Stonehenge VR SANDBOX でインスピレーションを形にする
2017年12月5日

Stonehenge VR SANDBOX でインスピレーションを形にする

作成 Brian Rowe

VR は、地球上の遠く離れた場所、歴史上の時代、身体的な制約で行けない世界に連れて行ってくれる力があります。しかし、体験は VR の一面にすぎず、学習の機会を与えてくれたり、個人的なつながりを作るきっかけにもなります。また、非実用的なものや不可能なことを実現する扉も開いてくれます。
 
VR を体験後すぐにその可能性を感じた Jessica Villarreal 氏と Christian Bretz 氏は、VoyagerVR を共同で設立しました。まず、会社の基礎作りをしました。映画製作者である彼らは、Stonehenge VR を開発するまで、ソフトウェア開発の経験が全くありませんでした。
 
当初はインスピレーションと DIY 精神だけに支えられて開発された Stonehenge VR は、パシフィック サイエンス センターで展示されることになり、現在は Prairiefire の博物館で公開されています。圧倒的に肯定的意見で受け入れられた結果、VoyagerVR は最近、スタンドアローンのタイトル、Stonehenge VR SANDBOX をリリースしました。これは Stonehenge VR に、独自の遺跡を構築、ペイント、共有できる機能を加えたものです。
 

VoyagerVR とスタジオの歴史についてお聞かせください。
 
Christian Bretz - 2013 年の E3 に参加していたときのことです。Oculus DK1 で Eve Valkyrie の初期のビルドのデモを見る機会がありました。宇宙船のコックピットから見下ろし、自分の体を視認したとき人生が変わりました。
 
Jessica Villarreal - 当時は、VR が出始めたかなり早い段階であったため、最前線で革新的なものを作りたいというビジョンを分かち合ったり、アイデアを受け入れてくれる相手を見つけられませんでした。自分たちのキャリアを変えたいと思いましたが、デベロッパーではなかったし、知識も持ち合わせていませんでした。
 
Christian - 最初に思いついたのは、過去に自分たちのプロジェクトに融資してくれた会社にアプローチすることでしたが、うまくいきませんでした。YouTube が一般的になる前の 2004 年に、"how to be: emo." というクチコミで広まり話題になった動画を初めて作り、スタジオ幹部に動画のビューとは何かについてというところから説明しなければなりませんでした。VR でも同じように説明が必要でした。
 
当時、成功を収める絶好のチャンスがわずかながらあることがわかっていました。幹部の理解が追いつくのを待つかわりに、自分のやるべきことをやりました。Facebook のアカウントを削除して、部屋に閉じこもり、アンリアル エンジンのありとあらゆるチュートリアルに目を通したのです。3 か月後には、Stonehenge VR の最初のビルドができました。
 
Jessica - 当時、暖かいフィードバックが得られるとは期待していませんでしたが、死期が近い父親を持つ家族から、父親がずっと行きたがっていた場所を見せることができたと連絡がありました。また、ある女性は、実生活でストーンヘンジ近郊で育ち、遠足で度々訪れたことがあるけど、VR では違った見方ができたと言っていました。こうした物語が、自分たちのアイデアを推し進める動機付けとなり、刺激となったのです。
 
Christian - プロセス全体を通して、うまく機能させるために何でもやりました。パシフィック サイエンス センターで初めて VR を展示したとき、コンピュータと Vive を車に詰め込んで、自分でロスからシアトルまで運転しました。VoyagerVR の設立は、目に見えない橋があると信じて一歩を踏み出すインディー ジョーンズの一場面のようだったとよく話しています。
 
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テーマにストーンヘンジを選んだ理由は?
 
Christian - 子供の頃、父が歴史の本にあったストーンヘンジの写真を見せてくれて「お前が勉強しなければいけない理由は、これを見て『単なる岩が野原に並んでいるだけでしょ。だから何なの』という人間にならないようにするためだよ」と話したのをはっきりと覚えています。これをいつも心に刻んでいます。
 
デザインを考えて実現できるかの問題もありました。自分でプロジェクトを立ち上げたいと思っていましたが、予算ゼロで自分でできる範囲に収める必要があることはわかっていました。ローマのコロッセオのようなものを選んでいたら、まともなものを作れなかったと思います。
 
Jessica - VR でストーンヘンジを見るといくつか良いことがあります。岩のサイズ感は、VR で上手く表現できる部分です。高さ 9 メートルの岩がどんなものか VR で体験できますが、これは動画では伝わらないものです。実際にストーンヘンジを訪れた人々の意見も聞きましたが、VR の方が良かったとのことでした。現地では他の旅行者がいるため雰囲気が台無しになり、岩にも近寄れなかったと言っていました。
 
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VR でストーンヘンジを再現するためにどんなリサーチをしましたか?
 
