6.20.2018

【後編】UNDEFEATED - ヒーローに憧れる思いが生み出した爽快オープンワールドアクションゲーム

作成 岸本 ひろゆき

完成度を増すために地道な最適化を繰り返す

プロトタイプ版から一歩進んで100人ほどの市民を配置してみようという段階になると、それまでになかった問題が発生しました。アセットストアで購入したNPC用のキャラクターが、キャラメイク用の複雑でリッチな構造や過剰なメッシュを持っていたり、マップに置いた小物アクターの数が膨大になり、処理負荷が一挙に増大したのです。「一時は17fps程度しか出ない時もあり、『終わった……』という気分になりました。表示されているものが多いのが原因で、表示されなければ軽くなるのでは?……と試してみても、プロファイラで見てみると軽くなっていなかったり。なんとかして軽くする必要がありますが、授業で習ったゲーム開発方法と違って“最適化”については二人とも知識がありません。きっとそういう機能があるんだろうなとは思うのですが、なんという言葉で調べればいいのか分かりません(兵藤さん)」

実施した作業は「LOD作成」と「アクターマージ」など。場合によっては他の環境で開発している知人から手がかりを得て、同様の機能がUE4にもあるはずだと調べを進めることもあったとか。またLODについては、UE4での軽量化について調べていくうちにEpic公式の最適化記事に行き着き、早速実施。「内容は高度でよくわからなかったのですが、とにかくトライしてみると実際に軽くなるのが確認できました。組んでみればすぐわかるのはUE4の強みだなと改めて感じました(篠原さん)」

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NPCキャラクタについては、パーツごとに1000ポリゴン以上・全体で2万〜5万ポリゴンあるようなモデルもあり、主人公よりもリッチという状態。UE4標準のポリゴンリダクション機能はスケルタルメッシュに適用することができず、Simplygonを用いています。「ひたすらLODを入れる地味な作業でしたが、やればやるほど見る見る変わっていく様子が実感できました(篠原さん)」

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さらに大量の小物類はアクターマージで結合、こつこつとドローコールを削減し、ついには60fpsも視野に入ってきたとのこと。その様子を見ていた中村氏も「ここまでやったら普通なら妥協してしまうようなところ以上まで、地道に処理負荷対策を繰り返していました。プロファイルを取りながら進めるなど、やっていることはほとんどプロの業務と変わらないような実践的なものでした」と太鼓判。

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UE4 Simplygonを使ってお手軽にメッシュのポリゴン数を減らす - Let's Enjoy Unreal Engine

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アクタのマージ - アンリアル エンジン 4 のドキュメント

そのほか負荷の高かった処理としてはSceneCapture2Dが挙げられます。本作ではミニマップの表示に使用していますが、そうしたUIを実現するための手法として検索上位に上がってくる手順でまずは実装してみたところ、想像を超えてfpsが低下。「検索すると上位に出てくる、一番お手軽な実装方法は、一方で実は処理としては高負荷・非効率的な手法でした。具体的にはレンダリング結果を毎フレーム受け取る仕組みになっており、そこを見直して一度キャプチャした画像を使い回すようにしたことで軽量化できました(兵藤さん)」こういったプロトタイプ版では起きなかったような問題の解決は、C++で取り組んでいたら同じ期間では解決できなかったのではないかと兵藤さんは振り返ります。

Blueprintを組む中で、クラスの考え方やオブジェクト指向に自然に触れることになり、UE4をやった後にCによるコーディングに戻るとそれまでわからなかった部分の理解がスムーズに進む実感があったそう。「Blueprintはオブジェクト指向について学習した内容がそのまま視覚化されたような作りになっていて、それを理解した上でCに取り組むと、読みやすく感じられるだけでなくコーディングもオブジェクト指向で書き進めることができました。Blueprintに習熟する中で、コーディングのスキルも向上しました(兵藤さん)」なお本作は、必要に迫られなければC++で取り組む必要はないという中村氏のスタンスもあり、100% Blueprintで開発されています。

5x5に区切られたマップは、区画ごとに特徴が設定されています。プロトタイプ版を構成していたシンプルなアセットから、本番アセットに置き換えつつ区画の特徴が出るようにレベルデザイン。一区画ずつ組み上げながらメッシュへのLOD追加を繰り返し、レベルデザインと軽量化作業を終えたのは今年の2月ごろとのこと。

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篠原さんがグラフィック面、レベルデザインを詰めていく一方、兵藤さんはBlueprintでゲーム実装を進めました。習った内容を動員しつつweb上も広く探索、日本語ではヒントが得られないような深い内容は、海外サイトからも情報収集を繰り返したそうです。「自分たちで海外の情報を率先して取りに行くので、こちらであらためて日本語で解説しなくてもなんとかなるというのは彼らの強みだと思います(中村氏)」

