テキサス州ダラス発 - 世界的にも有名な大手建築事務所 HKS 社は、スポーツ スタジアム、豪華ホテル、最新設備の病院を設計するアプローチに、静かな革命をもたらしています。同社は先日、Epic Games 社とライセンス契約を結び、Unreal Engine 3 を同社の開発プロセスに導入、スポーツ アリーナや最先端のビルの建設に数十億ドルを投入するクライアントに対して、最終的な構造がどのようなものになるのかをリアルタイムに 3D で確認できるようにしました。
建築事務所のほとんどが、未だに最終の建造物を構想するには想像力以上のものを要する 2D の設計図を描いている中で、HKS 社では、4 名の建築家が専任で UE3 を活用して、同社の年間作業全体の三分の一 (約 300 件のプロジェクトのうち 60 件) を実物そっくりの見事な 3D で表現しています。
HKS 社のプリンシパル兼上席副社長 Bryan Trubey 氏は次のように述べます。「現在 Unreal を用いて行っていることと、以前にクライアントのプロジェクトを説明していた方法とでは、比較になりません。それは、T 型フォードとスペースシャトルを比較するようなものです。実にまとまった形で非常に多くのことを表現することができるため、クライアントは何ができあがっていくのか、また建物が完成した後、その空間が、中に入った人々にどのようなメッセージを与えることになるのか理解することができるのです。本当に、Unreal の技術ほどこれを効果的に実施する方法は他にありません」
ダラスのダウンタウンにあるおしゃれな W ホテルを実際に訪れた人が経験したことは、HKS 社が Unreal の技術を用いてホテルとその周囲の景観のモデルを作成した時に W ホテルの親会社が目にしたものと、寸分の違いもありません。ダラス カウボーイズ (NFL のチーム) のファンは、10 億ドルの予算をかけた Jerry Jones 氏のスタジアムがオープンするまで数年間待たなければなりませんが、Unreal Engine のおかげで、HKS 社内では、すでにそれは現実のものとなっています。2009年にオープンしたインディアナポリス コルツ (NFL のチーム) の 5 億ドルのスタジアムや、現在計画段階にあるイギリス、リバプールのサッカー競技場も全く同様です。
「Unreal の技術は、カウボーイズやコルツ、またリバプールのプロジェクトを売り込んでいく上で実に役に立ちました。Epic Game 社の技術によって、プレゼンテーションで建造物を実物のように見せることができる、アニメーションやウォークスルーを開発することができました」と Trubey 氏は語っています。
2D の建築の世界から、ゲームの 3D の領域へという革新的な決断をした立役者は、HKS 社のプリンシパル兼 CIO である Dave Chauviere 氏と、最新技術部門のマネージャー Pat Carmichael 氏です。両者とも、実は最初に id Software 社の Quake II エンジンを使って設計を実物のように見せようと試みましたが、このテクノロジーでは、目的を果たすことはできませんでした。
Chauviere 氏は、しばらくの間、かつて 1997 年に息子の Ted 君がクリスマス プレゼントとしてもらった Quake II を使って、豪華なダラスの本社を何とか 3D モデルにしようと試みました。
「このビルにドア、窓、壁をすべて入れたところで、Quake II が機能停止してしまいました。Quake II は、それほどたくさんのポリゴンを処理できなかったのです。ビルの外観は、まるで核爆弾に爆破された直後のようでしたし、 カスタマイズ可能な環境がなかったため、赤みがかった色あいになっていました。ゲーム技術を建築に導入する挑戦をしたのは、これが初めてでした」と Chauviere 氏は説明します。
Chauviere 氏は、親子共同で自宅のコンピューターを新しい Voodoo カードとマザーボードでカスタマイズした後、1998 年に Unreal を購入し、試してみることにしました。
「Quake II エンジンと Unreal エンジンの違いは歴然としていました。Quake II では、HKS ビルの照明のレンダリングだけに 17 時間もかかったため、まったく実用的ではありませんでした。一方 Unreal Editor は、それとは比べものにならない速さでした」
Autodesk 3DS Max でレンダリングしたものと同じジオメトリを Unreal Engine で使用したところ、グラフィックの精細さで 90% を達成できただけでなく、速度を比較するとまさに一瞬の出来事だった、と Carmichael 氏は述べています。Unreal は 1 時間に 10,364 コマをレンダリングしてディスクに書き込みますが、3DS Max では 1 時間にひとコマしかできませんでした。リアルタイムのウォークスルーは 1 秒間に 30 コマ近くで動きますが、3DS Max はレンダリングにコマ当たりおよそ 1 時間もかかります。この違いは、まさに革新的と言えます。
この点について Carmichael 氏は、次のように語っています。「Unreal が私たち建築家に教えてくれた世界は桁違いなものであり、驚異的でした。建築家は、すべての窓やドアを開閉可能にしたいと考え、またすべてのドライブウェイも正確に表現したいと思うものです。また、コンピューター画面の前にカラー サンプルを合わせて、配色がすべて正確になるようにしました。設定の日時や、場所の陰影に対する光の角度までも正確でなければならないのです」
Epic Game 社の Unreal 技術の進化に合わせて、HKS 社では同社独自のカスタム ツールの開発を継続しています。これによって社内チームが同社の建築プロジェクトの 3D モデルを UE3 の世界にシームレスに変換することが可能となり、テクスチャや照明を正確に表現することができるようになりました。今後 18 ~ 24 か月の内に、同社では新規の Autodesk REVIT テクノロジー (3D モデルを 2D 画像に変換するソフトウェア) を全プロジェクトに統合し、UE3 は、あらゆる建築物においてリアルタイムのビジュアル化に使用されることになる、と Carmichael 氏は述べています。
今後数か月間にわたって、HKS 社の従業員 10 名が UE3 技術を使用します。その目標は、2 年以内に、200 名の設計プレゼンター全員がプレゼンテーションで UE3 を使用できるようになることだ、と Carmichael 氏は言います。HKS 社は、現在 PC Express 2 を導入すべく NVIDIA 社や Intel 社と協力しており、これによって Carmichael 氏のチームは、複雑な建築物をリアルに再現するためのシステム メモリとビデオ メモリを獲得できることになります。
「建築家は、建築物のあらゆるディテールを可能な限り正確に、実際の状況に近づけようとします。一般的な建築物には何千もの表面があり、特に HKS 社が扱う建築物の規模では、このような状況が多く発生します。こうした状況では、多くの異なるテクスチャを持つ表面をシミュレーションしなければならず、それには大きな労力が必要です」と Carmichael 氏は述べています。