Virtual tour in Unreal Engine by ARCHVYZ. Design by Toledano Architects.

Unreal Engine 5 が建築ビジュアライゼーションの新しい扉を開く

Unreal Engine 5 のリリースはゲーム開発業界に大きな影響を及ぼしています。革新的な新機能の多くは、次世代のゲームとディテールに富んだ広大なオープン ワールドの作成に最適です。ほかの業界では、まだ新しいワークフローのすべてが本番環境でテストされたわけではありませんが、ゲーム以外の用途でもさまざまな新しい可能性が生じています。その一例が建築の分野です。

UE 5 は、目玉の機能 Lumen と Nanite に加えて、全体のパフォーマンス向上、刷新されたモダンな UI、大幅に拡張されたモデリング ツールセット、更新された一連のプロジェクト テンプレート、パス トレーシングなどの既存のツールやワークフローの継続的な改善により、建築ビジュアライゼーションの世界にとって大きなアップグレードとなっています。さらに、使い慣れた Unreal Engine 4.27 でのワークフローがすべてサポートされます。通常、UE4 から UE5 に移行するには、プロジェクト ファイルを移行してから、UE5 を最大限に活用できるようにいくつかの設定を調整するだけで済みます。

昨年に UE5 の早期アクセスをリリースして以来、建築ビジュアライゼーションのコミュニティは活発にテストを行い、フィードバックしています。そのフィードバックは建築ビジュアライゼーションのワークフローについての UE5 の改善に役立っているだけでなく、今後の開発計画にも活かされています。

以下では、建築ビジュアライゼーションの文脈で UE 5.0 の注目点を紹介します。建築業界向けに近々公開される機能にも触れます。すべての更新点をご覧になるには、リリース ノートにアクセスしてください。
 

Lumen

Lumen は Unreal Engine 5 の動的なグローバル イルミネーションおよび反射のシステムです。Lumen を使うと、時間がかかり難しく煩雑なライトマップ UV の作成プロセスを行う必要がありません。また、ライトマップのベイクを待つ必要もありません。エディタでライトを配置するだけで、見たままの結果が得られます。また、直接ライティングやジオメトリに変更を加えると、間接ライティングがただちに反応します。たとえば、時間に応じて太陽の角度が変わったり、ドアを開けたり、ブラインドを上げたりする場合です。リアリズムをリアルタイムで実現することがかつてないほど簡単になりました。
Lumen は非常に高い品質のライティングを可能にします。リアルタイムでの用途や、静止画とアニメーションのプレビューとイテレーションに適しています。最高品質の設定にすれば、Lumen を使ってレンダリングしたアニメーションはほとんどの人にとってパス トレーサーを使ったものと区別できないレベルになりますが、所要時間はごくわずかで済みます。

建築の分野では、Lumen は屋内のシーンと屋外のクローズアップ シーンではすでに非常に有効ですが、フォリッジのあるシーンについてはまだいくらか作業が必要です。この点については今後のリリースでの対応を検討しています。
 

パス トレーサーの強化

UE 4.27 で初めて公開されたパス トレーサーは、DXR を利用する物理的に正確なプログレッシブ レンダリング モードです。追加の設定は不要で、Unreal Engine から直接オフライン品質のレンダリングを可能にします。UE5 では重要な更新が複数加えられており、なかでもパフォーマンスが平均で 2 倍になっています。

建築にとって重要な変更点は、色の付いた厚いガラスと吸収を新たにサポートするようになったところです。簡単に設定できるようになりました。この機能はリアルタイム レンダリングではまったくサポートされないので、新しい Path Tracer Quality Switch ノードを追加して、1 つのマテリアルをパス トレーサー向け、別のマテリアルをリアルタイム レンダリング向けに設定できるようにしました。
 
パス トレーサーを使ったガラス:IOR 1.52 (左) とラスタライズしたガラス:IOR 1.0 (右)。 Scene courtesy of Neoscape.
パス トレーサーによる被写界深度も新機能の 1 つです。これは半透明のマテリアルについて説得力のあるレンダリングを行うために不可欠です。また、エネルギーの保存をサポートしたことで、ラフネスの値が高いガラスや金属などのマテリアルを使った場合により正確な結果を得られるようになりました。
吸収、IOR、カラーパス トレーシング 品質スイッチを持つ基本ガラスシェーダー
パス トレーサーを使った被写界深度 (左) とポストプロセスによる被写界深度 (右)。Virtual tour in Unreal Engine by ARCHVYZ.Design by Toledano Architects.
MetaHuman のサポートが追加され、パス トレーサーがアイ シェーダーとヘアに対応しました。建築ビジュアライゼーションのプロジェクトではフォトリアルな人間が必要になることはほとんどないと思われますが、ヘアのサポートが追加されたということは、ラグや上掛けのラグジュアリー感をよりリアルに描写できることを意味します。

パス トレーサーの今後については、ボリューメトリックへの対応を進めています。Exponential Height Fog と Sky Atmosphere から始めて、デカールのサポートを追加する予定です。

パス トレーサーの現在の機能と今後予定されている強化点を利用すれば、90 fps のリアルタイム パフォーマンスと完成品レベルの忠実度のオフライン レンダリングのどちらかを選んだり、2 つの用途のために作業を複製したりする必要はなくなり、Unreal Engine 内で単にモードを切り替えられるようになります。これは究極の柔軟性をもたらします。
 

モデリングと UV のツールセットの拡張

Unreal Engine 5 では、モデルの編集と UV の作成および編集のためのツールセットを大幅に拡張しています。これによって、ソースのモデリング アプリケーションにアクセスできない場合でもモデルを調整できるようになります。

