2019年8月8日
UE4 を活用してシリーズ最高傑作となったエースコンバット7 スカイズ・アンノウン
バンダイナムコスタジオはどうやってこのシリーズを再度成功へと導いたのか、河野一聡氏にお話を伺いました。エースコンバットのプロデューサーを務める河野氏は、長時間にわたってインタビューに答えてくださいました。ジェット機を本物らしく感じさせる方法、楽しさとリアルさを両立させるゲームプレイのデザイン方法、ハードコアなファンによるシリーズへの期待に応えつつ新しいイノベーションを取り入れるバランスなどについて話を伺っています。
さらに、河野氏は、高い評価を受けているエースコンバット7 の VR モードの実装と、バンダイナムコスタジオが戦闘フライト ゲーム史上で最高と言えるであろうグラフィックスを実現した方法についても説明してくださいました。 本日はお時間をいただきありがとうございます。また、エースコンバット7 スカイズ・アンノウンがリリースされましたことをお祝い申し上げます。まず、ジェット機とフライトのメカニクスが本物のように感じられるようにするための研究についてお話しいただけますか?
プロデューサー、河野一聡氏:エースコンバット7 スカイズ・アンノウンについてお話しできることを嬉しく思います。航空機のビジュアルについては、エルロン、フラップ、ラダーが、プレイヤーによる操作と同期して、本物のように動くようにしました。そのために、広範囲にわたる調査を行いました。
ゲームに登場する航空機の仕様が適切なものになるように、大量のデータを集めて調査し、それぞれの機体のユニークな特性がゲームで適切に実装されるようにしました。
フライトのメカニクスを本物らしく感じさせることについて言うと、リアリズムを極限まで追求したら、私たちが目指していた楽しいフライトの感覚と相反することになってしまったでしょう。そこで、ゲームプレイが楽しいと感じられるようにすることを優先しました。
しかし、リアリズムも実現したかったので、雲の中や悪天候の中に飛び込んでいくことに関連するリスクについて、実際のパイロットの方たちにお話を伺い、ゲームに反映しました。
楽しさとリアルさのバランスが取れたゲームプレイを作り出すためのアプローチについて、教えていただけますか?
河野氏:ミッションを作成するとき、最初のアプローチとして、特定のミッションでプレイヤーが経験するであろう感情と、それがどの程度楽しいものかについて考えました。
それから、エクスペリエンスとしてプレイヤーに提供したいものとなるように、その想定される感情を呼び起こすミッションを設計しました。軍事戦略、僚機と敵機の動き、ゲーム内でそのミッションが持つ意味について、この段階で決定しました。
根本的な面としては、各任務の目的とテーマに合った兵器を導入していくようにミッションを組み立てました。
シチュエーションのなかには、戦術として実行が困難であったり現実的でなかったりするものもありますが、リアルで信憑性があるものとして見せるように努めました。

