ハイレベルなファッションの世界では、安全で慣れ親しんだものよりも、大胆で魅惑的なもののほうがしばしば重視されます。ファッションの世界は、本質的にビジュアル主体であり、意外性のあるものです。だから、Reed + Rader という創造性豊かなチームが、独自にアンリアル・エンジン 3 を利用することによって、古いサーカスをモチーフとした見事なファッション映像『Brave New World』をどのように制作したのか理解することはとても楽しいことです。Pamela Reed 氏と Matthew Rader 氏の二人から成るチームは、『V Magazine』誌と密接に協力してこのプロジェクトを進めました。
「ゲームという言葉は、普通、悪人の頭を撃ち抜くといった固定観念で捉えられるため、ゲームのテクノロジーがさまざまな場面でさまざまな機能のために使用されることが分かると驚く方もいます。私たちはこれまで、あたかもアンリアル・エンジン大使として、通常のアートとファッション世界のプロジェクトに携わってきました」と Reed 氏は述べています。
遊び心に満ちたフライスルーのツアーでは、ルイヴィトン、クリスチャン・ディオール、ジル・スチュアート、ヴィヴィアン・ウエストウッド、ドルチェ&ガッバーナなどのファッション・ブランドが紹介されています。
「私たちは、ユーザーが歩き回ったりキャラクターに出会うことができる世界を作り上げたいと思っていましたが、それがどのようなものになるのかは、はっきりしていませんでした」と Reed 氏は言います。「複数のアイデアがありましたが、昔ながらのサーカスというアイデアが話に上った時には、他のことはもう考えられなくなりました。サーカスこそ求めているものでした。私たちはサーカスの出演者やポスターについて調べてみました。それがサーカスの世界への入り口となったのです」
チームは、ファッション・スタイリストやヘア・スタイリスト、メーキャップ・アーティスト、作曲家などの才能を駆使して、『Brave New World』に生命を吹き込みましたが、3D や写真撮影、アンリアル・デベロップメント・キット(UDK) に関係するすべてのことがらを実行したのは、Pamela 氏と Matthew 氏でした。「私たちはこのプロジェクトで多くの役割を受け持ちました。監督、モデリング、ライティング、環境、アニメーション、テクスチャ・アートなどです」と Reed 氏は言います。
「Matthew は、最初の『Unreal』時代から、アンリアル・エンジンを使ってレベル・デザインを楽しんできました。子供の頃からあのエディタには馴染みがあるのです。もっともその頃から、アンリアル・エンジンを使うアーティストになるなどとは夢にも考えてはいませんでしたが」と Reed 氏が言います。「最近、UDK を使って、アニメーション GIF と映像作品のための環境を構築し始めたところです。この環境は固定視点によるものですが、『Brave New World』によってまったく異なるレベルへと進むことができました」
二人は、プロジェクトに写真のようなリアリティを必要としていました。それには、アンリアル・エンジンのライティングと容易なスクリプトが『Brave New World』に正に最適であると思われました。二人はまず簡単なテストを二つ行いました。映像テクスチャを UDK にインポートできるかどうか。それから、キャラクター・アセットのために一定レベル以上の写真的クオリティを保てるかどうかを確認したのです。このテストには、マッチ・ムーブ・テストが含まれていたため、現実世界のカメラの動きをアンリアルのマチネに導入することによってバーチャルのカメラを補うことができることも確かめられました。
Reed 氏は次のように説明してくれました。「次のステップでは、キャラクターがどのような人物であり、どのような外見にすべきかをスタイリストと綿密に話し合いました。試作後には、緑のスクリーンをバックにしてキャラクターすべての撮影を行いました。さらに、背景を取り除いて、キャラクターを映像素材として UDK にインポートしました。3D コンテンツの約 60% は、Maya と Photoshop で私たちがゼロから創りだしたものです。残りは、さまざまなコンテンツ・ライブラリやオープン・ソースのリソースから集めた既成のアセットです」
「ライティング、カメラの動き、パーティクル・エフェクトはすべて、エンジン内で実装しました。ポストプロセス・エフェクトとカラー・グレーディングだけは After Effects で作成しました。最後のステップは、すべてのフレームを 4K 解像度でレンダリングして書き出すことでした。その後、音響専門の人たちに加わってもらい、音楽やビート、ボイス・オーバーをつけてもらい、Premiere で仕上げをしてネット上にアップロードしました」
二人は制作の過程で非常に高解像度のテクスチャを扱うことになると気が付きました。出来上がりがリアルタイムの環境ではなくレンダリングされた映像になることを念頭に入れて、岩や小石といった景観などのディテールにこだわりました。その際、ある種のパフォーマンスがある時点で低下することも予測されましたが、「最後まで UDK は持ちこたえて、破滅的なパフォーマンスの低下は一度も起こりませんでした」と Reed 氏は話してくれました。
アンリアル・エンジンのツールのうちで最も役立ったものは何かという質問に対して、Reed 氏と Rad 氏は、マチネのタイムラインがとても扱いやすかったと答えています。さらに、コーディングに関する専門知識がなくても、キズメットのビジュアルが、極めて直感的に操作できたと答えてくれました。
二人は UDK のコミュニティによるサポートが極めて役に立ったと考えています。特に、フォーラムが役立ったようです。オパシティ・チャンネルとマテリアル・ブレンド・モードについて切迫した問題が生じた時にも、ある開発者が深夜に Skype で対応してくれたことについても二人は語ってくれました。他にも、3D Buzz のチュートリアルとコミュニティのリーダーによる YouTube のビデオが素晴らしいリソースであることが分かったということです。
Reed 氏と Rader 氏は、これからも仕事にアンリアル・エンジンのテクノロジーを使用する予定です。たくさんの可能性が潜んでいると楽しみにしています。「私たちの仕事はいつもコンピュータ・ゲームからインスピレーションを得てきました。ですから、これまでいつも、実際にゲーム・エンジンを仕事にそのまま使ってみるということに関心があったのです」と Reed 氏は述べています。「私たちはアニメーション GIF とアニメーション・ビデオで知られていますが、他の人たちからは、単に見るだけではなくその世界に『存在』してみたいと常々言われてきました。私たちは、ゲーム・エンジンを利用してインタラクティブな環境を構築することによって、その方向に進み始めたのです」
この創造性に富む二人に関する最新情報を得るには、Twitter の @reedandrader をフォローしてください。