2015年5月14日

イベントレポート「『Unreal Engine 4の歩き方』発売記念イベントin神保町」

作成 飯岡 真志(インプレスThink IT編集部)

Unreal Engine 4は、ゲーム開発者にとっては定番と言えるゲームエンジンであり、内外の大手パブリッシャーで実際に利用されています。Unreal Engine 4を利用するためには、開発元のエピック・ゲームズと契約を締結して、月額19ドルのライセンスフィーを支払う必要があったのですが、2015年3月から無償化されました(四半期で3000ドル以上売り上げた場合は、5%のロイヤリティを支払う必要があります)。

Unreal Engine 4は商用の大作ゲームの開発にも使用されているゲームエンジンであり、ゲーム開発のための多彩な機能を備えています。そのため、無償化と聞いてさっそくインストールしてみたものの、どこから手を付けてよいのか分からず途方に暮れてしまうというという声も聞きます。

このたびインプレスから電子書籍版が発売された「Unreal Engine 4の歩き方」は、入門書のさらに一歩手前といった位置付けの書籍であり、Unreal Engine 4が備える膨大な機能の概要を解説するものです。同人誌即売会コミックマーケット87(2014年12月)で頒布された同人誌版をベースに、Unreal Engine 4.7への対応など大幅な加筆修正が施されています。また、プリント・オン・デマンドと呼ばれる紙書籍版も発売されています。前述のような、Unreal Engine 4を使い始めようとしている開発者には、最適な一冊と言えるでしょう。

ゴールデンウィーク直前に同書の刊行を記念したイベントが開催されたので、今回はそのようすをお知らせします。

登壇者は筆者の出村成和氏、エピック・ゲームズ・ジャパンから今井太氏、下田純也氏の両名、そしてUnreal Engine 4とOculus Riftを用いたアプリケーション開発で知られる栗坂こなべ氏の4名です。

 

筆者の出村成和氏

 

エピック・ゲームズ・ジャパンの今井翔太氏(左)、下田純也氏

 

平日の夜にも関わらず、途中で席を追加するほど多数の参加者が集まりました。また参加者のうち、約8割が実際にUnreal Engine 4をインストール済みで、2割ほどの方は「Unreal Engine 4の歩き方」を購入済みでした。

 

トークセッション

前半のトークセッションでは、4名の登壇者によるフリートークが展開されました。

出村氏は、Unreal Engine 4にさわり始めて2ヶ月くらいで「Unreal Engine 4の歩き方」の執筆を始め、約2週間で書き上げたそうです。

栗坂氏はUnreal Engine 4の習得に苦労されたと自分の体験を語り、同人誌版の「Unreal Engine 4の歩き方」を見て、「完成度の高さにショックを受けた」と語っていました。また「もっと早くに読んでいれば、苦労が少なかっただろう」とも語っており、現在Unreal Engine 4を使っている開発者の視点から、本書が初学時に役に立つものであることを示しています。

実際、同人誌版も人気があったようで、コミックマーケット87では頒布開始後1時間で売り切れたといいます。同人誌版にはエピック・ゲームズ・ジャパン提供のプロモーションコード(Unreal Engine 4の30日間限定ライセンス)が付与されており、当時はまだ月額19ドルのライセンスフィーが必要だったことから、お買い得(同人誌版の頒価は500円)であったのも確かですが、人気の決め手はやはり完成度の高さだったのでしょう。

Unreal Engine 4の歩き方は、一般的な開発環境の入門書のような形式ではなく、読み物風の構成になっています。その点について出村氏は「Unreal Engineのバージョンアップのペースが速過ぎるため」と事情を明かしました。これに対し下田氏からは「今後もハイペースですよ」とのコメントがあったが、それに対する出村氏の「(現行の4.7の次である)4.8はいつ?」の質問には「そろそろ」とだけ回答していました。

Unreal Engine 4のバージョンがハイペースで上がっていくと、それを解説した書籍はすぐに内容が古くなってしまうのではないか? このように心配される向きもあるでしょう。その点Unreal Engine 4の歩き方は、電子書籍の特徴を活かし、インプレス直販で購入したユーザーには今後のメジャーバージョンアップ2回分(4.8、4.9)のバージョンアップ保証を実施しています(プリント・オン・デマンド版は対象外)。つまりUnreal Engine 4がバージョンアップされたら、それに合わせて書籍の内容も更新され、すでに購入している読者は無料で新しいデータを入手できるということです。内容が更新されるというのは、電子版ならではの利点と言えます。