新しい包括的なツールセットは、再メッシュ、再分割、シンプル化、スカルプティング、ベベル、ベイキング、プロジェクション、UV の自動作成、UV のアンラップ、UV の編集に対応します。

また、ジオメトリ向けの新しいビジュアル スクリプティング ワークフローでは、125 以上の新しいブループリント ノードによって複雑なスクリプトの作成が可能になっています。たとえば、C++ のコードを 1 行も書かずに、距離に合わせて階段の数を自動的に調整できます。階段の例は、UE5 に同梱されている無料のサンプル プロジェクト Lyra Starter Game で確認できます。
 
これらのツールセットについては、今後のリリースで全業種向けに拡張と改善を続ける予定です。
 

Unreal Editor での Datasmith Direct Link のサポート

Unreal Engine 5 では、Unreal Editor での Datasmith Direct Link のサポートが追加されました。以前は、この機能を利用できるのは、Twinmotion など Unreal Engine ベースのパッケージ化されたアプリケーションの実行時に限られていました。Datasmith Direct Link を使えば、外部のデザイン アプリケーションでシーンに加えられた変更が Unreal Editor に即座に反映されます。この機能によってワークフローが合理化され、時間のかかるエクスポートと再インポートの処理を行う必要がなくなるので、自由に変更を加えてイテレーションを行い、最善のデザインを目指すことができます。

現時点では、Archicad、Revit、Rhino、SketchUp Pro 向けに Direct Link 機能を含む Datasmith プラグインを提供しています。BricsCAD と Vectorworks にはこの機能が組み込まれています。複数のアプリケーションから複数のファイルをリンクさせることもできます。たとえば、Rhino で作成しているランドスケープと Revit で作成している建物を利用できます。今後のリリースで 3ds Max 向けの Datasmith プラグインに Direct Link 機能を追加する予定です。

Datasmith プラグインのページで最新のプラグインをダウンロードできます。
 

Nanite

Nanite は仮想化マイクロポリゴン ジオメトリ システムです。リアルタイムのフレーム レートを維持しながら数百万ポリゴンのファイルをインポートして作業できるようにします。フォトグラメトリーや点群の巨大なアセット (Nanite メッシュに変換可能) を取り込むのに最適で、場所を評価したり、既存のランドスケープ、建築物、インフラストラクチャとデザインの関係を確認したりするために利用できます。都市ほどの規模のスキャンを取り込むこともできます。
Nanite を使った場合 (左) と Nanite を使わない場合 (右)
スキャンされたアセットは全般的に Nanite と相性が良くなります。UE5 では Unreal Editor のデザインが刷新され、Quixel Bridge が組み込まれています。ドラッグ アンド ドロップ操作で Quixel Megascans ライブラリ全体に直接アクセスでき、数千におよぶ極めて高品質のスキャンを利用できます。自分が求めているものを Quixel Bridge で発見できなかった場合も、自身でスキャンを行いやすくなっています。RealityScan は無料の新しい 3D スキャニング アプリです。先日 Epic Games ファミリーの一員となった CapturingReality と Quixel が開発しています。RealityScan は現在ベータ版を限定的に公開しています。今年の後半に早期アクセスをリリースする予定です。

Nanite は革新的なテクノロジーで、まだ継続的に開発が行われています。UE 5.0 では建築のワークフロー向けに最適化はされておらず、透明なマテリアルやレイ トレーシングされたシャドウには対応していません。引き続き Unreal Engine のシステム全体との統合を強化できるように努めています。
 

明るい未来

現実の複雑さにフォトリアルなレベルで対応する能力を向上させることができる Nanite や Lumen のような革新的なシステムを開発し続けるなかで、リアルタイム テクノロジーを建築の分野で応用する可能性が広がっています。

一見ゲーム開発のためだけに設計されたように思える機能も、実際には都市の再設計やデジタル ツインの領域で新しい可能性をもたらすことができます。たとえば、ラージ ワールド座標 (LWC) で倍精度浮動小数点数をサポートするようになったことで、大規模なワールドの作成を可能にするための基盤をすでに整えています。また、同じく UE5 で導入されたワールド パーティションにより、ワールドを自動的にグリッドに分割して必要なセルだけをストリーミングできます。ここで紹介した UE5 の機能を使った都市規模のプロジェクトをご覧になるには、無料の City Sample プロジェクトをダウンロードしてください。
ここ数年のパンデミックにより、急激な変化をシームレスに管理するために規模を問わず商品やサービスをデジタル化することの価値が示されました。この柔軟性を向上させるプロセスは、形態や規模に関わらずすべての企業が顧客と関わるために新しい方法を使う必要があることを意味します。新築住宅のためのインタラクティブな販売コンフィギュレーターや、スタジアムや空港のデジタル ツインなどのプロジェクトで、Unreal Engine は今日の消費者や関係者が求める忠実度とパフォーマンスを実現します。

現実の世界を仮想的に表現するニーズによって次の波が引き起こされ、デジタルで作成したものがメタバースの一部となるでしょう。そうすれば、まったく新しいエクスペリエンスを作ることが可能になります。その道のりは Unreal Engine から始まります。

    今すぐ Unreal Engine 5 をダウンロードしましょう!

    Unreal Engine の既存ユーザーの方は Epic Games Launcher から Unreal Engine 5 をダウンロードできます。初めてご利用になる方は、下のリンクからアクセスしてください。どちらの場合でもすべての新機能とアップグレードをお楽しみいただけることを願っています。また、フィードバックをぜひお寄せください。