ハリウッドのスタジオが非ゲーム VR 用途でエピック・ゲームズの技術を起用
San Diego Comic Con (SDCC) 2014 では、Guillermo del Toro 氏が自身の作った「パシフィックリム」映画フランチャイズの世界の中へと足を踏み込む体験を実際に経験されていました。3D のハリウッド映画から得られる体験もある程度が限界であるため、Del Toro 氏は Legendary Pictures の技術の専門家たちと共に、SDCC コンベンションへの参加者にバーチャル リアリティ体験を用意したかったとのことでした。「Pacific Rim: Jaeger Pilot」は Oculus Rift を使った 3 分間の没入体験であり、ファンたちを文字通り巨大なロボット戦士の頭の中へ――しかも隣では映画のローリー・ベケット役 Charlie Hunnam 氏が同キャラクターを演じて登場していました。
「Oculus は私がそのデザイン、ストーリーボード、サウンドデザイン、ベータ版、そして現在の完成版に至るまで見てきたものです」と Del Toro 氏は語ります。彼自身も熱心なゲーマーであり、Oculus Rift での完全な「パシフィックリム 2」ゲームを是非とも見てみたいそうです。「そういうことなら、私は全力で支援したいですね」
Legendary Pictures CEO の Thomas Tull 氏は元々 Oculus VR の早期投資者の一人であり、今年になって Facebook が 10 億ドルで買収する前からこのベンチャー企業に注目していました。彼の会社は CG アニメーション会社「Reel FX」にこのテクノロジーでの作業を頼み、そしてその研究開発の成果が San Diego Comic Con で初お披露目となりました。3 台のカスタマイズされた椅子が用意され、出席者はエピック・ゲームズのアンリアル エンジン 4 の技術と Industrial Light & Magic (ILM) のデジタル アセットやエフェクトを使った短めのバーチャル体験を探索することができました。
「私たちは、エピック社が長年アンリアルエンジンを使って実現できたことを、とても大きく評価してるんです」と Legendary の劇場戦略部門 VP の Barnaby Lepp 氏は言います。「『パシフィックリム』には劇場公開された映画史上もっとも洗練された視覚的世界があります。なので「Jaeger Pilot」でもその世界観にできるだけ忠実にあって欲しいと思っていました。そして開発コミュニティがアンリアルエンジン 4 内でその視覚的忠実さをリアルタイムで実現できたのを見て、私達が初めて作成するバーチャル リアリティ体験を開発するための一番有望な選択肢となりました」
パイロット候補生の頭にヘッドセットとヘッドフォンがおかれると同時に、VR 体験が始まります。その世界の中で着用者は、映画でも登場した全高およそ 75 メートルのロボット――「イェーガー」――の頭部の中へと転送され、ローリー・ベケットからコパイロットになってくれと頼まれます。そして「ドリフト」で精神を繋ぐための基本的な訓練項目をいくつかこなした後、ローリーと新人コパイロットは巨大な怪獣「ナイフヘッド」に立ち向かうことになります。この短いデモにはまだインタラクティブ要素は含まれていませんが、コントローラーへの対応や Kinect などのモーションセンサー技術を今後追加すれば、とてもクールな体験を作り出すための基盤はできています。スタジオは 2017 年までにこの体験を拡張する予定であり、その頃には映画「パシフィックリム」の二作目がちょうど劇場公開されていることになります。
「外の枠が中身と合致することになるんです」と Legg 氏。「VR 体験を通じてファンの皆さんが経験できるのは、イェーガーのパイロットたちが映画内で体験したことと同一です。パイロットを巨大ロボットの生体技術とつなげるための神経制御システム「ドリフト」。この意識と技術の融合というのは、まさしくユーザーがバーチャル リアリティ ゴーグル内でユーザーが感じる体験そのままなんです。こういった強力なアイデアというのは、エンターテインメントと私達の感覚の間にある壁を取り払う、現代の技術と大きく響きあうものなのです」
