Epic Games 社の Unreal Engine 3 (UE3) は、既にビデオ ゲーム業界に広く普及しており、Electronic Arts、セガ、Midway Games、カプコン、Activision、Sony Online Entertainment などのゲーム パブリッシャーが、その人気ゲームの開発に使用しています。今日、ハリウッドは、人気子供テレビ シリーズ 「LazyTown」 が、この強力なゲーム テクノロジーを初めて活用して、実写と人形と CG を組み合わせた番組を制作したことに注目しています。オランダ人のテレビ番組/映画制作者 Raymond P. Le Gué 氏がプロデュース、時には監督も務めた「LazyTown」は現在、米国のテレビ局 Nickelodeon や Noggin を含め、世界中で放映されています。
子供のいない方のために説明すると、この番組には Magnus Scheving 演じる Sportacus 10 という「普通よりちょっとできのいいヒーロー」が登場して、ものぐさな Robbie Rotten (Stefan Karl Stefansson 演) と戦います。住人の Stephanie (Julianna Rose Mauriello 演) や新しい友達の Ziggy、Trixie、Stingy、Pixel が、ソファーに座り込んでジャンク フードを食べながらテレビを見るのではなく、外で活動させるようにしむけるのがその目的です。この番組は、明確なビジョンを持った、アイスランド出身のアスリート Magnus Scheving 氏の創案によるもので、子供たちに健全なライフスタイルを勧める一方で、楽しみながら学ぶ方法を取り入れています。この番組で Scheving 氏は主役を演じると同時に脚本を作成し、さらにほとんどのストーリーの監督も務めています。現在 103 か国で放映されているこの番組は、エミー賞に 3 回ノミネートされ、2005年には、英国の由緒ある BAFTA 賞において、「Best International Children’s Show」を受賞しています。
Le Gué 氏は、プロデューサー兼監督の仕事に加え、数十年間にわたって、3D コンピューター アニメーションやバーチャル テレビ、および映画制作技術の開発、製造、販売に携わっています。1985 年には ElectroGIG 社を創設し、ハイエンド 3D のモデリング、レンダリング、アニメーションのソフトウェア製品ラインを過去 10 年間製作してきました。1994年には、SIGGRAPH において、同社は業界最初のバーチャル セット システムを発売しています。1995年 ~ 2006年にかけては、リアルタイムのバーチャル テレビ番組制作の供給ルートおよびリアルタイムのモーション キャプチャとアニメーションの供給ルートの開拓と応用に注力し、実績ある強力なバーチャル制作アプローチや、XRGen1 ~ 4 と名付けられた四世代におよぶバーチャル テレビ番組制作システムとアーキテクチャを確立しました。
Le Gué 氏は、そのしくみを次のように説明しています。「実際のセットで背景に緑色のスクリーンを使用し、本物の俳優や人形から始めます。緑色のスクリーンは、UE3 を使って XRGen4 で制作したセットにリアルタイムで置き換えます。実際のセットで俳優やカメラを動かすと、背景のシーンも実際のカメラの動きに完全に同期してリアルタイムで動きます。これらのすべてが録画され、監督はリアルタイムでできあがった結果を観ることができるのです。このように監督は、実際のセットで得られる質の高さと自由を、わずかな費用で手にすることができる上、実際のセットと同じ複雑さを実現できるというわけです」
Le Gué 氏は、XRGen4 の技術を用いて、米国や世界 103 か国で放映されている LazyTown シリーズ 53 回のうち 18 回分で、Unreal Engine 3 をイメージ ジェネレーターとして使用してきました。
「バーチャル セットを制作してレンダリングするツール、UE3 は、当社のシステムの重要な一部となっています。これまでは、当社独自の専用レンダリング エンジンを使用していましたが、Epic Game 社のゲーム エンジンのパフォーマンスが我々のニーズに限りなく近づいてきているのを目にして、これは詳しく調査すべき価値があると確信しました」と Le Gué 氏は語ります。
氏によれば、このスタジオ施設によって、LazyTown のバーチャル環境や 3D の街並みを、実写の背景としてリアルタイムで、しかも高画質で作り出すことができるそうです。また、実際の俳優の後ろにある背景を指定するためには、Chromakey (緑色のスクリーン) 技術が使用されています。
