2016年5月12日

未来をつくる:教育と産業の融合を果たした英国のあるプロジェクトの物語

作成 Stephen Trimble

みなさん、こんにちは。Stephen Trimble と申します。私は Enniskillen にある South West Collegeでゲームデザインおよびメディアの講師をしています。講義とカリキュラム開発の他に、自分の専門でのビジネス プロジェクトに関わる機会に恵まれました。South West College は起業家精神が旺盛で、スタッフは新しく発生するビジネス上の問題に対して斬新で剛健なソリューションを開発し、ビジネスで存分に知識を発揮できるようにしています。

私が参加したチームは、各自が様々なソフトウェアと処理の専門知識を備えた、多様性に富んだ優秀なメンバーで構成されていました。最近カレッジは、Autodesk Maya、アンリアル エンジン、Nuke、ZBruch、Motion Capture の入っている PC を備えた最先端かつ創造的な技術スタジオである Image に投資しました。さらに、ここ数年の間で、カレッジの VR 技術と AR 技術が急増しました。例えば昨年は、スタッフのメンバー Paul McGovern 氏は、Oculus 経由でエンジニアがリアルタイムで CAD デザイン上で通信できる通信プラットフォームを開発しました。

カレッジのカリキュラムは多岐に渡りますが、テクノロジー学部は特に豊富です。最近、テクノロジー学部の Carriculum Manager である Stephen Moss 氏は、建築業界とのコネクションと自身の専門知識を使って、カレッジがゲーム デザインと構築 / 建築技術を融合させる共同プロジェクトを開発しました。

それは Quinn Building Products VR Experience プロジェクトです。マーケティングおよび商品のショーケース機能を高めるために、Quinn Building Products 用に用意されたプロジェクトです。このプロジェクトの成果は、3 月 8 日から 10 日までロンドンのExCeL Centre で開催される EcoBuild で展示されます。展示会で Quinn Building Products のブースに立ち寄った人達に、仮想現実体験をしてもらって、興味をそそり、インタラクションを高めようという構想でした。Q マーカーが次のステージへのシミュレーションを進めている間、見学者は建物の部屋の中を自由に歩き回ることができるのです。

開発プロセスの概要を紹介します。

概要

EcoBuild で潜在顧客に商品をアピールする新しい方法を模索していた Quinn Building Products は、Enniskillen の South West College に相談しました。そして、建物の構造の中で製品がどこでどのように使われているかを見学者が Oculus DK2 を使って見ることができる仮想現実体験に発展しました。

クリエイティブな意見を出し合った結果、見学者は家の周りを歩くことができ、シミュレーションはステージごとにアクティベートさせて前進する方向にまとまりました。ステージには、壁を構成するレイヤーをインタラクティブに開くと流れる製品に関するナラティブな情報と、製品の詳細を説明するビデオが含まれます。

コンストレイントと管理


パフォーマンス
プロジェクトの開始当初、開発およびショーケース用の PC にはハードウェア面の制限があったので、プロジェクトの全体的な美しさに制約が生じることは明らかでした。数回テストを行うと、フォリッジは残してアセットのポリゴン密度を大幅に最適化する必要であることがわかりました。使用したテクスチャのほとんどは、解像度が 512 または 1024 でした。また、アセットをひとつずつ開発すると膨大な時間がかかるため、大半はタイル処理されたテクスチャを使いました。

通信
開発全体で可能な限り無駄な時間を削るため、カレッジと Quinn Building Products 間で常に連絡がとれるようにすることが非常に重要でした。場所が離れていたので、プロジェクトの進捗確認会議は毎週は実施できませんでした。カレッジ側と Quinn Building Products 側のメンバー全員が接続できるように Basecamp というサービスを使いました。これにより、突然の対応や修正が必要な時に頻繁にフィードバックできるリモート通信とプロジェクト管理が可能になり、その週の間メッセージのやりとりがいつでも可能なので、正しいマテリアルをアセットへ割り当てたり、テクスチャのスケールについてすぐ確認することができました。

デザイン


アセット モデリング
建物のデザインに関するブレイン ストーミングが終わると、Quinn Building Products から FBXモデル内蔵の Autodesk Revit が提供されました。残念ながら、Maya のファイルをインポートすると、かなりの最適化作業が必要であることが判明しました。ファイル内の数多くのアセットは、tricount が大きく互いに複数の面が重なってしまっていました。修正するよりも、FBX ファイルを参照に使ってシーン全体を再モデルした方が早いことが分かりました。 