エースコンバット シリーズには、ファンが愛し、シリーズに期待する、中心となる個性があります。その個性を保ちながら新機能を導入するために、どのようにバランスを取ったのですか?
河野氏:シリーズの個性と言える中心的な要素には、360 度を自由に飛び回れること、戦略的に戦って敵を倒し、目標地点を攻め落とすことなどがあります。ファンはこうした要素が何らかの形で取り入れられることを期待しています。
エースコンバット7 では、動的な雲や気流などの新要素を導入して、戦略的な可能性を広げました。戦略的思考を重んじるプレイヤーはこれらの要素を利用して優位に立つことができますが、純粋な戦闘スキルに頼るプレイヤーはこれらの要素を無視することもできます。
このように、新しい要素を取り入れながらも、世界中のファンに愛されている、エースコンバット シリーズの核となる要素を崩さないように気を付けています。
エースコンバット7 は、グラフィックスが美しく、ビデオ ゲーム史上最も強い印象を与えるであろうボリューメトリックな雲が描かれ、機体のモデルや都市の景観もディテールに富んでいます。このように洗練されたビジュアルをどうやって作り出したのですか?
河野氏:Unreal Engine 4 の柔軟なマテリアル システムと、Simul Inc. が開発した天候レンダリング ソフトウェア trueSKY は、私たちが望んだグラフィックスの忠実度を達成するうえで不可欠でした。忠実度の高いグラフィックスは、エースコンバットの架空の世界、「ストレンジ リアル」に重みを与えています。
アート チームは、ゲームに登場する要素を作成するために、現実の航空機や都市について幅広い調査を行いました。また、説得力のあるリアルな近未来を描くために、テクノロジーと戦争がこれからどう発展するかを予測しました。この点で、物理ベースのマテリアル (PBR) は非常に役立ちました。これによって、屋内外のライティングの条件下で光沢がなかったりメタリックであったりする航空機の機体などの要素を視覚的にリアルに再現できました。また、これらの要素はどれも、さまざまな形状、サイズ、色、雲の種類から影響を受けます。たとえば、積乱雲、あるいは雲海の下を飛んでいると、プレイヤーはその影響に気が付くでしょう。ボリューメトリックな雲を 3D で作成できるということも、CG の空における革新です。
グラフィックスの要素が増えると最適化が困難になるため、これは課題の 1 つとなりました。ゲームのビジョンを実現しつつ安定したフレーム レートを得るために、解決策を見つけ出す必要がありました。最終的にはこの目標をどうにか達成できましたが、手間がかかりました。エンジニアの能力と経験のおかげで、滑らかに動作し、ビジュアルの美しいゲームができあがりました。

エースコンバット7 は、ジェット機の操縦に影響を与える、雨、風、稲妻などのリアルな気象のエフェクトが高く評価されています。このイマーシブな気象システムをどう設計し、導入したかについて教えていただけますか?
河野氏:できるだけリアルな形で気象がゲームプレイに影響するようにするために、航空自衛隊の現役パイロットと、現役の航空管制官にインタビューしました。最もリアルで満足感のあるゲームプレイをプレイヤーに提供するために、制作したコンセプト映像を観てもらって意見を伺いました。
飛行について、戦闘機のパイロットにインタビューしていてよく話題にのぼった点の 1 つは、雲の中に飛び込むのは極めて危険である、ということでした。航空機のパフォーマンスが大幅に低下するだけでなく、視界が悪くなり、何も見えない状態で飛行することもありえます。ゲームの設計の面からは、雲は敵から逃れる手段の 1 つとなりました。
雨、稲妻、気流などの自然現象は、航空機だけでなくマテリアルにも影響するようにしました。さらに、コックピットの振動や雲に飛び込むときの各種の音響効果など、リアルな要素を取り入れて、細部をユニークなものにしました。こうした要素は世界中のファンから好評を博しています。
すばらしいビジュアルだけでなく、圧倒的なオーケストラによる音楽も評価されていますね。シリーズで作曲を努める小林啓樹氏と協力してゲームのサウンドトラックを作成した経緯についてお話しいただけますか?
河野氏:小林さんとは、ゲームの全ミッションについてと、音楽の制作をどう進めるべきかについて、詳しく話し合いました。各シーンのテーマとビジュアルにマッチする音楽を作ることがとても重要でした。また、今回は新しいことにも挑戦しました。ゲームプレイのエクスペリエンスを改善し、オーディエンスの心の琴線に触れるために、楽曲をループするのではなく、もっとコントロールするアプローチを取りました。さまざまな曲が、画面上のイベントに合わせて再生されます。これを実現するために、レコーディングした曲を分解して、プレイヤーの進行に応じて再調整するようにしました。小林さんは非常に優れた才能の持ち主です。新しいテクノロジーを使ってそのスキルを増幅した結果、非常にドラマチックな形で音楽を表現できました。