「これは、合成したイメージが床面からあるということを意味しています。カメラやクレーンの動きは、センサーを通して XRGen4 ソフトウェアや UE3 ゲーム エンジンへと伝達されます。LazyTown のコンセプトやプロダクション デザインでは、この環境内でさまざまな場所を再現すると同時に、豊かな表現とバラエティー溢れる仕上がりが必要とされています。バーチャル セットを使用しなかったら、言い換えれば、当社のシステムや UE3 ゲーム エンジンなしには、このような結果は決して生まれなかったでしょう」と Le Gué 氏は説明します。
1 回のエピソードが 24 分間の LazyTown には、実写で既に合成してあるすべてのショット以外にも 400 ~ 600 の特撮ショットがあります。このようなテレビ番組の制作には、従来通りに撮影された番組以上に、より綿密な企画が必要になると Le Gué 氏は指摘します。つまり、どのショットも特撮ショットの候補となるのです。実写のままのものもあれば、撮影後に編集されるものもあります。実写の被写体の後ろにバーチャルの背景を組み合わせるという、極めて定型化された効果を狙うことは、あらゆるデザイン上の規則に影響を与えます。たとえば、バーチャルのセットと実際のセットはマッチしていなければならず、衣装と小道具もマッチしていなければなりません。また、すべてが高画質で撮影されることから、使用するどのような道具やマテリアルに対しても高い品質が要求されます。
しかし UE3 は、Le Gué 氏とそのチームに新たな道を開きました。メモリ内に多くのテクスチャを持つ非常に大規模なセットの HD 映像に、リアルタイムで自由なカメラの動きを同期させることができるようになったのです。
Le Gué 氏は、さらに次のように語ります。「UE3 エンジンを使用したのはこれが初めてでしたが、このように非常に要求の厳しい専門的な制作環境において、ゲーム エンジンを利用できたことを、非常にうれしく思います。次回作の制作では、UE3 のレンダリング品質の向上をさらに追求し、プロダクション デザインに活用していく予定でいます」
氏によれば、LazyTown に UE3 を使ったのはまったくの偶然で、 テレビ番組を制作するための新しいアプローチを常に探しており、特にファンタジーやドラマのジャンルと、バラエティ番組のジャンルでそれを求めていたとのことです。
また氏は次のようにも述べています。「バラエティ番組の構成を担当している私の妻が、『Game Developers Conference』で Epic Game 社とコンタクトを取ったことから、Unreal Engine を番組に使う可能性を探り始めました。ちょうどその時、私は、バーチャル セットの豊富な経験をもとに LazyTown のエグゼクティブ プロデューサー兼監督をしないか、と持ちかけられていたのです。その約 1 年後、LazyTown の特撮担当者が Unreal ゲーム エンジンにバーチャル セットの一部を取り込みました。それを見て、番組の第 2 シーズンに UE3 を活用する可能性について調査すべきだと考えたのです。運よく当社には、既に独自の XRGen3 技術があったため、レンダリングのコアを取り替えるだけで、UE3 を搭載した XRGen4 が完成しました」
Le Gué 氏は、LazyTown を経て、現在では XRGen4 と UE3 のバーチャル セットをさらに活用した独自の映画作品を制作しています。ハリウッドで UE3 技術が採用されれば、映画業界やテレビ業界に大きな影響を及ぼすことになるだろうと、氏は考えています。
同氏は今後について次のように予想します。「このテクノロジーは、ハリウッドだけでなく世界中の独立系プロデューサーにも道を開くことになるでしょう。映画『300 (スリーハンドレッド)』の制作技術や手法は、我々が LazyTown の制作に採用したものと同じものであり、基本的なハードウェア プラットフォームはビデオゲーム メーカーが使用しているものとおおむね同じものだということがわかれば、そこから先は明らかです。影響はあらゆるところに及び、さらなる推進力となって、HD に続くものへと、また映画、テレビ、そしてゲームのさらなる融合へと発展することでしょう」
Le Gué 氏は、「300」とそのゲーム的影響を、特撮の基準となった「ジュラシック パーク」や「ターミネーター 2」などの映画と比較しています。同氏によれば、UE3 のおかげもあって、この技術を活用しているハリウッドや世界中のクリエイターは、こうしたトレンドの最前線にいるのです。