 

壁が交わるセクションは、オリジナルのセクション、はがれて煉瓦が露出するセクション、絶縁材を見せる最終レイヤーの 3 つのアセットに分割しました。これら 3 つのアセットはシーンに存在しますが、シミュレーション内のトリガーで可視性を制御します。

UV アンラップ
プロジェクトには、タイル処理が可能なマテリアルを多く使用してテクスチャ ファイルのサイズを小さく保つようにしました。繰り返しますが、サイズを小さくしておくとプロジェクトの全体パフォーマンスに役立ちます。この方法ですと、小さいテクスチャ ファイルで高品質の仕上がりにするために、UV シェルを 0-1 UV スペースに制限する必要がありませんでした。

交換可能なウォールの他に、窓にも使用したマテリアル ID もありました。こうすると、選択対象に適用された見えないマテリアルのみを変更して、窓のエフェクトを半分にスライスすることができます。別のメッシュとの交換ではなくこのメソッドを選んだ理由は、これらのオブジェクトがすべて、焼き付けたライティングを適用したスタティックメッシュだからです。シーンの見えないオブジェクトを交換すると、接続ポイント周辺の Lightmass 全体のクオリティに影響する場合があります。

2 つ目の UV は、ライトマップを使用するためにそれぞれのアセットに対して作成しました。建物のサイズが大きいのでさいセクションにモデルを分割して、1 つではなく複数のライトマップで建物全体をカバーするようにしました。ライトマップの解像度は、下は 256 から上は 2048 まで、アセットのサイズに合わせて設定しました。これらのマップ サイズをそのアセットで調整しておくと、制作中にライティングをビルドする時間が節約できます。

メディア フレームワーク
テレビでプレイするビデオ シーケンスにかなりの問題がありました。最初の数回のテストでフレームレートが下がりすぎて、再生がほとんど不能になりました。AnswerHub に質問を投稿すると、エピック ゲームズからすぐに回答がきて、パフォーマンスの改善方法をアドバイスしてくれました。当時フレームワークはまだ実験的だったので、ファイル形式と解像度は細かく指導されました。最終的にビデオは解像度を 720p まで下げて使用し、.wmv コーデックでレンダリングしました。

ビデオが正しくプレイできたと思ったら、今度は別の問題が発生しました。オーディオの再生です。オーディオ チャネルはホワイト ノイズで一杯だったので、16 bit .wav ファイルで別途エクスポートして、ビデオと同時にプレイしなければなりませんでした。

イベントをトリガーする
このプロジェクトの構想は、リニアのナラティブ概要もありながら、プレイヤーが指定エリアで自由にナビゲートできるようにする意図がありました。つまり、手順をきちんと設定して、イベントが所定の順番で確実にアクティベートする必要がありました。そうでなければナレーションを流す意味がないからです。Booleans ノードと Branch ノードは、前のイベントが終了し、次のイベントをトリガーしてよいか確認するために何度も使用されます。

もうひとつ制約すべき点は、見学者一人に対するシミュレーションの制限時間です。制限時間が長いと列が長くなり、体験できる人数が減ってしまいます。これを考慮し、見学者がシミュレーションの終わりに近づいたらメイン メニュー表示に戻って、次の人が開始できるように、ループ システムを組み込みました。

以下はステージの詳細です:

  • メイン メニュー表示
  • 右のトリガーを押して起動
  • 建物内を進みながらイベントを有効にする
  • 製品の使用方法を見せるために壁のセクションとインタラクトする
  • 製品の詳細を紹介するビデオを開始する
  • ビデオ シーケンスが終了し、ナレーションが終了する
  • プレイヤーがメイン メニュー表示に戻る

 

ナビゲーション
Quinn Building Products ロゴの形をした Q マークを表示して、シーン内でプレイヤーをナビゲートします。デザインは、所定位置でスピンするという、ヘルス値や弾薬パックで見慣れた、シンプルな構想にしました。このマーカーにより、見学者は次のトリガー場所を視覚的に確認できるので、推測する必要がありません。さらにこのマーカーは、周囲のシーンから目立つようにしなければなりませんでした。エミッシブグローを使用しないと、次のマーカー位置が明確にならない場合があります。グローをマテリアルに適用し、ブルーム エフェクトもシーンに追加しました。マーカーを所定位置で回転するようにシンプルなブループリントを作って設定すれば、シーン全体ですぐに使い回すことができます。 

