という映画を制作した、Oceanic Preservation Society です。Racing Extinction は環境に関するマルチメディアの取り組みです。テクノロジーに習熟した人と環境に関心を持つ活動家が志を一つにして協力しています。絶滅しつつある動物の種に関する視覚的なイメージと統計をエンパイア ステート ビルディング、国連、バチカン宮殿のような場所に投影したところでは、畏敬の念を抱いて涙が出そうになりました。本当にすばらしい作品です。Tigertron でもそのようなことを成し遂げたいと考えています。

PlayStation 4 および PSVR 向けにリリースされる Jupiter & Mars について、初めて知ったという方向けに紹介していただけますか?
Mielke 氏:人類が地球から姿を消したあとも、その遺産である機械は稼働し続け、海洋をさまざまな形で汚染し、地球を脅かしています。海洋にとって壊滅的な打撃となるものの 1 つが騒音公害です。海洋生物にとっては有害で、クジラが世界中の海岸に流れ着く 1 つの要因であることがわかっています。The Elders として知られるクジラの古代種が、音響ハラスメント装置 (AHD) を停止させるために、機敏な Jupiter と Mars の助けを仰ぎました。AHD は科学者によって設計されたものであり、その目的は、シャチのような海洋生物を普段餌場にしているところから遠ざけ、安全に作業を行うことです。もともとは悪意がなかったこのような場合でさえ、テクノロジーは有害になり得ます。
このゲームには環境問題を扱った課題がほかにも登場します。たとえば、カニやマンタなどの生物を、人間が作った障害物から助け出すことができます。しかし、ゲームの中心となっているのは、AHD を無効化することです。海洋生物が礁の中心に戻れるようにして、海が再び栄えることを目指します。
また、Jupiter と Mars の関係を深めていくことにもなります。私たちが作るゲームは、物語によって牽引されるエクスペリエンスです。キャラクターたちと、そのキャラクターたちが迎えた脅威について、長い間覚えていてもらえるようにしたいと考えています。先日、5 歳の息子がゲームのイベントを見て涙ぐんでいました。5 歳というのはちょっと小さすぎますが、私が好きなゲームのことを長年覚えているように、このゲームが人々の心に響くものになることを願っています。

あなたの経歴を見ると、ルミネスや Child of Eden などのゲームの制作に携わっていたことがわかります。それらのゲームが Jupiter & Mars に影響を与えているようですね。このゲームの魅力的なビジュアルを作り出すうえで、過去の経験はどう役立ちましたか?
Mielke 氏:ゲームの開発に移ろうとしていたとき、幸運にも 2 つのオファーをいただくことができました。1 つはヴァルハラゲームスタジオ (元 Team NINJA の人たち)、もう 1 つは、セガラリーチャンピオンシップ、Rez、スペースチャンネル5 などを開発した人たちが在籍していた Q Entertainment でした。ヴァルハラの板垣伴信さんのお誘いをお断りするのはとても難しいことでした。NINJA GAIDEN も好きでしたが、Rez のようなゲームを開発するほうにより関心があったのです。
Q Entertainment では、水口哲也さんの直接の指揮のもとで時間を過ごすことができ、それが私の関心を形作るうえで大きな役割を果たしたと思いますが、正直に言うと、一連のゲームの美術的な面は私の DNA にあるものです。電子音楽、ベクター グラフィックス、蛍光色、これらは私が関わったどの作品にも見られるものです。水口さんは「シナスタジア エンジン」と呼んでいますが、要するにプレイヤーへのフィードバックを強化するということです。プレイヤーがゲーム内でアクションするたびに、視覚、聴覚、触覚に訴えるレスポンスが得られるべきです。これは完全に理に適ったことだと思います。日本中にあるパチンコ店ではその仕組みが使われています。ギャンブルの要素はさておき、その仕組みがプレイヤーを満足させることにつながっているのです。
ビデオ ゲームを開発すると、ミュージシャンやアーティストなど、インスピレーションを与えてくれる人たちと協力できます。それを自分の望む物語を伝える能力と組み合わせると、私のデザインのバックグラウンドが役に立ちます。物事を組み合わせて、ユニークで、できれば説得力のあるものにするのです。