プロジェクトは 3 月にスタートしており、つまり開発チームも Oculus DK2 の技術を活用できることを意味します。Legendary、Reel FX、Oculus VR、そして ILM の間でおよそ 50 名の人間が関わっており、エピックもこの開発プロセスに加わることとなりました。
「私たちもエピックのみんなとは長い間友人同士でしたから、最後のコードで手伝ってもらったり、最高のパフォーマンスを得るための調整や最適化を手伝ってもらったりしていました」と Legg 氏は言います。「彼らほど UE4 のことを知り尽くした人間はいませんからね」
このフランチャイズの生みの親である Del Toro 氏もプロジェクトの創設から携わっており、開発チームは彼と共にストーリーボード、スクリプト、Hunnam 氏の台詞、そして作品の視覚的ランドスケープを作り上げました。
「Guillermo さんはこの世界観にとっても力を入れられていますし、実際、彼の触れた跡がそこらかしこに残っているんです」と Legg 氏。「またゲームのようにインタラクティブな体験について非常に良い勘を持ってますので、彼の知見を入れられるのは大変よかったです」
Reel FX は UE4 のブループリント視覚スクリプトを使って、VR 体験のプロトタイプと実行を素早く行うことができました。Legg 氏は開発チームが「パシフィックリム」の世界観をアンリアルエンジン 4 の中であまりに見事にレンダリングしたため、開発プロセス自体が思いのほか楽なのではと思ってしまったほどだそうです。
「アンリアルエンジン 4 は驚くほどダイナミックです」と Legg 氏。「シェーダー、ライティング、パーティクル システムなどの進化を見ても分かりますが、非常に感心しますよ。また皆さんもご存知の通り、完成した体験はそれを作り出す要素の構成体です。コパイロットのスーツから光が反射する様子、イェーガーのコン ポッド内の排気口からの蒸気の立ち昇り方、ナイフヘッドがバイザー シールドを突き破ったときに火花が降っては散る様など、どの要素にも役割があるんです。VR で作業をするには、360°度をデザインする必要があります。そしてアンリアルエンジンのおかげで、ユーザーがたとえどちらの方向へ向いていても、驚くような視覚を用意できるようになりました」
アンリアルはこの VR 体験を作り上げるための基盤となっていますが、Legendary がこのプロジェクトに一番最初に加えたのが ILM でした。Legg 氏によれば、彼らは映画のために作成したとてつもなく大量なデジタル アートのアーカイブを公開してくれ、Reel FX チームに直接的な参照情報となる映画のコア アセットを提供することができたそうです。
Oculus VR CEO の Brendan Iribe 氏も Comic Con におり、Del Toro 氏と VR 体験メディア プレビューの様子を見ていました。Legg 氏によればプロジェクトの目玉は「パシフィックリム」の世界観であり、この独特の視覚的ランドスケープを Rift でレンダリングして、VR ファンに 75 メートルのロボットを操縦する壮大な感覚を与えるのについては、Oculus も Legendary と同じくらい興奮しているとのことです。
エピックが 3 月に開始した新サブスクリプション モデルの登場により、ハリウッドのスタジオらもより簡単に VR を試してみることができるようになりました。 またエピックと Oculus VR は UE4 への対応を確実にするため、初期より密接な協力を行っています。
「エピック社は UE3 で先代テレビゲームの原動力でしたが、次世代の原動力でもあり続けるでしょう」と Legg 氏は言います。「ハリウッドにとってこれがどういう意味を持つかは、これからを待つしかありませんね」
「Pacific Rim: Jaeger Pilot」がハリウッドのクリエイティブな才能たちが Oculus と UE4 を使ってたった 5 ヶ月でできることの実例ならば、今後さらに VR 体験の開発時間が与えられることで、映画のファンたちはどんな形で大好きな映画の世界に完全に没入できるのか、大変楽しみです。