ライティング
ライティング設定は全体的にかなりシンプルでした。指向性ライトが建物の窓を通過させながら、シャドウのコントラストを減らすためにスカイライトを使用しました。ポイントライトを建物内部のあちこちに配置して、輝度値が増加するようにしました。スポットライトは天井とフロアのライト アセットの正面に配置しました。これらのスポットライトを Post Processing Volume と一緒に使ってブルーム エフェクトを増やしました。

ハードウェアの制約のため、修正のたびにライティングを作るのでは時間がかかりすぎるので、Lightmass 設定はできるだけデフォルトに近いままにしました。

壁の置き換えテストの結果、アセット間の継ぎ目を隠すためには正しいライティングが非常に重要であることが分かりました。Preview ライティング クオリティを使って作成すると、接続するエリア部分が目立つので心配でしたが、Production ライティングのクオリティを上げることで、継ぎ目がわからなくなりました。アンリアル エンジン フォーラムでは、仕上げに必ず Production ライティングを使うようになっていますが、実際はどうなのでしょう。使わない場合との見た目を比較してみました。クオリティを変えた Production ライティングは、こんなにすっきりした仕上りになりました。

テスティング


開発中はメカニズムとゲームプレイのテストを絶えず行っていましたが、Game Design 学部の学生は定期的にプレイテストを実施し、フィードバックする機会を与えられました。狭いエリアにかなり多くのトリガーが配置されているので、イベントのアクティベーションのテストは開発の非常に重要なステージでした。そのステージを乗り切ればと、あとは小さな問題をブループリントで修正しました。

最も大きな問題はトリガーのオーバーラップでした。ブループリントでステージを作成した方法を使って、トリガー ポイントが常にライブになっていますが、オンにされているかチェックするブランチを通過する必要があります。従って、現在のステージの終了前にプレイヤーがオーバーラップすると、トリガーがすでにアクティベートされてしまっています。各ステージの最後に、プレイヤーが次のトリガーを既にオーバーラップしているかチェックする 2 つ目のアクティベーションを追加しました。True が返されると、1 秒遅れて次のステージがアクティベートします。

VR 体験を行うデスクトップ PC を 2 台ロンドンへ発送したので、最終テストですべて予定通りに動くことが確認されました。Oculus のヘッドフォンとゲームパットを各 PC に接続しました。プロジェクトの完了したビルドをハード ドライブ上にコピーしました。最初からすべて期待通りに動き、突然のセットバックはありませんでした。

リフレクション


VR スタンドにいる間、レベル デザインに関して多くのことを学びました。これはシミュレーションのプレイ中、見学者のいろいろなリアクションを見ることができたからです。以下は、体験全体から浮彫りになった重要な点です。


VR 体験
イベントに来た多くの人が Oculus を使ったことがなかったので、ナレーションによるガイドよりは初めての体験に興味を示していました。ナレーションが終わった時に、建物の横にいたり、既に室内に入ってしまったケースがありました。その場合、玄関まで戻って最初のイベントをトリガーしなければなりませんでした。プレイヤーをブロック ボリュームで最初の場所に制限するか、導入部分が完了するまでプレイヤーに対する移動を無効にした方が、うまく制御できたのではないかと思います。

ナラティブのトリガー
ナレーションにキーワードを正しく配置します。例えば、右トリガーを押すという言葉はオーディオ ファイルの最後ではなく最初に入れます。こうすることで、プレイヤーはナレーションが終わるまでずっと右のトリガーを押し続けています。

視線の誘導と構図
中には、建物の正面の窓のブロックが入口であることに気が付かないプレイヤーもいました。実際近づかないとドアが開かない仕組みになっていたからです。建物の横にあるスペースは、プレイヤーが自由に歩き回ることができます。建物の入り口があると思って、このスペースを進んでいったプレイヤーが大勢いました。

まとめ


このプロジェクトは、South West College が創造的、革新的、技術的に剛健であることを証明しています。College がゲーム業界に携わるというコミットメントの本物の証です。さらに、このプロジェクトはビジネス機能を強化し、デジタル クリエイティビティへ投資することで、産業全体にどんな利点があるのかを非常に前向きに表現しました。ゲーム デザインとは直接関係しないような、ごく普通のビジネスでさえ、このよな技術の活用により競争力を高めることができるのです。