海外情報収集の定番、Google翻訳の活用はもちろんのこと、一番助けられるのはYoutubeだと兵藤さんは言います。「文明の利器、Google翻訳も最近はBlueprintを青写真と訳さなくなりました。Youtubeは、Epic公式がLive配信のログをたくさんアップロードしてくれているので重宝しますし、そのほか操作手順が動画でわかるのがありがたいです。ポルトガル語でも中国語でも、操作しているのはUE4なので画面をちゃんと見ていれば何をやっているのか理解できます(兵藤さん)」動画は内容を文字で検索できないという難点があり、通してみる時間はかかってしまうものの、内容理解では動画での学習がもっとも効果的とのこと。検索結果から関連がありそうなものは片っ端から閲覧するという学習方法は、一見要領の悪いアプローチにも思えますが、「未開の分野に進出するとき、網羅的に取り組むのがもっとも効果的で実効性が高く、結局一番近道になります。しかし、そうと分かっていてもなかなかできることではないので、そこは素直にすごいと思いますね(中村氏)」

▲ 2018年6月3日開催の『UE4 アーティスト向け勉強会 in 大阪』にて篠原さんは登壇し、本作のレベルデザインや最適化作業、学習の方法などについて解説されました。

年内リリースを目指し、鋭意開発中!

開発開始から1年少々、完成度は現時点でおよそ半分ほどとなりました。ゲームシステム面でいうと6〜7割といったところで、あとはこれまでの流用で組んでいける部分も多いとのこと。「Steamでのリリースを考えていますが、その場合はトロフィーなどにも対応したいと考えています。そのあたりは未知数な部分もあり、調査を進めている段階です(兵藤さん)」 ゲームとしては、ヒーローの動ける場とアクション、『空を飛んで楽しい』という本作の遊びの根幹部分が確保できた状態で、このあと追加する予定の内容としては、ストーリー要素と建物の破壊が挙がりました。「ストーリーに関しては、大枠はできています。ヒーローの生い立ちや、趣味でヒーローをやっているという設定、クスッと笑える小ネタや、敵対組織……などなど、プロットは組んであるので、あとは細かい演出を詰めていきたいと思います(篠原さん)」

一方、建物の破壊は多少複雑な事情が垣間見えます。「今年4月1日にデモ版を公開し、アンケートを実施したところ30件ほど回収できたのですが、その中で“物を壊したい”という声が多くあがっていました。ただ、主人公は正義のヒーローなのに、都市の建物を壊すのはどうか?ただ物を壊すことができるようになるだけでは、正義のヒーローとしてズレてしまうのでは?と考え、結果的に破壊できるのは敵組織に関連するものだけという設定にしました。実験施設や戦車などが破壊できるようになる予定です」

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さらに、ダウンタウンエリアにはタクシー、パトカー、セダンなど自動車を追加し、都市の雰囲気を演出予定。「走ったり交差点で止まったりといった仕組みをまず用意し、そこにアセットを挿していけるよう準備しています。適価で収録数が多くて使いやすそうなアセットを購入予定です(兵藤さん)」

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篠原さんの担当するビジュアル面は、アセットとしてはほぼ終わりが見えてきたものの、アニメーションはまだまだこれから作って行く必要がある様子。ゲームプレイ用モーションは9割終了している一方、ストーリーに関連してカットシーン演出が発生しますが、それ用のモーションはまだまだこれからということになります。「カットシーン用のモーションについては、IKinema Orionでのボディキャプチャを検討しています。フェイシャルに関してはアセットの加工を加える必要もあるため、手付け・キャプチャに関わらず難しく、見送る方向で考えています(篠原さん)」

6月末には、チュートリアルモードやムービーを加えた新しいデモ版を配信予定。そして、完成版は12月ごろリリースを目指して準備が進められています。
さらに、本作とは別の作品も構想が進行中。本作に注力するために一旦保留していた兵藤さんの企画について、開発の合間を縫って技術研究が続けられているとのこと。「内容的に勉強しないといけない部分が多く、実際に取りかかれるかどうかは五分五分です。やる気やモチベーションはいくらでもあるのですが、とにかく時間がないですね」と兵藤さんは苦笑い。

プロトタイプ動画の驚きのバズからもうしばらくで、一年。本作は世界中のヒーローファンからリリースが待たれるインディーズタイトルとなりました。
「僕も、キャラクターデザイナー専攻の福士さんも『友磨がやりたいこと』に乗っかって動き始めた作品で、それを最優先するという部分は今後もずっと変わりません。彼が制作に集中できるように、ブレないように、降りかかってくる雑務的な仕事は全部自分が吸収するつもりで取り組んでいます。情報発信についてもそうで、友磨はすごくクリエイター気質なのもあり、そういう活動は得意ではありません。彼の熱意が込められたゲームを可能な限り周知して行くという点では、全力でサポートしていきたいですね(兵藤さん)」

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「ヒーローゲームという自分のやりたかったことが、こんなにも世界に受けるとは思っていませんでした。やっぱりみんなヒーローになりたいんですね!世界中からコメントをもらうので、その期待に応えられるよう開発を進めていかなければと、ものすごくプレッシャーはかかっています。僕たちと同じような学生でも、ものすごい作品を作っている人はたくさんいます。でもなかなか表には出てこないというか、知られることがなくて、今回僕らはたまたま目立っただけなのだと思っています。本作のような受け入れられ方があると知った以上は、僕自身もどんどん発信していきたいと考えていますので、同じように熱意あるゲーム開発をしている学生さんも、どんどん発信して欲しいなと思います!(篠原さん)」

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