PlayStation 4 版には VR 専用ミッションが 3 つありますね。詳細に描かれたコックピット内に実際に座って、ジェット機を本当に操縦しているような気分になれます。どのように設計して、エースコンバットに VR を取り入れたのですか?
河野氏:3 つの要素を念頭に置いて設計しました。1 つ目は、プレイヤーには、常にパイロットの一人称視点からゲームを体験してもらいたいと考えました。2 つ目は、技術的な点です。ゲームが 60 fps で動作し、一貫して滑らかに動くようにしました。それに加えて、雲の中や環境内でライティングのエフェクトを適用することで、本当に戦闘機のコックピットの内部にいて、雲の上を飛んでいるようにプレイヤーに感じさせることができました。コックピットを極限まで細かく作成しておいたこともその役に立ちました。3 つ目には、エースコンバットの VR バージョンでプレイヤーが経験したいであろうと思われることにフィットするシチュエーションを考え、それを含めるようにしました。ただファンの期待に応えたかったのではありません。期待を超えたかったのです。
ゲーマーは今後も VR のエースコンバットを期待していいでしょうか?
河野氏:エースコンバット7 の VR モードについては、VR に関する目標を達成できました。今後については、技術的な発展とプレイヤーからの強い需要の両方が、将来の VR プロジェクトの可能性を決める重要な要因になると思います。私に言えるのは、ゲーム デベロッパーとしては、私たちは VR テクノロジーの未来にとても期待しているということです。

開発における最大の課題は何でしたか? チームでその課題をどうやって克服しましたか?
河野氏:最初の課題は、エースコンバットのメイン シリーズとして 12 年ぶりの作品を提供する、ということでした。世界中のファンから十分なサポートを得られるかわかりませんでしたし、完成した製品では満足度の高いエクスペリエンスを提供する必要があることはわかっていました。さらに、アーキテクチャが異なる新しいプラットフォーム向けに開発を行う必要がありましたし、前回エースコンバットのメイン シリーズをリリースしたときとは市場も大きく異なるものになっています。VR 向けにゲームを開発するのも、チームにとって初めてのことで、課題となりました。課題は毎回異なりますが、それに対峙する方法はだいたい同じです。十分な経験のあるチームを作り、市場について学び、いくつかブレークスルーを生み出して、結果に満足できるまで、プロジェクトを改良していくのです。
エースコンバット7 は、シリーズで初めて UE4 を使用したゲームでしたが、Unreal Engine への移行についてはいかがでしたか?
河野氏:過去のエースコンバットで使用していたフライト モデルは、航空機の挙動を定めるものですが、Unreal Engine に簡単にインポートできました。それで、ゲームプレイを作成する基盤が手に入り、シリーズを象徴する感覚も得られました。ただし、そこから長い時間をかけて、「空の革新」、パフォーマンスに優れた空間、極めて広大なマップ、チューニングされた大量の NPC がいる状況での自由な飛行を実現していくことになりました。最終的な成果をご覧いただければおわかりいただけるかと思いますが、Unreal Engine 4 への移行は、間違いなくシリーズにとって適切な判断であったと言えます。

御社のなかでは、UE4 のツールや機能で、特にお気に入りのものはありますか?
河野氏:私からは、正確で完全な回答をするのは難しいのですが、当社のシニア エンジニアによると、『Play In Editor (PIE) の機能は、開発中の制作プロセスを効率化するためにとても役に立ちました』。ほかにも、『プロファイラはタスクの最適化には不可欠なシステムです。また、参照ビューアがなかったら途方に暮れてしまったであろう場面がたくさんありました』とも述べていました。
ブループリントを何らかの形で使用しましたか?
河野氏:エースコンバット7 では、レベルのデザインにブループリントを使用しました。ブループリントは、デザインの作業を促進するうえでとても重要な役割を果たしました。プレイ テストの際には、開発スタッフが多くの改善提案を行うことができました。ブループリントを使うと、アイデアを実装するためにレベル デザインを再度整理することができ、それが調整の段階でとても便利でした。私たちのレベル デザイナーがとても革新的で独創的であることも付け加えておく必要があります。チームに恵まれたおかげでブループリントを活用できたと思います。

開発中、UE4 のソース コードにアクセスできるということは役に立ちましたか?
河野氏:エンジニアたちは、ソース コードを直接読むことができ、そのおかげで、ゲーム エンジンについて深く理解できました。どのテクニカル ドキュメントよりもずっと貴重なものでした。
結果的に、ゲームを効果的に開発できるようになり、バグや問題の修正を効率的に行えるようになりました。
あらためて、本日はお時間をいただきありがとうございました。エースコンバット7 について詳しく知るにはどこを見ればいいですか?
河野氏:公式 Web サイトにたくさんの情報を掲載しています。