標準モードに加えて PlayStation VR でもプレイできるようにするにあたって、ベースとなるゲームを VR のエクスペリエンスに変えるのはどのくらい難しいことでしたか? プロセスの効率化に Unreal Engine 4 が役立ったところはありましたか?
Harold Absalom 氏 (プログラマー):Unreal Engine は、VR で動作させるための面倒な処理の多くをやってくれました。不要なものを取り除いて VR でないモードでレンダリングするのも簡単でした。
Tim Ninnis 氏 (デザイナー):最大の課題の 1 つは、両方のフォーマットで動作するようにカメラをセットアップすることでした。VR では、アクションをフレームに収めるためにカメラの向きを変えることはできません。また、不要な動きは最小限に抑える必要があります。VR でないときはアクションがうまくフレームに収まり、VR モードではピッチが 0 になるようにカメラをセットアップしました。ピッチを 0 にすると、水平線があるべき場所にありながら、プレイヤーがアクションが起きている方向を見上げたり見下ろしたりできます。カメラのパンや回転はユーザーの気分を悪くさせる可能性があるので、使用を控えました。ゲーム内のシーケンサーによって、カメラ ワークについてイテレーションをすばやく行い、VR を快適にして VR でないときにはショットをうまくフレーミングできるようにする、解決策を探ることができました。
ICO や人喰いの大鷲トリコのようなゲームから一部インスピレーションを得たとのことですが、Jupiter & Mars にどう影響しているのかと、Unreal Engine を使って取り入れることができたほかのユニークな仕組みについて教えていただけますか?
Mielke 氏:ICO と人喰いの大鷲トリコでは、プレイヤーは事実上 2 つのキャラクターを操作します。主に操作するのはその一方ですが、どちらのゲームでもその大半を通じて道連れがいて、その道連れは案内のためにある程度プレイヤーに頼っています。ICO の場合、パートナーであるヨルダはか弱い存在です。手を離したり、影のような怪物に連れ去られそうになったりすると、そのたびにヨルダの肉体的な弱さを感じることができます。人喰いの大鷲トリコでは、ゲームを進めていくためにトリコに大きく依存することになります。トリコには、プレイヤーが操作するキャラクターにはない力があります。
Jupiter & Mars では、プレイヤーは思慮深く分析的な Jupiter を操作し、Mars が力任せのアクション ボタンとなります。VR なしでもプレイできるゲームで、PS4 Pro ではとてもきれいに見えますが、VR としてプレイすれば、新しいレベルの没入感をもたらします。VR ゲームのほとんどはひとりでのエクスペリエンスなので、特にエコーロケーションだけを頼りに暗闇のなかを進む深海のエリアでは、プレイヤーが孤独を感じないようにしたいと思いました。功利的な観点からは、Mars はその暗闇を進む道連れとして存在する、ということになりますね。
Unreal Engine のおかげで、ゲーム ジャムのようなエクスペリエンスには欠かせないクールなことがいろいろと可能になりました。まず、大規模で広く普通ではない環境を小さなチームで作成できる必要がありました。馴染みのある都市を (ある程度の詩的許容もありつつ) 複製して、アーティストからなる小規模なチームで管理できるようにする、ということがゲームの開発上重要でした。Unreal Engine を使うと、3D アーティストとゲーム デザイナーの両者が協力してすばやく実装でき、イテレーションを通じて短期間で改良できます。Tigertron はニューヨークの会社ですが、開発チームはオーストラリアのメルボルンに拠点を置いています。ですから、反応時間を短くして世界中でフィードバックとアイデアを実装するために、スピードが不可欠でした。
もう 1 つ、ゲームの仕組みとして重要であったのはエコーロケーションです。Jupiter がエコーを放つたびに、つまりボタンを押すたびに最も暗い領域まで照らされるので、多くの計算が必要になります。おそらくこれがゲームのなかで最も「Q Entertainment っぽい」ビジュアルでしょう。エコーロケーションを使うのは、目前の環境のマップを作成していくようなものです。即座に輝くネオンのベクター ビジュアルで、そのエリアの形状をハイライトしていきます。最初はただ格好よく見えるというだけでしたが、実際にはゲームのエクスペリエンスの中心となりました。ゲームを通じてずっと目が見えないというわけではないのですが、エコーロケーションを使うと探しているものを見つけやすくなり、ゲームの一部では物事が「はっきりと」見えるようにするために不可欠な要素となっています。海中の洞窟、夜の時間、深海のゾーンでは、自分がどこへ向かっているのか知るためにエコーロケーションが必要です。
アイテムも色分けされて脅威レベルを示すようになっているので、エコーロケーションの音を送り続けることが重要です。そうしないと、トンネルの中を泳いでいるときに毒のあるイソギンチャクやクラゲの壁に取り囲まれていることに気付いたがすでに手遅れ、ということになってしまいます。Unreal Engine なしでこうしたことすべてを実現するのは、特に VR ではとても難しかったでしょう。このゲームでやりたいことを実現するには Unreal Engine がほぼ唯一の選択肢だと、早い段階で判断しました。Jupiter & Mars は、Unreal Engine のゲームと聞いて連想されるであろうものとはだいぶ違って見えるものになりました。そのことを嬉しく思っています。これは Unreal Engine の技術の多様性を示しているのではないでしょうか。