Christian - 実寸、航空写真、地上で撮った 360 度の写真、ドキュメンタリーのフッテージなどをベースに再現しました。あらゆるリサーチをしてスクリプトを自分で書きましたが、当初考えていたよりも少し複雑になりました。
 
Jessica - この遺跡について実際にわかっていることはほとんどありません。先史時代のものであり、確実に真実だと言えることを見つけるのは非常に難しいからです。結局、「...と思われる」や「証拠から推測すると」みたいな表現になってしまいます。
 
Christian - シアトルのパシフィック サイエンス センターでこの作品を初めて公開したときには緊張しました。自分ですべてリサーチして、寝室で制作したものを、米国有数の博物館に設置するのですから。マンチェスター大学の考古学者らにスクリプトをレビューしてもらいましたが、スクリプトを認めてもらっただけでなく、楽しんでくれたので安心しました。

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SANDBOX のアイデアが生まれたきっかけは? モード内では何ができますか?
 
Christian - ストーンヘンジ ツアーを終えると、クレジット シーケンスが表示されます。エンターテイメント性を少し加えるために、クレジットが表示されている間にプレイするストーンヘンジのミニチュア版のテーブルを含めました。全部ひっくり返してやり直す人もいれば、岩を並べ替える人もいます。自分で遺跡を作れるモードの追加を提案する人も多数いました。
 
Jessica - 自分で遺跡を構築したり、破壊するというコンセプトは自然発生的に生まれました。たまたま最近 Twitch のストリーマーがこのゲームをプレイするのを見ていたんですが、ミニチュア版にたどりついたときに全く同じことを提案していて面白いと思いました。
 
Christian - 最初は、岩をスポーンし配置する機能を追加しましたが、次にオブジェクトの選択肢を用意し、構築に全時間を費やす場合の保存システムも必要になりました。さらに、大きな建造物を作る場合は、キャラクターのサイズを変更する必要があります。数か月にわたりコンセプトは雪だるま式に大きくなって現在に至ります。
 
SANDBOX モードで作ったものは、できるだけ多くの人に共有してもらいたいと考えました。例えば、NVIDIA の Ansel プラグインを使って、自分が作った物を撮影したステレオスコピックな 360 度の写真をエクスポートできる新機能を追加しました。こうした写真を Facebook で公開して、モバイル VR デバイスで見ることができます。これはアンリアル エンジンの素晴らしいツールのほんの一例にすぎません。

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ストーンヘンジのツアー部分と SANDBOX モードで相容れない点が生じると考えたことはありますか?
 
Christian - この件について考えましたが、不安を減らしてくれることがいくつかありました。まず、VR で生まれる個人的つながりです。私たちの目標は、ストーンヘンジに対する理解を深めてもらい、理論上、独自に遺跡を構築し、デザインできる機能を与えて、人と人とのつながりを強めることでした。
 
2 つめは、まだ VR のプレイ経験が無い人が大勢いたことです。VR で可能な多様な体験をしてもらいたいと考えました。例えば、建物と同じくらいの高さにしたり、ボタンを一回押すだけで太陽の設定を変更して、一年の任意の時期をシミュレーションできる機能があります。これは初めてツアーをデザインしたときにはなかった素晴らしい感覚です。
 
Jessica - VR の教育体験を事実をひたすら暗記するようなものにしたくありませんでした。テーマに何かを感じて、つながりを持ってほしいのです。SANDBOX モードは、このデザイン哲学の延長線上にあります。
 
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このプロジェクトに UE4 を採用した理由は?
 
