2012年3月20日

Takenaka Corporation

作成 Unreal Engine

竹中工務店は、日本を代表する建築、エンジニアリング、建設の会社で、これまでに、東京タワー、東京ドーム、福岡ドーム、神戸メリケンパーク オリエンタルホテルなど、数多くの有名建造物の建築に携わってきています。これは、竹中工務店が建築を視覚化するためのツールとして UDK を採用決定した経緯のストーリーです。

1610年の創業以来、400年以上の歴史を持つ日本有数の大手ゼネコン、竹中工務店。寺社仏閣の造営を担当する宮大工の伝統を現代に伝える同社は、一方で明治維新後いち早く洋風建築を手がけたように、進取の気質に富んだ企業でもあります。そんな竹中工務店と UDK との出会いが、建築設計プレゼンテーションの現場に革命を起こそうとしています。

複合施設や病院、学校といった大規模な建築物の設計が行われる際には、設計者から建築主に対して竣工後のイメージを伝えるためのプレゼンテーションが実施されます。従来、こういったプレゼンテーションは図面や立体模型、「パース」と呼ばれる CG 画像で行われるのが一般的でした。過去数年間における PC のパフォーマンスの進化に伴い、バーチャル リアリティーの利用が普及し始めました。これによって、建築設計はその内部まで再現可能な 3D 空間で行われるようになり、実際にその場にいるような感覚で建築物を見ることができます。しかし、その表現力の乏しさから、当初の技術では、実際の建造物と同じクオリティの映像をレンダリングすることはできず、パースと同じレベルで魅力をアピールすることは困難でした。

Takenaka Corporation

竹中工務店設計本部の課長を務める片桐岳氏は、VR プレゼンテーションの可能性に大きな期待を寄せつつも、表現力の点でまだまだ足りないものが多いと感じていました。これまで 30 年近くにわたって設計施工のプレゼンテーションに携わってきた片桐氏は、図面上の建築物を仮想空間上に構築して、実物と見分けがつかないほどのハイクオリティなグラフィックで再現されたその内部を自由に移動することができる、新たな手法を模索していました。その片桐氏がたどり着いたのは、 ビデオゲームのテクノロジー でした。

片桐氏は、「Xbox 360 や PlayStation 3 で発売されているゲームのグラフィックのクオリティは、これまでの VR プレゼンテーションとは比較にならないほどハイレベルなものです」と語ります。「いろいろな調査を行った結果、 ゲーム エンジン と呼ばれているものを使えば、我々でも最先端のグラフィック クオリティを実現できるかも知れないということが分かりました。さまざまなゲーム エンジンがある中から、実績や知名度、クオリティの点から考えて、Unreal Engine を選択しました。ほとんどゼロからのスタートだったので、無料で UDK をダウンロード して試せるのも大きかったですね」

片桐氏は特別チームを編成し、ちょうどプレゼンテーションを控えていたある病院プロジェクトのために、UDK を利用した VR プレゼンテーションを制作しました。このプロジェクトでは、現存する旧病棟の隣に新病棟を建設するため、入院患者や外来患者の動線と工事関係車両の動線とを危険のないように処理すること、工事中も病室の入院患者に圧迫感を与えないこと、また病院敷地内の並木を保全/移植することが大きなポイントでした。UDK を利用した VR プレゼンテーションにより、リアルな植栽に囲まれた旧病棟を描写しつつ、工事車両が通行する様子や工事の進捗にあわせて景観が変化していく様をリアルタイムで表現することが可能となりました。また、 次世代ゲーム機 に匹敵するグラフィック クオリティを発揮しつつ、リアルタイムで好きな視点に移動できる機能も盛り込んだおかげで、任意の病室の窓からの眺めを、自由に時系列を選択して確認することもできるようになりました。

この病院プロジェクトと並行して、片桐氏は竹中工務店東京本店の VR 化にも着手しました。UDK による VR プレゼンテーションの威力を社内に宣伝し、今後の重要なプレゼンテーション ツールのひとつとして認知してもらうためには、同社社員なら誰でも知っている東京本店を VR 化することが一番説得力のある方法だと考えたからです。

「東京本店のエントランス空間のデザインには、当社関係者のこだわりが込められています。この正面玄関を VR 化し、この技術の表現力が実証できれば、社内の誰もが納得するだろうと考えました」と氏は述べます。

参考:竹中工務店の東京本店 [http://www.takenaka.co.jp/takenaka_e/majorworks_e/topics/2005/sp/01.html] 実際の制作には、2 名のスタッフが約 1 週間作業を行ったそうです。片桐氏自らが録音機を持って社屋内を歩き、自動ドアやエレベーター、受付近辺の環境音を録音して VR 中に埋め込みました。

「実際に制作を行ってみると、 Lightmass の各種機能が非常に便利でした」と片桐氏は指摘します。「従来は Max などでモデルに焼付けなければならず、光源の調整が大変でしたが、UDK ならエディタ上で効果を見ながらリアルタイムで調整できます。また、建築物には反射面や半透過面、ざらついた壁や凹凸のある壁など、色々な素材が使用されていて、それを CG 上でリアルに表現するには大変な労力が必要でした。しかし UDK では、マテリアル エディタを使って、異なるマテリアルを視覚的に処理することができるので、本当に助かっています。スクリーン空間環境オクルージョン (SSAO) も、 専任のデザイナーがいない制作環境でも、モデルを置くだけで立体感を表現してくれるので、少人数でリアルな絵作りをする上で非常に役立ちます」

ビデオ ゲーム開発 というファンタジー世界でリアルな質感を生み出すために磨かれてきた Unreal Engine の技術が、現実世界を CG で再現する建築プレゼンテーションの現場で活用されているという事実は、現実とファンタジーが交錯したような一種の不思議な印象を与えます。

架空の世界から生まれたゲーム エンジンが、究極の現実である建設業のトッププロに認められ、利用されているというこの事例は、さらに多分野での Unreal Engine の採用を予感させます。

片桐氏は、「実際に UDK を使って制作を行ってみると、事前に懸念していたほど難しくはなく、 しっかり機能するプレゼンテーションを短時間で組み上げることが出来ました。ただ、あまりにも機能が豊富なので、すべてを使いこなすのは相当難易度が高いと感じていますが、UDK を活用することで、短い制作期間でもクオリティの高い VR を制作することが可能になります。今後は、ビル情報管理システムや設計データとの連動、AR 的な要素の導入といったことも視野に入れつつ、さらに有効な UDK の使い方を検証していきたいと思っています」と語りました。