本書の続編について質問された出村氏は「ブループリント(Unreal Engine 4が備えるノードベースのプログラミング環境)に関する本」を検討中と答えていました。ブループリントは、Unreal Engine 4の特徴的なプログラミング環境であり、コードを書かずに開発が行えますが、半面「ネットで公開されているサンプルを見ても、ノードを再現するのが難しい」(栗坂氏)など、初学者にとってはハマり要素でもあります。現状でブループリントに苦労している方にとっては、待ち遠しい続編です。

トークの締めに出村氏は、「Unreal Engine 4の無償化によって、PlayStationの初期のように、おもしろいものがたくさん出てきてほしい」と語りました。同様に下田氏も「インディーズの開発者を盛り上げていきたい」と語ります。さらに無償化したことにより、ゲーム以外の用途にも広がっていることを紹介し、その実例として建築物の内部を紹介するようなアプリが開発されていることを紹介しました。このような用途であれば、ロイヤリティは発生しないそうです(ロイヤリティはUnreal Engine 4で開発したアプリケーションを販売するとことで発生)。ずいぶんと気前の良い話だが、下田氏は「ヒット作をいっぱい作って欲しい」と語り、Unreal Engineの開発者層の広がりを期待しています。

 

学園追放の紹介

イベントの後半は、実際にUnreal Engine 4で作られたアプリケーションのデモが行われました。「学園追放」は、よく似た名前のCGアニメーション作品にヒントを得て作成されたシューティングゲームで、Oculus Riftによるバーチャル・リアリティを体験できます。

 

学園追放の画面

 

開発者の栗坂氏によると、学園追放は昨年開催されたハッカソン「OcuJam」において2日間という短期間で作られたものであるそうです。

ビニールバルーンのイルカにまたがって身体を動かす(実際には頭の位置によって判定している)ことで、ゲーム内の乗り物を操作します。HMDを装着してイルカにまたがるというプレイスタイルは、かなり「目を惹く」ものです。ビニールバルーンを採用したことで、費用も安いうえに、イベントの際の搬入も楽になるという利点を紹介していました。

栗坂氏は「一般の方に『頭を前に動かして』と指示しても、下を向いてしまう方が多かった」という裏話を明かしました。「そもそも頭の位置で操作するのが間違いかもしれない」という発言まで飛び出したが、同様のインターフェースを採用したゲーム「イルカラス」も開発されており、今後もこのインターフェースは改良されつつ使われていくようです。

 

ハイクオリティなエピック謹製デモ

続いて下田氏により、エピック・ゲームズ製のデモが紹介されました。最初にUnreal Engine 4に付属のサンプルプログラムを紹介し、実際に動かしている最中に、動作中の画面からテクスチャーなどを除いてワイヤーフレームの表示に切り替えたり、動いている部分のブループリントを参照するといった開発手法が紹介されました。このようにすれば、別の開発者が作成したブループリントも、実際の動きを見ながら動作を確認できるというわけです。

 

画面上のオブジェクトをワイヤーフレーム表示にしながら、ブループリントで動作を確認する

 

さらにブループリントでもまだ敷居が高いと感じる場合には、画面上のオブジェクトをコピーして複製し、パラメーターをちょっと変えてみることで、動きの違いを確かめてみるといった学び方を紹介しました。

下田氏はブループリントの利点として、プログラミングをしない職種でも、簡単にパラメーターの変更を試せる点を挙げます。たとえば、キャラクターがジャンプする高さを1メートルから2メートルに変更する場合、以前ならプログラマーにその旨を伝えて再ビルドする必要がありました。それがUnreal Engine 4ならば、自分でパラメーターを変更して簡単に試せるのです。

続いて紹介されたのが、Oculus Rift用のデモ。ディスプレイ上では高精細な画面がぬるぬる動いていましたが、これをOculus Riftを介して体験すると、非常に臨場感あふれる体験ができます。ゲーム画面内でモノが飛んでくれば、本当によけてしまうほどです。このデモは大人気で、イベント終了後も試したい人が途切れないほどでした。

 

Oculus Rift用のデモ。ディスプレイ上で表示してもハイクオリティだが、Oculus Riftで見ると、高い没入感が味わえる

 

最後に、印刷された「Unreal Engine 4の歩き方」を賭けた、じゃんけん大会が行われました。イベント当日には、プリント・オン・デマンド版の販売が始まっていないので、ここでしか入手できないレアアイテムです。大盛り上がりのじゃんけん大会で、2人の幸運な勝者を選んだところで終了となりました。

無償化により、Unreal Engine 4を使う開発者は増加し、様々な応用も広がっていくことでしょう。「Unreal Engine 4の歩き方」は、新規参入者が感じる敷居の高さを下げることで、この流れを加速する。そんなことを感じさせられるイベントでした。