Jupiter & Mars の開発中に最も価値があった Unreal Engine 4 のツールは何ですか? また、それはなぜですか?何か気に入っているものはありますか?
Absalom 氏:最も価値があるのはブループリントでしょう。アーティストがゲームの機能について直接的に貢献できるようにしてくれました。しかし私が気に入っているのはマテリアル エディタです。とても強力で、本当にすばらしいエフェクトをとても簡単に作成できます。
Steve Anderson 氏 (プログラマー):エンジンのツールではありませんが、UDN はすばらしいです。私たちが直面した課題の多くが、別のデベロッパーによってすでに解決されていました。大量のナレッジにアクセスでき、必要に応じて質問もできるということにより、特に最終段階で制作スピードが大幅に向上しました。パーティクルとマテリアルのエディタもすばらしいものです。とても使いやすく、クリエイティブな作業を自由に行うことができます。私が気に入っているのは、そうですね、アニメーション ブループリント エディタでしょうか。とても楽しいものでした。
Ninnis 氏:フレームレートの向上について言えば、最適化ビュー モード、プロファイリング ツール、統計情報は、負荷の高いオブジェクトや領域を特定するうえでとても便利でした。負荷が高いメッシュを最適化するには LOD の自動生成が便利でした。そして、ブループリントによって、よく使われるアセットの多くにチーム メンバーがアクセスして編集できるようになりました。
JJ Garcia 氏 (アーティスト):テレインとフォリッジのツールですね。それと、すばやく開発するにはブループリントは優れていますが、それを支える C++ によるコーディングのパワーを過小評価しないでください。

Unreal Engine に関する豊富な経験に基づいて、これから Unreal Engine について初めて学ぼうとしている方に向けてアドバイスをいただけますか?
Absalom 氏:ブループリントと C++ のバランスについて学んでください。ブループリントでは非常にスピーディにイテレーションできるので、すべてをブループリントで実装しようとするのは簡単ですが、C++ が適切なツールである場合もあります。
Ninnis 氏:Unreal Engine について学ぶには時間がかかりますが、続けていれば、やがてはすべてが身に付き、すばやく効率的に作業を行えるようになるでしょう。
多数のチュートリアルに加えて、手頃な価格のコースもいくつかあります。それらも利用してください。
Anderson 氏:サンプルのプロジェクトとチュートリアルを使ってみてください。大量のサンプルがあるので、さまざまなことをどうやるのかを見ることができます。それから独自の開発を始めるといいでしょう。
Tigertron と Jupiter & Mars についての最新情報はどこで確認できますか?
Mielke 氏:Jupiter & Mars など、私たちの作品に関する最新情報をご覧になるには、Twitter、Facebook、Instagram、YouTube をご利用ください。