Christian - 色々エンジンを比べてみて、アンリアルの UI はとても使いやすく、よく考えられていると思いました。他の 3D デザイン ツールを開くことがありますが、 1 万個のボタンがグレイのインターフェースで並んでいたりして、操作に慣れていないと圧倒されます。UE4 のすっきりとしたインターフェースはとても使いやすいものでありながら、その可能性は無限です。
 
アンリアル エンジンの処理速度と安定性、リアルタイム レンダリングのパフォーマンスにはいつも驚かされます。初のトレーラーをレンダリングしているときに、あっと驚く瞬間がやってきました。何十万もの草の葉がある 20 秒のショットを、4 年前のコンピュータ上で、60fps で 4k でレンダリングしました。以前は、このプロセスに数日かかっていましたが、現在は数分でセットアップできます。
 
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UE4 のお気に入りのツールや機能について、それが開発にどのように役立ったかについてもお聞かせください。
 
Christian - ブループリントが大のお気に入りです。これまでコンピュータをかなり使用してきましたが、プログラミングを学んだことはありませんでした。私のバックグラウンドは、監督、VFX、執筆などです。使いやすく安定した方法で自分でソフトウェアを開発できるようになったのは、すごく素晴らしいことです。
 
アンリアル エンジンのマーケットプレイス には膨大なリソースがあり、我々のような小規模チームに全く新しい世界への扉を開いてくれました。ゲーム開発コミュニティでアセットを作ってくれる知り合いはいませんが、マーケットプレイスにはアセットが沢山あります。Stonehenge VR SANDBOX では、Rama Save System、Ultra Dynamic Sky、 Ultimate Rocks などを使って作品を作り始めることができました。
 
オンライン コミュニティについても言及しておきます。r/unrealengine subreddit、アンリアル フォーラム、そしてチュートリアルを投稿してくれた Tesla Dev や Mitch の VR LAB をはじめとする YouTuber の皆様ありがとうございました。アンリアル エンジンを使い始めたばかりで自分がやっていることがよくわからなかった頃、必要な答えはクリックすれば見つかりました。いつか、同じように自分たちも他の方々を助けられたらと思います。
 
Jessica - ここ 2 年間というもの、アンリアル エンジンの素晴らしい機能によって Christian と私の人生は一変しました。私たちはソフトウェア開発の経験なしに VR の会社を立ち上げたいと思いつくところから始めて、現在、博物館に展示されるレベルの VR ソフトウェアを作ったのです。その後、HTC の Viveport でタイトルをローンチし、いくつかの有名ブログで特集を組んでもらったり、VR ソフトウェア開発についてデザイン専攻の学生向けのレクチャーに招かれたりしたこともあります。事実上、予算がない我々がこれまで成し遂げてきたことは、UE4 の存在なくしてはあり得ませんでした。
 
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教育や探検を扱う VR についてどんな将来を描いていますか?
 
Jessica - VR はあらゆる年代の人々に、普通では手に届かないようなものを見て、学習し、つながりを持つ機会を与えてくれるものになると思います。金銭面、時間、健康などの様々な制約によって、旅行や探検に行けない人々がいますが、VR がこのギャップを埋めようとしています。VR を体験したときの感情的反応は、本を読んだ時や画面を観たときとはかなり違うもので、新しい情報を吸収するうえで非常に効果的です。 
 
宇宙の彼方、人体の内部、歴史上の戦争などは普通では探索できない場所ですが、VR を使えば不可能が可能になります。増々多くの人々が VR で学習し、人々の間で共感を生んで、世界に何らかの変化をもたらすような未来が来ると思います。
 
Christian - 今後、5 年から 10 年くらいの間に、VR は学生の興味を刺激するものになると思います。仮想で旅をして写真を撮り、実際にクラスメートと集まって写真を見て現実の思い出を作り、つながりを作ることができます。VoyagerVR のソフトウェアに対して私が抱く究極の夢は、数々のテーマの体験において中心的存在になることです。

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ゲームをプレイした経験から、何を得てほしいとお考えですか?
 
Jessica - プレイヤーがストーンヘンジの学説について学び、理解し、我々の作った世界に没入するのを見るとやりがいを感じます。どんなプロジェクトでも「あっと驚かせる」ことができれば、自分たちのやったことに誇りを感じますし、皆さんも同じように驚いてくれたら嬉しく思います。
 
Christian - Stonehenge VR のような学習体験がストーンヘンジに対する知識を深める以外に、エンターテイメントの主流になってくれればと考えています。PC や CD ROM の発明など、他の技術が台頭したときにも、いくつかの素晴らしい試みが成功しました。しかし、VR 技術はこれまでのものとは大きく異なります。その技術は人の心をひきつけ、人々は体験の共有を楽しめるからです。