2008年11月1日

Virtual Heroes 社、リアルな EMS トレーニングに Unreal Engine 3 を採用

作成 John Gaudiosi

ノースカロライナ州ローリー発 - Virtual Heroes 社は、シリアス ゲームの大手開発会社です。ジョージ ワシントン大学国土安全保障ポリシー研究所が EMS (Emergency Medical Services) トレーニングのオンライン化を決定した際、National EMS Preparedness Initiative の副所長 Greg Lord 氏は、真っ先に Jerry Heneghan 氏のスタジオに相談を持ちかけました。これは Lord 氏が、バーチャル トレーニング ゲーム「Zero Hour: America’s Medic」には、オンライン ゲーム「Department of Defense’s America’s Army」を手掛けた Virtual Heroes の創設者 Heneghan 氏のチームが最適だと判断したからです。そこで Heneghan 氏が選んだベストなツールは、Epic Games の Unreal Engine 3 でした。

Heneghan 氏は次のように説明します。「Unreal Engine 3 の高度な機能をフル活用した Zero Hour は、引き込まれるような独特の緊張感があるバーチャル ワールドを舞台とした、リアルな医療トレーニングに仕上がっています。このゲームでは、体積型環境エフェクト、その場で処理できるリアルタイムなシェーダー、事前演算されたシャドウ マスク、指向性光源マップ、パーティクル物理処理、環境エフェクトなどの UE3 の機能が駆使されています」

Zero Hour

このゲーム (http://www.nemspi.org からダウンロード可能) では、アメリカ合衆国国土安全保障省が作成した 15 の国土計画シナリオのうちの 4 つを含むトレーニングを実施します。このバーチャルな世界で行動する方法を説明する簡単なチュートリアル レベル (Lord 氏が、年配の専門家はゲームをプレイした経験があまりないと判断したために導入) の後は災害シナリオが開始しますが、ゲームを進めていくと、そのシチュエーションごとに事態が悪化していきます。

基本的にこのゲームでは、スタジアムが爆発してその負傷者と会話するなど、現実に近い環境で 3D パズルを解いていく内容となっています。Heneghan 氏は、UE3 を採用したことによって開発チームは、ゲームの主要シナリオをクリアするための重要な症状となる患者の眼の中の血液など、詳細に至るまでディテールを表現できた、と語ります。

一方 Lord 氏は、「大規模災害はあまり発生しないので、それはそれでうれしいことですが、私達が直面している課題のひとつは、そのような場合の医療対策をトレーニングすることができない、というものです。大都市に勤務する EMT の救急救命士でさえも、50 ~ 100 名もの患者が出るような事態に立ち会うのは、おそらくそのキャリアのうち 1 ~ 2 回あるかないかです。このような大災害に対する準備は、トレーニングなしではさらに困難になります」と述べます。

Zero Hour

Zero Hour では、地震やテロリストによる攻撃などでの多数の負傷者に対するトリアージの判断や医療行為運用環境の維持など、緊急事態において発生する特有の問題への対応方法をトレーニングできます。余震の発生時などのように、危険な環境で多数の患者を診断するということは、ベテラン EMS スタッフでも困難な課題です。

「ハリケーン カトリーナを思い出してください。問題になったのは、物流、指令体系、管理、コミュニケーション、そして物資を調達して現地に届けるプロセスでした。大規模災害では、これらすべてが本質的な運用上の課題となりますが、これは難しい課題であると同時に、これを毎日はもとより、毎月であっても、トレーニングすることはなかなかできません。多くの施設では、年に 1 回ほどトレーニングを実施していますが、災害が発生すれば、それは EMT のキャリアでたった一度の大災害になるかもしれません」 と Lord 氏は指摘します。

また Lord 氏は、Virtual Heroes で Unreal Engine 3 の技術を採用したことによって、ディテールに至るまで豊かに表現された環境を、高いコスト効果で実現することができた、と言います。このゲームは、緊急災害対策に関する実際の試験の一環として EMS スタッフが使用するように設計されていますが、一般のユーザーも、場所とコンピューターの種類を問わずプレイすることができます。このゲームが一般社会や EMS 以外のプレイヤーに与える影響について、Lord 氏はまだ予測できていませんが、America’s Army に関しては、ゲームで学んだ医療行為が実際の救命に役立ったという実例 (ノースカロライナ州ローリー) もあります。

Zero Hour

「America’s Army をプレイしたユーザーが、ゲーム内の役割を通じて学んだ医療行為を行って、自動車事故の負傷者を助けることができました」と Lord 氏は語ります。「Zero Hour についても、このようなすばらしい事例が現実になるかもしれません。このゲームを通じてプレイヤーは、EMS の日常的な業務と災害時の業務について理解を深めることができます。加えて、人命救助の正しい方法を学ぶことができるのです。これは、公共利益や地域社会にとって大きなメリットになるでしょう」

Zero Hour では、事故対応における指定プロセスの実行が評価されます。プレイヤーは発生した事故において、医療指令、トリアージ、治療の主要な任務を任されます。プレイ終了後には、その成果に応じて適切に行為を行ったかどうかが評価され、ゲーム終了後には、テストも用意されており、Lord 氏と彼のチームは、プレイ終了後にそのスタッフの技能向上を追跡管理します。

Lord 氏は、「当社が求めているものは、これが価値のある物だということを政府に認識してもらい、この教育プロセスに関する当社の仮説が正しいということを実証することです。そうすれば、その予算も拡大するでしょう。当社ではこれを、一部のハイエンド ゲームのように、リアルタイムなインターネット ベースのゲームへと発展させることができると、強く信じています。これが実現すれば、動的に変更可能なシナリオでのプロセスに、課題を追加できるようになります。繰り返すだけの内容では、この目標を達成することはできません」と語ります。

Heneghan 氏と Lord 氏が Unreal Engine 3 を採用した理由は、このエンジンのオンライン機能を活用するためです。Zero Hour の目的は、現在進行中のシリアス ゲーム イニシアチブにおける第一段階となることです。「当社が制作した各環境は、今後のバージョンでマルチプレイヤーのプレイ/トレーニングが可能になるように設計されています」と Heneghan 氏は述べます。「このゲームは、プレイ後の評価、学習管理システムへのリンク、モジュール形式のフレームワーク、ゲーム環境のスケーラブルで段階的な拡張を可能にするため、Virtual Heroes Advanced Learning Technology Platform の要素を使用して制作されています」

Zero Hour

Lord 氏は、Zero Hour の今後の展開について、さらに大きな夢を持っています。その夢とは、赤十字、消防署、警察署、その他すべての緊急対策組織のトレーニングに、Zero Hour を導入することです。

Lord 氏は、こう語ります。「Second Life で実現したことを、災害対策トレーニングに置き換えて考えてみてください。大規模災害に関して、各分野の専門家がリアルタイムで継続的に関与できることになります。ニューヨークの街を舞台にしたシナリオを用意すれば、そこで各組織が独自の仮想訓練を行えるようになるのです。もちろん、サンフランシスコやロサンゼルスを舞台にすることもできます」

Virtual Heroes が Zero Hour をベースに開始する開発のコストは最終的に高額なものとなりますが、Lord 氏は、このような仮想トレーニング ゲームには金額では計れないほどの価値があると述べています。国土安全保障省のシリアス ゲーム イニシアチブの今後は、Epic の Unreal Engine 3 技術なくしては実現できなかったシミュレーション Zero Hour にかかっているのです。